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13話 踏切の怪異②


「想像以上に何もない駅だな」


五十メートルほどのホームの端にプレハブ小屋みたいな駅舎(?)と、

ホームに上がる階段が設置されているだけの実にこじんまりとした駅だ。

駅には必ずあると思っていた自動販売機とトイレすらない。

谷口と合流した駅も小さかったがそれでも木造の立派な駅舎があった。


「この辺ではこれがデフォですよ。主要駅の間を埋めるとこはバス停みたいなものです」


利用者が少ない駅は最小限の設備にして経費削減するのは経営的には自然なことなのかもしれない。

実際、行方不明になった日の終電でこの駅で降りたのは茉莉本人ただ一人だけだった。


「となると、他の目撃情報もなさそうですね。人通りも少ないのでしょうか」

「えぇ。街灯もまばらですし、夜によく一人でここを歩けるなって思いますね!」

「警察官がそれを言うな」

「いっったい!!」


秋山におでこをチョップされて悶絶する早紀をほっといて勇一と秋山は茉莉の自宅方面へ歩き始める。


ここから茉莉の自宅までは大体30分ほどらしい。

駅を出てすぐの幹線道路は昼前だからかそれなりに交通量はあった。


時折風に乗って草花や畑の肥料の匂いが鼻をくすぐってくる。

駅前交番ではなかなか感じることのない自然の香りを感じ、思わず眠気に襲われそうになる。


(やっぱり残った感情は捉えられないか...)


歩きながら探知スキルの上位スキルに当たる思念感知を試してみるが、やはり魔力のないこの世界では残留思念は魔素に変換されず霧散してしまうようで、今まさに隣を歩いている早紀の「おなかすいたぁ~」という間抜けな感情しか読み取ることができなかった。


「青山さん、ここから女子高生宅までの道のりを往復したらお昼にしましょうね」

「え゛っ!あれぇ...?口に出てたかな...?」


思念感知は副作用的な効果として、近くにいる人間の心を勝手に読めてしまう。

もっとも、秋山や同じ交番員など近しい人物の心がだだ洩れだと自分も気まずいし、何より相手が嫌がるだろうと思い、取調べに役に立ちそうな場面は何度もあったが日頃は使わないように封印している。


三人はなおも線路沿いの歩道を歩き続ける。

初夏らしいすっきりと晴れた空から射す日差しに、心地よさを通り越して暑苦しさを感じるようになってきた。


「...さすがにあちぃな」


秋山が襟元をパタパタして風を送り込みながら反対の袖で額に浮いた汗をぬぐう。

その様子を勇一が揶揄う。


「秋山さん暑さにも弱いんですか?」

「どうした?そこの用水路で一緒に泳ぐか?ん?」


こぶしをペキポキと鳴らしながら早歩きで逃げる勇一を秋山が追う。

陽菜や谷口など、他のペアと違い比較的年が近い二人。

教育担当と新人という立場からすでに一歩先に進んでいるようにも見える。


「...師弟関係良好ですね。私は教育担当とそりが合わなくて大変でした。うらやましいです」


二人の様子を見て早紀がポツリとつぶやいた。


「どうしたんですか?急に真面目になって」

「おお、心配だな。ちょっと休むか?」

「鬱陶しいくらいに息ぴったりですね!!!」


早紀が配属された時の教育担当は五十代半ばの女性警官で、早紀の陽気な感じの性格が気に入らなかったのか、はたから見ると嫁姑問題かと思うほどいびられ続け、非常に仲が悪かったそうだ。

