表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/40

28話 おじゃましました

ホテルに着くと、まずは幹事から部屋割りの説明があった。

基本的には二人部屋に普段かかわりの少ない人同士が入るようだが、なぜか勇一は秋山と同室だった。


ルームキーを受け取ると、各々荷物を持って移動していく。

夕食まで自由時間の為、プールに行こうだの散策しようだのといった声があちこちから聞こえてくる。


「よし、俺たちも行くか」


勇一も秋山について移動する。

七階の海側、オーシャンビューの部屋のようだ。


部屋に着いてカーテンを開けると、夕日に照らされたエメラルドグリーンの海が視界一杯に飛び込んできた。

ベランダに出ることもできるらしく、早速外に出る。


「うーん、気持ちいいですね」

「だなぁ」プシュ

「…早速ですか」


海風に当たりながら、秋山は早速缶ビールの良い音を響かせる。


「なぁ、プールにひと泳ぎしにいかないか?飛行機やバスでちょっと体が鈍っててさ」


ごくごくと気持ちよく喉を鳴らした後、秋山が勇一をプールに誘った。


「良いですね。ご一緒します」

「おっ、じゃあ着替えてさっさと行っちまおう」


返答を聞いた秋山はぐいっとビールを飲み干すと、部屋へ戻り水着に着替え始めた。


制服や服の上からはわからないが、かなり筋肉質で、深く刻まれた腹筋につい目が行ってしまう。


(…王城の衛士隊長並みに鍛えられてるな)


勇一もキャリーケースから水着を取り出し、着替える。

こちらも負けず劣らずの良く鍛えられた身体だ。


そんな勇一をちらりと見やった秋山が一言。


「ふむ。なかなかの聖剣エクスカリバーをお持ちだな」

「?!(何故秋山さんが聖剣のことを)」


思わず大声を出しそうになったが、コホンと一つ咳ばらいをし、水着を腰に上げながら冷静に答える。


「確かに、私には勿体無いほどの立派な剣でした。()()()()()で折れてしまいましたが」

「最後の、()()で……おっ、折れただと…?!」


秋山は青ざめ、沈痛な面持ちで(下半身に)目を落とした。


「えぇ。ですから今は聖気(せいりょく)を込めても顕現しません」

()()を込めても、顕現しない…!?」


いよいよ秋山は涙目になり、慮るような、そんな表情で勇一を見ている。


(聖剣を失ったこと、ここまで同情してくれるとは……)


「まぁ少し心許なくはありますが、剣を使うことはもうないですし。これで良いかなって」

「もういい!!!もういい紺野……。スマン。大変だったな」


勇一の言葉を遮り、両肩を掴んできた秋山は涙している。


「そんな、泣かないで下さいよ。私は今、幸せに過ごしていますから」

「いっぱい楽しいことしような!!」

「……?えぇ、楽しみにしています?」


着替え終わった二人は、上にシャツを着て部屋を出て行く。


ドアが閉まると、勇一のベッドの下からヤモリがちょろりと顔をのぞかせた。


ヤモリがキョロキョロと辺りを見渡した後、「ボフ」という音と黒い靄と共に美しい黒髪の女がベッドの上に出現する。


「なーーーんか、盛大なすれ違いが起きてた気がするなぁ」


二人のやり取りを聞き盛大な溜息を吐くシノア。

凝った肩をほぐすようにベッドの上で大きく伸びをした。


「あっ」


身体をふかふかの布団に沈めながら、にやりといたずらな笑みを浮かべる。


「ニヒヒ…いいこと考えたっと♪」


___



プールは、流れるプールなどがあるリゾートエリアと、二十五メートルレーンのトレーニングエリアに分かれており、勇一と秋山はトレーニングエリアで汗を流していた。


勇一は十往復目を終えるとはしごでプールから上がり、プールサイドのベンチに腰かけた。


秋山はまだ続けて泳いでいる。


あらかじめ買っておいたスポーツドリンクを口に含むと、じわりと身体に水分が行き渡る。


「ふぅ……」


「お疲れ~。せっかくのホテルなのにガチ水泳じゃん」


一息ついた勇一に笑いながら話しかけてきたのは陽菜。

隣に腰掛けてきた。


プール周辺を散歩していると女子たちの黄色い声が聞こえてきたものだから、何事かと思って覗いてみると、勇一と秋山がガッツリ泳いでいるのが目に入ったというわけだ。


「黒瀬さんは入らないんですか?」

「うーん、入りたいんだけど女子はパッと入ってサッと上がるわけにいかんからねぇ」


腕を組み、わざとらしく悩ましい表情を浮かべる陽菜。

確かに、着替えて髪を乾かして等を考えると、夕食まで時間のゆとりがないかもしれない。


「なるほど。すみません」

「ううん、いいんだよ。私もご飯の後ナイトプールには行くしね」


プールは夜間も開いており、その時は全体がライトアップされているようだ。



「……こっ、紺野君も、一緒に行かない?」


陽菜は前髪を指でくるくるして視線を自分の膝に向けたまま、顔を真っ赤にして小さな声で言う。

(前はもっと気軽に「ボウリング行こー!」とか言えてたのに、なんだかおかしい)


早くなった鼓動を抑えながら、返答を促すように勇一の方へ顔を向けると、


「夜は多目的室で老人会主催の地域民謡教室とやらがあるそうなので、そちらに行きます。ナイトプール楽しんでください」

「あっ、ハイ……」


負けた?老人会に?我、一応女子ぞ?女子とプールぞ?おのれ本当に男子か?え?


