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33話 星崩しの極光

「勇一。()()撃ってみない?」


シノアは、いてて、と脇腹を押さえながらニヤリと笑っている。


アレ。


恐らく昨日ホテルで勇一が発動させようとしたあの魔法の事だろう。


だが、


「すまない、昨日はその、なんか行けそうな気がしたんだけど、こっちにきてから魔法が使えないんだ」


肩を落とし、告げる。


「俺は……ここでは何もできない」


高位魔法を乱発し、カファルを相手取りながら勇一に迫る魔法を打ち消すなど、かなりのタスクをこなしているシノアに比べ、自分は魔獣のひと殴りでボロボロだ。




「__大丈夫。出来るよ」




強く握った勇一の手を、シノアがそっと取った。


ポゥ__と、握った手が優しく光を帯びる。


魔族のものとは思えない、暖かい魔力が流れ込んできた。


「私の魔力、少し使って。私はこの世界でも魔法を使えてるから。もしかしたら相性が良いのかも」

「でも、そんなことをしたらお前の魔力が!」


あれだけの魔法を撃ち続けていたから、おそらく残量は半分を切っているはず。


それでもお構いなしに魔力が流れてくる。


「あっ」


ぴょこん。

と、シノアの頭に猫耳がはえてきた。

案の定、人型を保てる限界が近づいているようだ。


「勇一。試してダメなら、それで良い。次を考える。だから、一回やってみよう」


シノアの目には、力強い光があった。


(元勇者として、このまま引き下がる事は許されないな…)


幸い、魔獣は移動がメインで、特に向こうから積極的に攻撃を仕掛けてくるタイプではなさそうだ。


となると、シノアがカファルを魔法の応酬で釘付けにしている間に、まとめて葬れる最高位魔法の詠唱は十分可能だ。


「わかった」

「…!」


シノアの表情がパッと明るくなる。


「よし!じゃあ私は限界までカファルに魔法を撃ち続けるから、その間に勇一は詠唱を」

「…わかった」


シノアが魔法を解く。


二人を守っていたドームが霧となって消えた。


「おやおや、これは。随分と可愛らしいお姿になりましたね、魔王様」


カファルは特に何をするでもなく、こちらが動くのを待っていたようだ。

先ほども勇一を背中から攻撃はしなかったし、それなりに紳士的なのだろう。


黒龍の重鱗アッゲ・ラグマ・ヴァイツ


シノアは返事せず、カファルから勇一を隠すように防壁を展開した。

三重の重厚な盾だ。


『勇一』

「………」コクリ


勇一は一度頷くと、右手を左肩に添え、左腕をまっすぐ伸ばして構える。



__天地創造の光あり 此れ万象を原初へ還す 絶大なる威光 遍く世界を照らす慈愛の御手は 終焉の時を刻む極致へと至る 顕現せよ ___



そして静かに、階梯にして七。

光属性極大魔法の詠唱を始めた。


防護壁の向こう側からは、絶え間なく魔法による光と轟音が伝わってくる。



___逃れ得ぬ絶界の檻 万物概念に至る一切を白銀の無へと昇華せしむ 抗い叶わぬ神の裁断 因果を断ち切り 恒久の静寂を与えん ___



突然、先程までとは桁違いの衝撃が響いた。

カファルが放った水魔が、三枚ある防護壁の内一枚を吹き飛ばし、二枚目に深く突き刺さった音だ。



___見よ 天蓋を覆う幾億の眩耀(げんよう) 数多の天体を平伏せしめる絶大の(ことわり) 久遠の闇を照らす光は 星の核をも打ち砕く ___



黒魔の光が見えることから、シノアがまだ戦い続けていることがわかる。

どこまで猫化しているかはわからないが。



__果てよ潰えよ無に帰せよ 星を貫き命を絶つ 今解き放つは 至極の極光 ___



二枚目の防護壁が砕け散った。


身体の中心で、シノアの魔力が混ざり合い、渦巻き、熱を帯びる。


撃てる。

そう確信した勇一。


詠唱はいよいよ結びの句に入る。



__神罰の一閃 因果を断ち切り 果てなき虚無へと還元せよ __!!



構えた左腕から、カファルを狙うように白銀の魔法陣が五重に具現して空中に展開された。



「シノア!!!」

「!」


勇一の合図で、シノアが残り一枚の防壁を解除する。

遮るものがなくなり、カファルと勇一の視線が重なった。


魔法陣の中央が、カファルを真っ直ぐ捉えている。


「…?!拒絶の水鏡クイント・ヴォルテクス・ルシェ!!」


カファルは、すぐさま自身を中心とした五重防護魔法を展開する。



(消し飛べ!!!!!)