既に退職しているが今でも夢に見るほどらしい。


「お二人を見ているとまた思い出しちゃいました。気が合う教育担当だったらよかったのになぁって」

「なんだ、ひでぇ奴だな。そんなババァ俺の担当だったら毎日ぶっ飛ばしてやってたのに」

「未来ある新人を虐めるとは何たる悪辣非道。その方のことは存じ上げませんが、醤油が食べられなくなる呪いをかけておきます」


それは鬼畜過ぎるだろ!と秋山からツッコミが入るが決意が固そうだ。

勇一が言うと冗談では済まなさそうな気もする。


「じゃあコショウも追加しといてください!」

「お前もなかなか鬼畜だな」


ここまで誰ともすれ違っていないが、もし通行人に見られたら「なんか警察官達がじゃれあいながら歩いてる」なんて思われかねないほど、和気藹々と歩いている三人。

いつの間にか茉莉の家までもうすぐのところまで来ていた。


「あの踏切を渡ったら10分くらいで茉莉さんの家です」


早紀が指さす方向、幹線道路から細い側道を降りた先に小さな踏切があった。

遮断器のバーは年季が入っており、黄色い部分の下側がところどころ茶緑色になっている。

踏切へ続く道の両端は休耕田になっており、一面に生えた背の高い雑草がざわざわと音を立てている。


「狐ヶ崎踏切...だから狐の石像が置いてあるのか」

「今は明るいので何とも思いませんが、夜だとちょっと不気味かもしれませんね」


道端から遮断器の根元に向けて一列に並ぶように苔むした六体の狐の石像が置いてあり、それぞれの前にはおちょこが置いてある。

どの狐もみな微笑んでいるような表情をしているが、一番手前の小さな石像はひときわかわいらしい顔をしている。


「この踏切があった場所で戦後間もないころに列車事故があったんです。男女合わせて()()の方が亡くなられたそうで、地名になぞらえて慰霊碑代わりに狐の置物が置かれたと聞いています」

「五名?なぜ狐は六体なのでしょう?」

「それはわかりませんっ!!署長なら知っているかもしれませんねって、あぁ、やめてくださいチョップしないで」


『カンカンカンカンカンカンカン......」


思わせぶりに解説しておきながら肝心なところで偉そうに胸を張ってわからん!と言った早紀を秋山がチョップしようとしたとき、赤灯が規則正しく点滅をはじめ、警報音と共に遮断機が下りた。


