10話 視力は良い方
「はぁぁぁくしょいぃぃやぁ!」
四月下旬に差し掛かろうというところ。
盛大なくしゃみで交番の窓が揺れる。
(うるさ…)
勇一が迷惑そうに目を向ける先、朝からずっとティッシュとお友達になっているのは秋山。
目も真っ赤に充血して涙も止まらない様子。
まぎれもない花粉症の症状だ。
「あー。目玉取りだして丸洗いしたい」
「今日はまた一段とひどいですね」
先週ごろから症状が出始め、今日は朝から花粉注意報が出るほどにヒノキ花粉が大量に飛散しているようだ。
快晴なのに遠くの山がかすんでいる。
「うぃー…。スギ花粉は大したことないんだが、ヒノキはどうもだめだ」
「私は花粉症というものに縁がないのでわからないのですが、そんなにつらいものなんですね」
勇一が暮らしていた世界に、花粉症というものは存在しなかった。
あったとしても治癒魔法の類で何とかなっていただろうが。
「つらいってもんじゃない。一生花粉症にかからないなら二百万くらい払ってもいい。マジで外に出たくない」
「あっ、秋山さんそれは…」
「フラグですよ」と言おうとした瞬間。
無線機が壊れるのでは、と思えるほどの音量で緊急事態を告げた。
『中央署指令より各位!!七菱銀行笹野瀬駅前支店にて強盗事件発生!!直ちに急行せよ!!なお、犯人はけん銃のようなものを所持し、人質がいる模様!』
「紺野ぉ!!!行くぞ!!」
「はい!!」
即座に立ち上がり防弾ベストを着用。
お互いに装具点検を素早く行い、施錠してから立札を「緊急出動中」に変え、自転車に飛び乗る。
「あき、やまさん…?」
「何か言いたいのか?あ?」
自転車に飛び乗った勇一の目に飛び込んできたのは、今から海にでも向かうのかと勘違いしてしまうほど、ゴツいゴーグルを着用した秋山の姿だった。
(もしかして先週交番にAmazonesから届いた箱の中身はこれか...?)
「いえ、なんでも、ないです」
「なんだ?ケンカ売ってんのか?羨ましいねぇこの苦しみがわからない奴は」
緊急出動にあたってフル装備で機敏に動く秋山の、首から下と上の出で立ちにあまりにもギャップがあり、思わず吹き出しそうになってしまう勇一。
「すみません…行きましょうか」
「おぉ。無駄なやり取りしてる暇はないな。急ごう」
ペダルに力を込めて一気に走り出した秋山のシュールな姿に、流石に笑いを堪え切れず肩を震わせながら勇一は後を追った。
__
現場に近づくにつれ、野次馬らしき市民や、報道関係者などがすでに人だかりを作っており、自転車での移動が困難になってきた。
銀行前の大通りが通行止めになっているようで、そこに至る道が車で大混雑している。
「警察です!!通してください!!」
近くの街路樹脇に自転車を停めた勇一と秋山は、大声で呼びかけながら人ごみをかき分けて進む。
ようやく、黄色の規制テープが見えてきた。
規制線を守る警察官に、敬礼をしてから声をかける。
「駅前交番、秋山と紺野。臨場しました」
「お疲れ様です。どうぞ」
規制線を抜けると、銀行の正面入り口から三〜四十メートルくらい距離を置いた大通りに何台もパトカーが停車し、影から大勢の警官が様子をうかがっていた。
刑事ドラマでよくあるあの光景を思い浮かべてもらえると伝わるだろうか。
「秋山!」
状況を確認しようとしていた秋山に声をかけたのは、北交番の柳井だ。
その後ろから、ペアの陽菜がついて歩いてきている。
陽菜は秋山の顔を一瞬見て、即目をそらす。
「ヤナさん、状況わかります?」
「うん、今はねぇ__」
秋山と柳井が情報交換をしているのを待っていると、勇一と同じく手持無沙汰そうにしている陽菜が話しかけてきた。
「紺野君、久しぶり。調子はどう?」
「お久しぶりです。特にこれといったことはないですね」
つまんねー。
と言いたげな表情を向けてくる陽菜だったが、勇一がスリの常習犯を捕らえたことは当然知っている。