と、灰色のオーラを纏って何やらブツブツ呟いている陽菜をほったらかしにして、勇一は腕時計を指し示しながら、いまだ泳ぎ続けている秋山に声をかける。


「秋山さん!そろそろ!」

「おー!出るわ!」


丁度折り返し地点にいた秋山は、そのままプールから上がってきた。

勇一は秋山にスポーツドリンクを差し出す。


「おっ、サンキュ」


うへぇ、眼福眼福…

あれはどっちが…

筋肉やばぁ…


その様子に、プールサイドの女子たちから再び黄色い(?)声が上がった。


「__では黒瀬さん、後ほど」

「………ハイ」


灰色のオーラを纏ったままの陽菜に声をかけ、秋山と共に更衣室へ。


「お前、黒瀬になんかやったのか?」


燃え尽きたような陽菜に、さすがに秋山は何か感ずるものがあったらしい。

シャワーを浴びながら勇一に聞いてみた。


「特に何も?」

「ふーん…」


それ以上は追及しなかったが、おおかたラウンジで飲まないか?とか誘ったけど、にべもなく断られたってとこかな。と勝手に結論付け、頭の中で陽菜に同情しつつシャワーを続けた。


着替え終えた二人が部屋に戻る途中、秋山が四階フロアで洗濯ついでに氷を持って帰ると自販機コーナーへ行ったため、勇一は先に部屋に戻った。


「シノア?いるか?」

『おなかすいた』


ベッドの下からちょろりとヤモリが出てきて、廊下側の通路の真ん中で腰に手を当てて立ち、ムスッとした表情で勇一を見上げている。


「すまない。案外本格的なプールでつい泳ぎすぎてしまって。夕食の時に頃合いを見て食べ物を持ってくるから、もう少し待ってくれ」

『いやだ!我慢できない!私も連れて行け!』


よほどおなかがすいているのか、シノアは足をばたつかせて駄々をこねている。


「そんなことできるわけないだろう?我慢してくれ」

『会場に連れて行ってくれさえしたら別席で大人しく食べるから!!』


(なんだこいつやけに食い下がってきて、何を企んでいる?)


と、勇一が思ったその時だった。


『いまだっ!』


黒い靄がヤモリシノアを包み、急速に膨れ上がる。


「なっ?!お前!!」


制止しようとしたが、時すでに遅し。

パッと靄が晴れると一糸纏わぬ姿のシノアが手を広げてにやりと笑みを浮かべている。


「えぇ?!はぁ?!」


さらに悪いことは重なる。


___ガチャリ


玄関ドアの錠が開く音がした。

普段の勇一なら瞬きをする間に玄関ドアを押さえに行くだろう。


しかし、目の前で起きたあまりの光景に気を取られて反応が一瞬遅れ、その一瞬が致命傷だった。


「いやぁ、意外と洗濯コーナーが混んでて、時…間……が………ぁ?…ぅぇ?」


ドアを開け、苦笑いを浮かべて入ってきたのは秋山。

驚愕の表情を顔面に張り付け、ドアノブを握って固まっている。


秋山の目には赤面して焦っている勇一と、白い肌を晒した女性の後ろ姿が焼き付いていることだろう。


「……………おっ、おじゃましましたぁ!!!!!!!」


バタン!!!と大きな音を立て、秋山は廊下へ去っていった。


「なーーーーーっはっはっ!!!見たか勇一!秋山の顔を!!」


シノアは「いたずら大成功!」と言わんばかりの勢いでおなかを抱えて大笑いしている。


「__天地創造の光あり 此れ万象を原初へ還す絶大なる威光 遍く世界を照らす慈愛の御手は 終焉の時を刻む極致へ至る 顕現せよ逃れ得ぬ絶界の檻 万物命脈存在概念に至る一切を白銀の無へと昇華せしめん 抗い叶わぬ神の裁断 因果を断ち切り恒久の静寂を…」

「わぁぁぁ!待て待て待て待て!なにその長ったらしい詠唱!?」


勇一は髪を逆立て、とんでもない早口で光属性極大魔法の詠唱を紡ぐ。

そんなもの撃たれたらひとたまりもないと、慌ててシノアが止める。


「思えば、貴様に慈悲を与えたのが我が人生最大の汚点だったように思う」


血涙を流し、勇者の物とは思えないほどの禍々しい魔力が渦を巻く。


「この世界で魔法は使えなかったが、今なら撃てる気がする。__抗い叶わぬ神の裁断 因果を断ち切り恒久の静寂を…」

「さっ、先に誤解を解いた方が良いのでは?!」


詠唱を再開しようとした勇一に苦し紛れにシノアが投げた言葉が功を奏した。

勇一がぴたりと動きを止め、渦巻いていた魔力の奔流を静かになった。


「そうだな。塵芥の掃除はいつでもできる。優先順位を見誤るところだった」


フッ。と、勇一の姿が消えた。

秋山を追ったのだろう。


(やばいやばいやばいブチ切れだ。逃げなきゃ殺される)