「あらら、ここで踏切に掛かるとは珍しいですね。ちょっと長いですよこの路線の踏切は」


この先にある駅に停車している段階から遮断器が反応するため、軽く10分は開かないらしい。


特に何をするでもなく各々狐を眺めたり赤灯を眺めたり草むらのバッタを見ていたりしていると、単線の二本のレールがカタカタと細かい振動を始めた。


「おっ、やっと来たな」


三人が顔を踏切の方へ向けると数秒後にゴォォと音を立てて電車が通過していく。

一両編成のワンマンカーだが、通過すると同時に風が吹き周囲の枯草が巻き上がる。


「わっ...」


遮断器のすぐ横にいた早紀は巻き上げられたホコリをもろに喰らい、反対側の草むらでバッタを見ていた勇一にもその風が届く。


「.......!?」


そして、風と共に届いたものに気付く。


「さ、行きますよ~茉莉さん宅はもうすぐで「待ってください!!!」

「どうした紺野?」


早紀の言葉を遮って大声を上げた。

秋山はそんな勇一に何かを感じたようだ。


「今、電車が通過して行った時の風に乗ってかすかに甘い香りがしました。油性ペンのような匂いです」

「えっ、えっ、そんな匂いしました?全然わからないんですけど」

「俺もわからねぇが、甘い香り...油性ペン...?紺野、それは」


秋山は当然臭いを感じ取ってはいないが、勇一の言葉からとある薬品を導き出した。

勇一も秋山をまっすぐ見て頷き、同時に口にする。


「「クロロホルム」」


__


クロロホルム

化学名 トリクロロメタン

有機溶媒としての特性が優秀で現在は主に工業用触媒として用いられているが、かつては広く麻酔薬として使われていた化学物質。


__



「紺野、出所はわかるか?」

「ちょっと待ってください。多分すぐ近くです」


勇一は鼻をひくひくさせながらくるくるとその場で何度か回転する。

それを眺める至極真面目な顔をしている秋山と「何やってんだこいつ」というような顔の早紀。

表情のコントラストが激しい。


「...!こっちです」


何度か同じ動きを繰り返し、踏切に向かって左、狐の石造が並んでいる側の休耕田を指さす。


「よし分かった。行ってみよう」


秋山と勇一ががさがさと草をかき分けて休耕田に入って行く。


「うぉ、田んぼだっただけあって結構地面柔らかいな」

「戻ったら靴を洗わないとですね」


「えっえっえっ、秋山さん、勝手に入っちゃっていいんですか?」


躊躇なく休耕田をずんずん進んでいく二人を早紀が止めるが、


「この先に行方不明者発見の重要な手掛かりがある。特例適用だ特例適用。お前もさっさと来い。それともそこで待っとくか?」


秋山と勇一はなおも進む。

秋山に促され、しばし考えるそぶりを見せた早紀だったがもう後には引けぬと結論付けたのか、えーい!と休耕田へ飛び込み、二人の後を追った。


「あの用具倉庫からかすかにクロロホルムの匂いを感じます」

「よっしゃ。開けよう」


踏切から対角線の角の方にポツンと設置してあるトタン壁の用具倉庫。

三人はその扉の前に立つ。


「ごっつい南京錠がかかってますね...カッターをては「紺野、やれ」

「了解です」


秋山の指示に二つ返事で応じた勇一はゴツい南京錠を両手で持ち、「バキン」と小枝をへし折るが如く簡単に捩じ切った。


「えっ、はっ?えっ?」


勇一は横でドン引きしている早紀を気をかけることなく扉を引く。

ズズズと地面を擦るように開いた扉の中を見ると、畳三枚分くらいのスペースで壁に鍬や熊手、草刈り機といった農耕具がかけてあり、床にはすのこが敷いてある。

勇一がすのこを持ち上げると、いかにもな観音開きの鉄の扉が表れた。


「ここにも南京錠がついてますね」バキ


こちらも容易く()()して重厚な扉に手をかける。


ギィィィと錆びた蝶番が嫌な音を立てて開く。

そこには地下に続く階段があった。

真っ暗で先の方は良く見えない。


「どうだ?行っても大丈夫そうか?」

「はい、特に有毒ガスの存在は確認できませんので問題ないと思います」


危険はないと判断した秋山が懐中電灯を手に先頭に立ち、地下室へ降りていく。

早紀もびくびくしながら一番後ろを付いてきた。


「結構通路は広いですね」


階段を降りると壁がコンクリートで固められたアーチ状の通路になっており、身長が180㎝近い勇一と秋山が立っても十分余裕がある高さだ。


「これは、恐らく先の大戦の退避壕じゃないか?」


天井には一定間隔で裸電球がぶら下がっているが、スイッチらしきものは見当たらない。


「お、奥からいきなりうわー!!って誰か襲い掛かってこないですかね」

()()()()人の気配はありませんので、先に進んで大丈夫でしょう」


秋山のベストの背中部分をがっしり掴みながらおびえている早紀。

ウザそうにしているが、秋山はそのまま勇一と並んで奥へ進む。


「扉だ...」


用具倉庫から距離にして五十mくらいだろうか。

長い通路を歩いた先に木製の扉があった。


「紺野」

「はい、中に三人います」


探知スキルはこの扉の先に何者かがいることを捉えている。

早紀がドアノブを捻ると鍵がかかっているようで右にも左にも回らなかった。


「南京錠じゃないですけど、どうしますか?」

「ご心配なく」


勇一が早紀に変わってドアノブを握りそのまま捻ると、ゴバキョと音を立てて土台ごとドアから外れる。


「開きました」

「開()ました、じゃなく?」

「青山、そろそろ慣れろ。じゃないとこっから先、身が持たねぇぞ」


秋山は早紀をねぎらうように肩をポンポンと叩いた。

だが、面白いもの見たさで「それはどういう意味でしょうか?」という早紀の問いには答えなかった。


鍵と物理的に別れた扉を勇一がそっと開く。

中は十畳ほどの広さの空間になっており、金属フレームのベッドが三台。

それぞれには下着姿で手足に手錠をかけられた女性が横たわっていた。

目隠しをされているせいか、勇一が入ってきたときに鎖をガシャリと鳴らして怯えるように身をよじらせた。


(この空間...魔王軍の捕虜監禁部屋を思い出させる。胸糞悪い...)


