第7話(前編) 久美と瑠璃 ―再会と激突―
夜九時。加山家の玄関に響く呼び鈴。
扉の向こうに立っていたのは、久美の永遠のライバルにして親友――新堂瑠璃だった。
妹たちを巡る誤解と怒りが交錯し、かつての最強コンビが再び拳を交える。
そして、その暴走を止められるのは、たった一人の人物だけだった――。
ピンポーン
突然、玄関の呼び鈴が大きな音を立てた。
夜、9時を回ったところだ。
「こんな時間に誰だろう?」
由香里は不機嫌そうに玄関に向かった。
「どちら様ですか?」
玄関越しに問いかけた。
「久美いる?」
大きな声で姉の名前を呼んでいる。
姉の知り合いだろうと玄関を開けた。
扉を開けた時、いきなり拳が襲いかかってきた。咄嗟の事で目を瞑るしか出来なかった。
でも何事も起きていない。恐る恐る目を開けると、由香里に目掛けてきた拳は由香里の目の前で止まっていた。姉の久美が拳を手のひらで受けていたのだ。
「瑠璃、私の大事な妹に何するのよ。」
久美姉が玄関先の人物に啖呵を切っている。
「お互い様よ。私の大事な紅音は貴女の妹に傷つけられたんだから。」
瑠璃と言われた豪快な女性は、永遠の久美姉のライバル、無二の親友、新堂紅音の姉、新堂瑠璃である。
「由香里がそんな事出来る訳ないでしょ。バカな言い掛かりはやめなさいよ」
そう言って、久美姉は新堂瑠璃に殴りかかって行った。
「紅音はもちろん、周囲にいた友達も病院送りにしておいてふざけないで」
新堂瑠璃も久美姉の攻撃に応戦していた。
「ゴキブリも殺せない由香里が、他人を傷つけるなんてある訳ないでしょ。それに、私が知らないとでも思っているの?瑠璃の妹が由香里に何をしているのか」
激しい連続技の攻防の中、2人は互いの主張をぶつけ合っていた。
「イジメているのは、私も知っていたわ。だから斉藤先生にお願いしておいたのに、クソ親父が紅音可愛さとスケベ心で斉藤先生を愛人にして思い通りに動かしたのよ。全てをもみ消す為にね」
激しい攻防を重ねていた2人が、攻撃をやめて対峙していた。
「親友の妹ですもの、気にしない訳ないじゃない。紅音は私に似て素直じゃ無いから、私がやめろって言っても聞くような子じゃ無い。だから先生にお願いして、大事になる前に収めておきたかったの」
拳を握りしめ、肩を震わせながら新堂瑠璃は唇を噛み締めていた。
「わかっていたわ。瑠璃が由香里を気遣ってくれていた事もお互いを傷つけないように頭を悩ませていた事も。私にも情報網はあるからね。今日の出来事もすぐに知らせが入った。後で由香里から事情を聞いて、貴方と話すつもりだった。まぁ瑠璃の事だから、ジッとしてないとは思っていたけどね」
そう言って、ニヤッと笑った。
新堂瑠璃も笑みを浮かべていた。笑顔がゴングのように、2人は更に激しい戦いをしていた。全身から喜びが溢れているみたいに、先程より早く、美しい攻防を繰り広げていた。
「やめなさい」
2人が必殺の一撃をぶつけ合おうとした時、大きな声で2人の間に割って入った人物がいた。私の母、加山由香である。
「貴方達は顔を突き合わせると、戯れあっているのね。でも近所迷惑になるからやめなさい」
ごもっともな意見であるが、この2人の戦いに割って入れるのは、母だけである。
「2人ともそこに正座」
今まで戦っていた2人は、飼い主に叱られた犬のように、2人揃って項垂れて、並んで正座していた。
「瑠璃、久美、反省しなさい」
2人の頭にゲンコツを叩き込み、仁王立ちしていた母がこの世で一番頼もしく見えた。
「2人とも反省したところで、アップルパイ焼けたから食べなさい。瑠璃も。」
そう言うと母は家の中に入って行った。
姉たちの戦いは、単なる喧嘩ではなく、妹たちへの想いがぶつかり合った結果だった。
母・由香の一喝が、激しすぎる姉妹愛をようやく沈める。
だが、玄関の影からもう一人――紅音が姿を現す。
次回、由香里と紅音、二人の心の対話が始まる。