___崩星の極光イクスターミナル・ノヴァ!!!



勇一の左手から先の空間がぐにゃりと歪む。


直後、全ての音が消失。


そして、魔法を放った勇一、少し離れた場所で見るシノア、魔法が撃ち抜かんとする先にいるカファル。


三人の視界が白光で塗りつぶされた。


世界中のありとあらゆる電灯をすべて集めて同時に発光させても、この眩さには到底敵わないだろう。


数瞬遅れ、すさまじい衝撃波と轟音が砂浜を突き抜ける。



__超新星爆発。

長い長い、星が歩む旅の最後を飾る大爆発。


その極大の破壊力を凝縮し、解き放つ。

五重の防護壁()()で防げるような代物ではなかった。


「…?!馬鹿なっ!!!」


勇一の魔法を受けたカファルの防護壁は、一枚、二枚とほんの数秒で爆散していく。


カファルは最後の一枚に全魔力を注いで相殺を図るが、艦砲射撃を空気銃で迎え撃つようなものだった。


「お…おおお…おおおおおおおお!!!」


ついに、カファルと魔獣が白光に飲み込まれる。


白光はそのまま雲を貫き、一筋の光となって空の彼方に伸びて行った。


光が消える頃、砂浜に残るのは魔法の熱で蒸発した海水の蒸気と、勇一とシノアの二人だけだった。


「………ふぅぅぅぅ」


勇一は大きく息を吐き、その場に仰向けに倒れ込んだ。


魔力焼けで左手の平がひりひりする。


ほとんどの魔力を使い果たしたのか、足に力が入らない。


『勇一ぃぃぃぃ!!!!!』


シノアが駆け寄ってきて、倒れ込んでいる勇一に飛び込んできた。


「ん…?」


感触がやけに軽い。


顔を上げて胸元に目を向けると、傷だらけのヤモリがしがみついていた。


『すごい!撃てた!すごいよ勇一!!!』


目をうるうるさせ、顔を胸元に擦り付けながら、興奮した様子だ。


やはり、というか案の定魔力を使い果たし、人型を保てなくなってしまったようだ。


あれだけの魔法の応酬を続けた上、勇一にかなりの魔力を渡しているから、仕方ない。


ヤモリの姿だと消費魔力が少なくて済むと言っていたから、これが一番安定した形なのだろう。



しかし_



「お前…左腕はどうした…?!」


よく見ると、しがみつくヤモリは左肩あたりから先がない。


『え?あー。あはは…ちょっとね』


勇一が詠唱をしている途中に届いたすさまじい衝撃。

あの時にカファルが放った魔法は、第()階梯水魔。


たとえ三重になっていようとシノアが展開していた第四階梯の防護壁では、到底防ぐことができない。


ではなぜ二枚目を貫いたところで止まったのか。


『魔力をだいぶ使ってキツイなぁ、って思ってた矢先にいきなり詠唱始めたからさ。びっくりしちゃって』


三重防壁では防げないと瞬時に判断したシノアは、何も考えずに魔力全振りの身体強化を施して水魔の軌道上に滑り込んだらしい。


当然、第六階梯魔法をシノアの手で受け止められるはずもなく…。


『左腕が…ちょっと見せられないことになってしまいまして…』


ニヘっと笑って見せるが、かなり疲労というか、身も心もダメージを負っているようだった。


「無茶をして……」


命に別状はないようなので、少し安心した勇一が指先でヤモリシノアの頭をクリクリと軽くなでると、心地よさそうに目を閉じている。


「腕は生えてくるのか?」

『今は魔力がなくてそのままだけど、回復したら直すから大丈夫』


シノアは目を閉じたまま、残った右手でVサインを作って見せた。


「そうか、なら、良かった…」


ヤモリシノアの頭をさすりながら勇一も目を閉じた。


「……カファル、と言ったか?あんな奴が今後また来るんだろうか」

『わからない。魔将はカファル含めて五人いて、一応カファルが一番好戦的ではあったけど』


今回は人気の少ない夜間に襲撃してきたからよかったものの、昼間だったり街中だったらと考えると、立ち回りも変わってくるし、警戒しておいた方が良いかもしれない。


「魔法も少しずつ練習しないとな」


もしかしたら練習すればシノアの魔力なしで撃てるようになるかもしれない。

そうすれば、もっと二人で協力して戦えるはずだ。


『うん、とことん付き合うよ』


いずれは失われた聖剣も取り戻したい。


__だが、まずは休息だ。



手足の力を抜き、だらんと大の字になった勇一が目を閉じると、すぐ寝息を立て始めた。


それを見たシノアも丸くなって目を閉じる。


砂浜には、先ほど死闘が繰り広げられたとは思えない程、穏やかな空気が流れている。


人知れず世界を守った二人の()()は、静かに夢の世界へと旅立とうとしていた。



『……何か忘れてる気がするけど、まぁいいか』



______



「ほんっっとにいつも!あぁなんですよあいつは!!」

「うん、そうだね、よくないね」

「ちょっとぉ〜。あきやまぶちょー!!ちゃんときいてますかぁ??」

「えぇ。聞いてますとも聞いてますとも」


古民家居酒屋の一角。


勇一とシノアが忽然と姿を消してから、およそ一時間とちょっと。


すっかり酒に飲まれた陽菜に盛大に絡まれ、引き攣った笑顔を貼り付けながら、秋山はちびちびと泡盛を飲んでいる。


「いや!きになってるとか!!そんなんじゃないれすからね!!あんなやつ!!」

「えぇ、わかってますともわかってますとも」


顔を真っ赤にして、回らない呂律で勇一への文句を並べながら、陽菜はなおも酎ハイを流し込む。


「あの、その辺にしておいた方が……」


見かねた秋山が宥めると、


「あぁ、そうれすね。そろそろここをでないとですね」

「よし!店員さん!お会計お願いします!!」


秋山がすぐに店員を呼び、速やかに会計を済まして店を出ると、ガシッと陽菜に首根っこを掴まれた。


「黒瀬さん…?」

「え、何帰ろうとしてるんですか?二件目行きますよ」

「ええぇ……」


タクシーに陽菜を叩き込めばようやく解放されると思っていた秋山は、絶望に顔を歪め、謎の馬鹿力を発揮した陽菜になすすべもなく引き摺られていく。



「こ、紺野ぉぉぉぉぉ!!志野ちゃぁぁぁぁん!!どこ行ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



秋山の叫びは、勇一たちが寝ている砂浜を超え、静かに揺れる海へと消えていった。



海魔将カファル

魔国の海洋国家を統べる魔族。

魔力総量は少ないが多種多様な水魔を操る。


通行料を納めれば人間族の船も自領海域の航行を許可する柔軟な一面も。

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