勇一は一番近くのベッドにそっと近づいてベストを外して上着を脱ぎ、横たわる女性に優しくかけると少し緊張が揺らいだようだ。

秋山と早紀も残る二人に同じように上着をかけた。


「私たちは警察です。あなた方を探しに来ました。もう大丈夫です。目隠し外しますね」


静かにうなずいたのを確認してからアイマスクを外す。


「あっ...」

「柵原茉莉さんですか?」


名前を呼ばれた茉莉はコクコクと頷き、目から大粒の涙があふれた。

勇一は「もう大丈夫」と声をかけながら頭を優しく撫でる。


パッと部屋の電気が一斉に光を放ったのはその時だった。


「誰だお前らは!!!」


小部屋の奥にあった扉が勢い良く開き、白衣姿の中年の男が怒鳴り込んできた。


「警察だ!ここはあんたの部屋か?聞きたいことがたっぷりあるから署まで同行してもらうぞ!」

「け、警察?!なんでここに!!」


秋山が声を上げると男は少しひるむ様子を見せたが脇にあった棚の引き出しからスタンガンを取り出すと、バチバチと青白いスパークを放ちながら秋山めがけて突っ込んできた。


だがそれを勇一が許すはずもなく、一瞬で男の背後に回るとスタンガンを持つ手を掴みひねり上げた。


「あああああああああ!!痛い!!離せ!!」


男の手からスタンガンが離れ、床にゴトリと音を立てて落ちた。

そして丸腰になった男を勇一が床に組み伏せたが、男はもがいて抵抗する。


「くそぉ、はなせぇぇ...!ここは俺の聖域だぞ...!何人たりとも足を踏み入れることは許さない...!!」

「他人の自由を奪って成立するような空間が聖域ですと?笑わせないでください。あなたは魔王軍下っ端のコボルトにも劣る外道です」


勇一以外の六人は部屋の温度が一~二度下がったような錯覚を覚える。

いつにもまして氷のように鋭い言葉が男を貫いた。

男はカチカチと歯を鳴らして震えている。


勇一はふぅ、と一息吐いて腕時計に目をやり、


「12時42分。未成年者略取誘拐及び他二名の略取誘拐、拉致監禁その他の疑いで逮捕します。法の下においてあなたの聖域は決して許されるものではありません」


ガチャリと聖域の主に罪の輪が掛けられる。

その瞬間、被害者の三人は声をあげて泣き始めた。


「もう大丈夫、大丈夫ですよ。助けに来るのが遅くなってごめんなさい。無事でよかった」


早紀が泣きながら三人を抱き寄せている。


その横で秋山は咲作警察署へ無線を入れるが、即日解決を信じようとしない通信部員に「いいからさっさとパトカーと救急車回せコノヤロ!!!」と怒鳴り声をあげて緊急車両を手配。

しばらくすると通路の先の方からサイレンの音が聞こえ始めた



かくして咲作市の神隠し騒動は幕を閉じた__



___


あの後、現場検証と取り調べが行われ、奥の扉の先にはさらに通路と階段があり、

階段を上ると男の自宅の庭に通じていた。


数年前に祖父母から譲り受けた家に大戦時の防空壕が残っており、そしてそれが踏切脇にある祖父母の田に繋がっていること、途中に避難生活用の小部屋があることが分かり、女性の拉致監禁を思いついたそうだ。