「ほうほう。紺野巡査にかかれば窃盗犯確保はなんてことないと。流石ですなぁ」
うりうり。
と、肘でわき腹をつついてくる。
目の前で銀行強盗事件が発生している真っ最中だというのにこの緊張感の無さ。
後期訓練以降、すっかり打ち解けたようだ。
「黒瀬さんこそ、剣道の署内予選で無双したと聞きましたが」
「あれは…まぁでもほら。紺野君出てないし」
中央署の剣道部には陽菜含め、国体出場経験のある実力者が揃ってはいるが、陽菜はその中でも一目置かれるほど強い。
そんな陽菜を赤子の手をひねるかの如く一蹴した勇一の強さは、やられた本人が一番理解している。
予選会を勝ち抜いても、なんとなく釈然としなかった。
「私は剣道部出禁なので」
「何をしたのさ…」
特に何もしていないと言っても、嘘ではない。
嘘ではないのだが、以前、秋山に勧められて朝の教練に初めて参加した際、「遠慮するな、本気で掛かってこい」と言ってきた巡査長(元国体選手)相手にちょっと本気を出したら、お互いの竹刀が折れた上に相手の胴が割れ、面がひん曲がった。
そして巡査長は、三日仕事を休んだ。
「あまりにも危険ということで、参加を遠慮してほしいと師範が」
「出禁の理由異次元すぎない?」
陽菜と警察学校で対峙した際は全く本気ではなかったことを悟り、何とも言えない気持ちになったが「あぁ、この人はきっと異世界人なんだ」と、ほぼ核心に迫る結論で納得することにした。
情報交換を終えた秋山と柳井が二人のそばに戻ってくる。
「待たせたな紺野、黒瀬」
陽菜は、またそっと秋山から目を逸らした。
「これからどう動けばよいのでしょうか?」
「僕が説明するよ」
柳井が、待ってましたと言わんばかりに口を開く。
「ブリーフィングで聞くに、脱出した客の話では犯行グループは六人。そのうち二人がけん銃のようなものを持ってたみたい」
内容を要約すると、
・犯人は六人。内二人がけん銃を所持
・二手に分かれ、二名が金品を持ってバイクで逃走
・四人が立てこもり、人質は約十五名
・ここで様子を見る班と、二名を追う班に分かれる
「けが人はいないのですか?」
「今のところ確認はされていないね」
続けて陽菜が質問する。
「なぜ二手に分かれたのでしょうか?」
「恐らく逃げた二人が本星に繋がってるはずだ。残った四人は捨て駒だろう」
近年世間を騒がせている闇バイト。
秋山はその類ではないかと読んでいる。
「けん銃を持たされた銀行に残ってる素人も危ないけど、逃げた二人をさっさと見つけないとね」
「ヤナさん、逃げた二人はすぐ見つかると思います」
「それは、どういう__」「班長各位集合!」
柳井の声は、現場指揮官の号令に遮られた。
秋山と柳井が再びその場を離れ、二~三分で戻ってきた。
「紺野。俺とお前は逃げた二人を追う。本署刑事課の覆面パトカーに便乗だ」
「残りは全員ここで現場対応だってさ」
その編成は、異質と言わざるを得なかった。
現在、現場にいる警察官は総勢五十名ほど。
そのうちに名が逃走犯追跡で、約四十八名がここに残るというのだ。
「それはどういうことでしょうか?!」
その決定に、陽菜が異を唱える。
「どうもこうもないよ。おエラいさん方がそう決めたんだからさ」
「ですが…っ!いえ、失礼いたしました」
納得がいかない様子の陽菜だったが、柳井の目を見て黙る。
当然、ここで現場対応をするのは警察官として大切な仕事だ。
しかし、市民の誘導だけではなく、逃走する犯人を追い詰めて確保する。
そんな活躍もしてみたい。
なんて、ちょっとは思ってしまう。
「ヤナさん。黒瀬借りていいですか?」
腕を組み何か考えていた秋山が、さらりとそう言った。
「秋山。行きたいからじゃあ行きましょうかって話じゃねぇよ」
「まぁまぁ、そんなすごまないで。怖がってるよヤナさん」
一瞬交機時代のオーラが滲み出た柳井を前に、勇一は背筋を伸ばし、陽菜はなぜか敬礼をしている。
「…すまん。だが秋山、黒瀬を貸せとは?」