シノアがヤモリの姿に戻って逃げようと魔法を構築した瞬間、ハイライトが消えた目を見開いて荒く息を吐く勇一に、横から首を掴まれていた。


「ひゅっ…」

「少しでも部屋から出てみろ。お前を構成する細胞六十兆全て、ひとつ残らずこの世とオサラバすることになるぞ」

「…………」コクコク


あまりの恐ろしさに、真横にある勇一の顔を直視できず、正面を向いたまま何度も首肯した。

大粒の汗と涙が、床に点々とシミを作る。


そして、今度こそ勇一は秋山を追ってその姿を消す。

部屋には、扉が閉まる音だけが響いた。


______



(ばかな…俺が戻るまでのこんな短時間で?え?プールで引っ掛けたとか?あの子は誰?いやそもそも折れ…え?)


廊下を早足で歩きながら、さっき見た光景が頭の中でリフレインする。

現実か幻か、秋山は扉の前を行ったり来たりしている。


「違うんです秋山さん」

「どわぁ!!!!びっくりしたぁ!!!」


突然目の前に現れた勇一に驚き、つい大声を発してしまった。

廊下に声を響き渡らせた気まずさから、シーンとした廊下で二人が対面する。


「あ、あの」

「いや、いいんだ紺野。お前も男子だからな。それに、使えなくてもまぁ、楽しめることはあるしな。うん。添い寝したりするだけでもな。うん」


落ち着いて勇一の男子の部分を尊重しようとする秋山だが、内心焦りまくってて何を言ったら良いのかわからなくなっている。


「違うんです!!」

「!」


しどろもどろに言葉を吐き出し続けるbotと化した秋山を勇一が遮った。


「あれは、幻です」

「…………は?」


あからさまに怪訝な表情を浮かべた秋山を部屋に連れ戻す。

部屋に先程の少女の姿はどこにもなかった。


「え?あれ?だってさっき確かに」


扉をずっと見ていたから誰も出てきていないことはわかっている。

布団をめくって見たり、カーテンの裏、ベランダを見ても誰もいない。


「いや、しかし、あれは絶対…」


部屋を隅々までチェックして、それでもなおブツブツと顎に手を当てて逡巡している秋山に、ついに勇一が手を下す。


「(シノア。できるよな?)」

『…………』


返事はない。


「(やれ)」

『……はい』


語気を強めると、ベッドの下から微弱な魔力が放たれ、秋山の耳に吸い込まれて行った。


「はにゃ??うにゃにゃなyなlhづいklwん・l;vhgぃ」


秋山は謎の音を発しながら、首を左右にくにゃくにゃと曲げ、やがて止まる。


「………お?紺野ヤバイ。夕食の時間だ。急いで宴会場に行くぞ」


先程までの狼狽えっぷりが嘘のように、いつも通りの秋山がそこにいた。


短期記憶を消去する魔族特有の魔法。

秋山の中では、プールから戻ると夕食の時間が迫っていた__

という認識になっているはずだ。


扉を半開きにして身を乗り出し、早く行くぞと促してくる。

勇一も簡単な荷物を持って玄関に向かう。


「(よくやった。ひとまず今日のところは許してやるよ)」

『…ハイ。アリガトウゴザイマス』


その前に、事の発端且つ事態を収拾させて尻拭いをした張本人を軽くねぎらうと、ベッドの下から姿は見えないが小さな声で返事が返ってきた。


「(…?何やってるんだ?早く出て来い)」

『…ぇ?』


シノアが恐る恐る隙間から顔を出すと、勇一は優しい顔をしていた。


「(夕食、食べないのか?置いていくぞ?)」

『勇一!!!』


ものすごいスピードで、ヤモリが飛んでくる。

避けると秋山に当たるので、今回は背中で受け止めた。


ササっとポケットに移動したのを確認してから廊下に出る。


「沖縄料理楽しみだな!ビールも!」

「えぇ、そうですね」


何事もなかったように食事会場へ。

大勢の宴会は大いに盛り上がったようだ。


シノアもこっそりと人型になり(もちろん服は着ている)、勇一が支払って用意した別席で食事を楽しんだ。


お手洗いで席を立った時、シノアとすれ違った秋山が謎の猛烈な頭痛を訴えるというハプニングはあったものの、平和な夜はまだまだ続く____




____そうそう!お兄ちゃん上手いねぇ!!


数日後、地元新聞に「天才三線プレイヤー現る」という見出しが地方コラムに載ったのはまた別のお話。



光属性極大魔法イクスターミナル・ノヴァ

50節にも及ぶ膨大な詠唱を必要とする最高難易度の魔法。

その破壊力は、かつてこの世界を創造した聖なる光そのもの。

天地を消滅させかねない禁術中の禁術。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