決行に至ったきっかけは、ある日帰宅途中に女子大生AとBを踏切で見かけたことからだった。


男は二人が通っていた中学校の理科教師だった。

理科室からクロロホルムを盗み出し、地蜘蛛のようにAとBそして茉莉が夜間に踏切を通るのを待ち続けたのだ。



__やっときた



彼はきっとこう思いながら嗤っていたに違いない。



__


事件はローカルニュースで大々的に取り上げられた。

幸い被害者たちは暴力や性的暴行は受けておらず、ただ監禁されていただけのようだった。

病院に搬送されたが全員二日ほどで退院できたようだ。



AとBは先日来ていたため入れ違いになってしまったが、事後処理で再び咲作警察署に出張していた勇一と秋山のもとに茉莉とその母親が訪れていた。


「この度はなんとお礼を申し上げたらよいか...!」

「いえ、私は警察官としての職務を全うしただけです」


母親が涙を浮かべながら何度も勇一に頭を下げているが、いつもの調子で階級章に手を当て、背筋を伸ばして立っている。

しかし、その瞳の奥にはやわらかく、やさしい光があった。


次に茉莉が緊張しがちに勇一の前にきて、ラッピングされた包みを差し出した。


「あ、あの、これ...よかったら...」


どうやら包みの中にはクッキーが入っているようだった。


「ありがとうございます。ありがたくいただきますね」


勇一はクッキーを受け取り優しく微笑んだ。

それを見て茉莉はぱぁっと明るい表情を見せる。

大きな猫目をキラキラさせ、実にかわいらしい表情だ。


「この子ったら先週青山さんに今日紺野さんと秋山さんが来られるって聞いてからずっとそわそわしてて。お菓子作りなんて何年振りかしら」

「お母さん!!!」


茉莉が顔を真っ赤にして母親の脇腹をドスドスと突いている。

このほほえましい光景を守ることができて良かったと、勇一と秋山は改めて達成感を抱くのであった。


数分間の立ち話ののち、茉莉と母親は警察署を後にした。

玄関で二人を見送る勇一と秋山。



「__魔法使い、か」

「それは、気のせいでしょう。秋山さんの懐中電灯が反射しただけですよ」


帰り際に茉莉が「紺野さんの瞳が金色に光っていて綺麗だった。まるで物語の魔法使いみたい」と言った言葉を秋山がぽつりとつぶやく。


「ま、あんな微妙な匂いから三人を見つけ出すなんて、確かに魔法使いみたいだな!」


これからも活躍してくれよ、と勇一の背中をバシンと叩く。

なにか思うところはあるかもしれないが、深くは聞いてこない秋山がありがたかった。


(いつか打ち明けられる時が来るのだろうか...)


などと思っていると、早紀と沼本が二人のもとにやって来た。


「やぁ。秋山君、紺野君。今日で終わりかな?」

「はい、事後処理は終わりましたので、とりあえずこの件でここに来ることはもうないと思います」


秋山の返答を受け、沼本は秋山と勇一の手を取り、改めてねぎらいの言葉をかけた。


「しかし、惜しいなぁ。このままここで勤務してはどうかな?」

「ははっ、ありがたいのですが、辞令がなければ中央署の秋山と紺野ですから」


そのうちもしかしたら異動になるかもしれないが、今回はあくまでもヘルプ。

いつまでもいるわけにはいかない。


「私も寂しいです~。あの日一日しか捜査は一緒にしてないですけど、すごく勉強になりました」

「私的にはやっと静かになるなという感じです」

「このクソ生意気な紺野君にもしばらく会えなくなるんですよねぇ...」

「ま、死ぬわけじゃねぇからよ。署員旅行とかで顔を合わせたりもするだろうし、そん時はよろしくな」


勇一と秋山は早紀とも握手を交わし、別れを告げた。

そしてそのまま玄関に向かおうとしたとき、秋山が急に立ち止まり沼本に声をかけた。


「あ、署長。一個聞いてもいいですか?」

「なんだい?」


踏切で早紀から受けた説明が中途半端だったことと「署長なら知ってるかもしれませんね」と言っていた言葉を思い出したのだ。


「狐ヶ崎踏切のあの狐の石像、列車事故の犠牲者を偲んで設置されたのになんで犠牲者数より多いんですか?」

「ん?犠牲者より多い?そんなはずはないだろう。犠牲者は五名、()()()()()五体だ。ほら、えーと、これだ。ここ、町の案内にも載ってるだろう?」


沼本はそう言いながら、玄関前に置いてある町の案内パンフレットを手に取り、掲載されている「狐ヶ崎踏切の歴史」という部分を指さす。

そこには、


『五体の狐の石像が列車の安全を見守っています』


と写真付きで書かれていた。

その写真には確かに五体しか映っていない。


「えっ」

「え」

「...」


三人はパンフレットを見て固まる。




「一番手前にあった小さな狐の石像は一体...」

「何も、何も考えないようにしましょう。ねっ」

「魔物の雰囲気はありませんでしたが...」



三人はそれぞれ、あの日見たにっこりとほほえんでいる小さな狐の石像の顔を思い描くのであった__






柵原茉莉(17)

高校二年生 バドミントン部所属。

久しぶりの登校時、友人たちから「大丈夫か」と心配されたが、

「王子様に出会えたの」と答えたため、大丈夫じゃない認定されています。



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