「思えば黒瀬は紺野の意味わからん勘の良さ、直接見たことなかったなと。良い経験になるかもしれないっすよ」
柳井は勇一にちらりと目を向け、
「黒瀬は、どうしたい?」
と、意思を問う。
「私は、行きたいです。紺野君の動きをこの目で見たい。そしてできることなら糧にしたいです」
まっすぐ柳井を見て言った。
柳井はしばらく逡巡するようなそぶりを見せた後「進言してくる」と、離れて行った。
「怖かったな。昔はずっとあんなだったんだぞ」
「えぇ、魔王軍四天王並みの迫力でした」
「またゲームの話?」
柳井がいなくなったことで、妙な緊張がほぐれた秋山と勇一を陽菜がやや冷めた目で見ていたが、戻って来た柳井から逃走犯捜索隊に陽菜も加わるように告げられると、一転してやる気と決意に満ちた表情に変わる。
「こっちは僕らに任せて、しっかりね」
「はい!!」
いつも通りの優しい語り口調の柳井の言葉に、陽菜は力強く応えた。
___
「初めまして、刑事課の横田です。よろしくお願いします」
「地域課の秋山です。こちらは紺野と黒瀬です」
「「よろしくお願いします」」
覆面パトカーの前で、各々挨拶を交わす。
刑事課からの応援は本来二人来る予定だったが、陽菜が加わることになったため巡査長の横田が一人でやって来た。
「早速ですが、行きましょう。秋山部長は助手席に乗ってください」
「いや、俺が運転する」
「しかし…こ「俺が、運転する」
「わ、わかりました」
秋山は他人が運転する車には乗りたくない派だ。
仕方なく横田が助手席に乗り、陽菜と勇一が後部座席に乗り込みシートベルトを付け、発進準備が整った。
「では、まずは犯人が逃走した方向へむかっ「紺野。どっちだ?」
横田が情報を元に行き先を指示しようとしたのを、秋山が遮った。
「そうですね。九日川下流方向に、廃業した製材所跡があります。そこへ向かってください」
「了解」
勇一の指示に、秋山がサイレンを回し、覆面パトカーを発進させた。
「おお、いつものと違ってこいつは走りがいいな」
「後部座席の乗り心地も最高です」
高級セダンがベースの覆面パトカーに、秋山と勇一はご満悦の様子。
空調も優れているようで、秋山はごついゴーグルを外している。
「ちょちょちょっと、待ってください!!そんなあてずっぽうに行ってどうするんですか!!」
「そうです!!しかも下流は逃走した方向と真逆ですよ!!」
のんきな秋山と勇一に、横田と陽菜が一斉に異を唱えた。
「まぁ見てなって」
「しかし…」
「黒瀬さん、横田さん。犯人がいなかったら存分に罵倒してください」
「紺野君…いや、罵倒はしないけどさ…」
腑に落ちない様子ではあったが、秋山がハンドルを握っている以上、パトカーを停めることはできない。
諦めた横田と陽菜は、ポータルで犯人の情報をチェックしているが、その横で秋山と勇一はまるで現場を見ているかのように具体的な話をしている。
「逃走した二名の他に一名別の人物がいるようですね」
「そいつが指示役かもしれないな。地図と照らし合わせてどの辺にいるかわかるか?」
「えぇ、大体ですが__」
一体この二人は何を話しているのか、と横田と陽菜は思いつつ、自分にできる範囲での情報収集に徹することにした。
___
「そろそろサイレンを止めてください。感付かれるかもしれません」
「おっけー」
出発から二十分。
そろそろ目的地の製材所跡地に着く。
「少し離れたところに停めるから、すぐ降りれるよう準備しとけ。それから、各自けん銃のチェック」
「「了解!」」
秋山は、指示をした後すぐ、図書館に併設されたグラウンドの駐車場に車を停める。
製材所跡は歩いて二〜三分ほど。
集中しているのか、秋山を先頭に皆黙って歩いていく。
「あの原付は!」
「ポータルの情報と一致してますね…」
製材所跡の入り口奥に原付バイクが停めてあるのを発見した。
ポータルに表示されていた色やナンバーと一致している。
(紺野君、なんで分かったんだろう...)
秋山と勇一は当然と言わんばかりに、なんとも思っていないように打ち合わせをしているが、陽菜と横田は内心混乱している。
逃走して行った方向以外、何も手掛かりがないのになぜ。
と、疑問が尽きない。
「よし、横田。お前は入り口に残れ。俺と紺野と黒瀬が突入する。何かあったときは無線の送信ボタンを短く三回押すからそれが合図だ。応援を頼む」
「了解しました」
秋山が勇一と陽菜に目配せをすると二人は頷き、三人で製材所の敷地へと足を踏み入れる。
「紺野、どうだ?まだいるか?」
「はい、中に三人います」
「…(意味が分からない)」
陽菜は、どうしてもこの二人の会話に理解が追い付かない。
倉庫の入り口に近づくと、中から確かに男たちの笑い声が聞こえる。
「よし、三つ数えたら入るぞ。相手はけん銃を所持している。突入時は俺たちも銃を抜いて行く。いいな。」
勇一と陽菜が無言で頷いたのを合図に秋山が三つゆっくりと数え、扉を勢い良く開け放った。
「警察だ!!!動くな!!!」
突入と同時に中にいる人物を確認し、自分と相対している男に向けてそれぞれ銃を向ける。
「警察!?おいてめぇら!!つけられてんじゃねぇか!!」
「そ、そんなはずは!!撒いたはずだ!!」
突然現れた警察官に動揺する三人だったが、リーダー格らしき男が秋山をジッと見つめ、
「秋山?ははっ、秋山じゃねぇか!!久しぶりだなおい!」
「…斎藤?」
斎藤と呼ばれた男は、掴んでいた手下らしき男を突き飛ばし、両手を広げてやたらフレンドリーに話しかけてきた。
秋山は茫然としたような表情を浮かべ、けん銃を構えた腕をゆっくりと下げた。
「おいおい、何だよ。警官なんかツマラねぇ仕事してんのかよ」
「お前こそなんで、強盗なんか…。美容師はどうした?」
「あんなコキ使われて客にペコペコする仕事なんざとっくに辞めてやったよ。安月給だったしな。《《こっち》》なら一発で数千万だぜ。堪んねぇだろ」
動揺している秋山とは対照的に、斎藤はカラカラと笑っている。
「俺はお前の夢を応援してたんだぜ…残念だよ斎藤。おとなしく罪を償うんだ」
「相変わらず癇に障る奴だな。何が応援だ。自分より劣ってるのを近くに置いて安心したかっただけだろ」
「違う!!そんなことは思ってない!!」
どうやら浅からぬ縁があるようだが、勇一と陽菜にそれを問う余裕はない。
「はっ、どうだか。そう言う割には随分久しぶりだな、高校卒業以来か?随分と安い応援だな。泣けてくるぜ」
「違う…俺は、俺は……」
「ははは!なに動揺してやがる。まぁ良い。俺は帰るぜ。おいお前ら!
そいつを抑えとけ。めんどくさかったら殺してもいいぞ」
動揺、というより取り乱している秋山に背を向け、斎藤は倉庫の反対側へ歩き出す。
「っ!待て!!」
「おっと、待つのはお前だ」
「天国か地獄でな!!」
気を持ち直し、斎藤を追おうとした秋山の前を手下二人が塞ぐ。
手にはそれぞれナイフを持っており、秋山に向けて躊躇なく振り下ろした。
動揺していたからか反応が遅れ、ガードを全く取れていない。
「部長ぉ!!」
陽菜の絶叫が倉庫に響くが、秋山の口角は上がっていた。
「紺野、やれ」
そして次の瞬間。
一歩も動かず、笑みを浮かべる秋山。
その横に立ち、手をパンパンと払う勇一と、その足元に泡を吹いて転がる男たち。
という構図が出来上がった。
「「??!!」」
振り返った斎藤と陽菜は目を大きく開き、同じ表情をしていた。
(いま…なにが?えっ、だって…)
陽菜の目には今まさにナイフで貫かれようとしている秋山の姿しか映っていなかったが、
__一瞬。
本当に一瞬の先に、今の光景がある。
斎藤にも初めて、少しばかりの動揺が走っているのがわかる。
「な、何だお前、今何をした?あ?」
「何を…?見ての通りですが…?」
立ち尽くしている斎藤に、秋山がゆっくりと近づく。
「斎藤、もう一度言う。こいつからは逃げられない。おとなしく捕まって罪を償え」
「お前のその勝ち誇ったような顔。ほんと虫唾が走るぜ。自分だけはいつも正しいみたいなツラしやがって…」
斎藤は「俺の負けだよ」と、手をひらひらと上げ降参のようなポーズをとり、それを見て秋山がさらに近づく。
「いつも正しいとは思ってねぇよ。だが今回はお前が間違っている」
「………」
うつむく斎藤から返事はない。
もう、手を伸ばせば届く距離だ。
「さぁ、手を出すんだ。大丈夫。またやり直せる」
秋山が手錠を取り出し斎藤に手を出すよう促すと、うつむいたままゆっくりと両手を差し出す。
その右手にはしっかりと、けん銃が握られていた。
「あっ」
なるほど。
人間というものは、ここまで醜悪な表情ができるのか。
愉悦に染まった悪魔の仮面の如く、三日月形に口角を上げた斎藤の表情を見て、秋山と陽菜の背筋が一瞬で凍った。
「じゃあな♪」
斎藤は差し出した手を秋山の眼前まで上げ、躊躇なく引き金を引いた。
陽菜は声を上げる暇もなかった。
横田は銃声を聞き、慌てて倉庫へ向け走り出す。
カランコロンと薬莢が床を転がる音と共に、ドサリと人間が床に崩れ落ちる音が倉庫内に響いた。
「今のはちょっと危なかったですね」
「あ、あ、あ、危なかったどころじゃねぇわ!!マジで死んだかと思ったわ!!」
倒れたのは、斎藤だった。
直後、しりもちをつくように床に座り込んだ秋山の顔を勇一が覗き込んだ。
秋山の足は少しガクガクと震えているし、涙目になっている。
「……警棒が壊れてしまいました」
「おまっ、引き金引く前に止めろや!!」
勇一は、銃弾を受けて曲がってしまった警棒を眺めている。
一瞬の出来事で陽菜には全く見えなかったが、秋山の顔前で放たれた銃弾を勇一が振り出し式警棒で弾き飛ばし、その勢いのまま裏拳を斎藤の顎に叩き込んで失神させたのだ。
「助けてくれてありがとうだけど、お前さすがに今のは人間技じゃねぇよ!!反射神経どうなってんだ!?」
「視力は良い方でして」
「視力カンケーねぇだろ!!!」
勇一と秋山が言い合っていると、倉庫のがバァンと開かれた。
「今の銃声は!?って、秋山さん犯人射殺したんですか?!」
「殺してねぇよ!!」
倉庫に飛び込んできた横田は、秋山の前に倒れている男を見てそう叫ぶが、陽菜が首を横にブンブン振っていることに気付く。
「黒瀬さん、何が?」
「わからないんです」
「え?」
「わからないんです!!!!」
「えええ?!どういう状況?!」
秋山が撃たれたと思ったらいきなり横に勇一が現れて、斎藤が倒れて、二人で何か言いあってる。
脳が理解を拒む。
出発と同時に犯人の居場所を突き止めた謎の勘。
一瞬で相手を制圧し、弾丸を警棒で迎撃する身体能力。
勇一が賞誉を得る活躍している理由が、わかったけどわからない。
(うん。紺野君は異世界人だと思っておくことにしよう)
そうして、無理やり納得することしかできなかった。
床に転がっていた三人は失神しているので、横田が呼んだパトカーに乗せられ、県警と提携している総合病院へと運ばれていった。
___
引継ぎが終わった四人は、再び秋山の運転で銀行へ戻った。
道中で秋山と勇一は晩御飯の話をし、横田は報告をポータルに打ち込み、陽菜は後部座席でぶつぶつと何かを呟いていた。
銀行の方もどうやら決着がついていたようで、開放された銀行では現場検証が行われている最中だった。
けが人はなく、秋山の読み通り残った四人は闇バイトで集められたその辺の学生で、持っていた銃はモデルガンだった。
_
「お疲れ様。犯人確保できたんだって?さすが紺野君だね」
「ヤナさんヤナさん。紺野だけって決めつけは良くないっすよ」
四人に気付いた柳井が寄ってきた。
実際ほぼ紺野の手柄ではあるが、秋山が口をとがらせる。
「黒瀬もどう?勉強になった」
「柳井部長。私はミジンコです」
「え?」
「何も、得ることができませんでした」
柳井に話しかけられても遠い目をして何かうわごとをつぶやき、ふふふと微笑を続ける陽菜。
「おい秋山。黒瀬が壊れちゃったじゃないか」
「今日は俺的にもかなり衝撃だったんで仕方ないっす。多分二〜三日で治るんじゃないかなと」
「長いなぁ…まぁ、とりあえず帰るよ」
柳井は陽菜の肩をゆすったり呼びかけたりしながらパトカーに乗り、北交番へと戻って行った。
「秋山部長と紺野君は私と本署に来ていただいてよろしいですか?報告書を作りたいので」
「了解。じゃ、さっさと行くか」
「はい」
駅前交番に戻ろうとした勇一と秋山だったが、再び覆面パトカーに乗って本署へと向かう。
車内で秋山が横田に語った事の顛末が何倍にも誇張され、伝説の武勇伝として語り継がれることになるとは、今の秋山と勇一はまだ知らない。
横田直斗 (27)
刑事ドラマを見て育ちました。
憧れの刑事課に配属されて毎日楽しくて仕方ありません。
この一件以来、勇一を見かけると「お前も刑事にならないか?」と声をかけてくるようになりました。
斎藤正樹(30)
秋山の高校時代の同級生。
いわゆる不良で授業をさぼりがちでしたが、秋山が勉強を教えたことで卒業できました。
手先が器用だったので、美容師になってみてはどうかと秋山に言われたのが夢を抱くきっかけになりました。




