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【1部完結】クズの婚約者は金ヅルにしますのでどうぞお構いなく  作者: いか人参
2部

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33/35

33.共犯者


突然の乱入者に、一瞬時が止まる。

無論それは襲撃の類ではなく、午後のお茶を用意しにきたただの使用人によるものなのだが。



「ミミ、お客様が来ているからもう少し静かにね。」

「手作り菓子…確かに妙案ですね。」


ミミを嗜める声と肯定する声が二つ重なった。彼女の都合の良い耳は良い方だけを聞き取り、ティーワゴンから離した手を腰に当てて胸を張る。



「殿方というものは、手作りに弱いですからね!それこそお金では買えない、大変貴重な愛を感じる特別なものなのですよ。」


「そりゃあプレゼントで貰ったら嬉しいけどさ、第一あの姉さんがやってくれるかな…」


「大丈夫ですよっ。アレクスティード様なら材料費以上にお支払いしてくれますって。」


同意を求めるかのように、ミミがランドルフを見る。その瞳は期待に満ちるのを通り越し、やや圧が強かった。ランドルフは怯むことなく真っ直ぐに見返し、ひとつ頷いた。



「ええ、もちろんです。アレクスティード様なら軽く金貨数十枚はお支払いするはず。それで奥方からお手製プレゼントを頂けるのなら泣いて喜びますよ。比喩ではなく本当に。」


「さすが令嬢達の憧れアレクスティード様です!!懐が深いっ!!これでお二人の愛も加速するという…バッチリですね!」


「ええと…?」


何がバッチリなのか分からず、ヘルテルが腕を組んで眉間に皺を寄せる。ミミとランドルフの間にはまとまったという雰囲気が出ているが、到底そうは思えなかった。


確実にそうではないのに、当たり前のように2人が分かり合っていて、ヘルテルがそのズレに気付くまでにやや時間が掛かってしまった。

常識的に考えればすぐに分かるはずの違和感にようやく気付く。



「対価をもらって物を渡すって、何のお返しにもなってないような…」


机の上に目を向けたままぼそりと呟いたヘルテル。

違和感の正体はこれだと確信してるのに、盛り上がっている2人に引け目を感じてしまい自然と声が小さくなる。



「アレクスティード様は大切な方へのお金は惜しみません。」


「そんな細かい損得勘定より、プレゼントしたっていう事実が大事なのですよ!」


だが、良い笑顔の2人から返ってきたのは呆れるほどの堂々とした主張であった。




「これで密室デート作戦を仕掛ければそれはもう…ぐふふふ」


緩んだ口元を両手で隠しながらはしたなく笑うミミ。背筋を正したランドルフがコンパスのような足で正確に彼女に近づく。



「ミミ殿、その話詳しくお願いします。」


下品な笑みを浮かべるミミに臆すことなく、ランドルフが差し出した手と共に協定を持ち掛ける。しっかりと握手を交わした2人が互いに頷き合った。


(この2人、相性良かったんだ…)


ほぼ初めて会話をしたというのに、あっという間に距離が近くなった2人を見てヘルテルがその意外性に驚く。生真面目で論理的なランドルフと、感情が先走るミミは合うように見えなかった。



「なるほど。では私は、仕事の調整と馬車の偽装工作を。周囲への根回しもやっておきます。」


「とても助かります!!では私は特別な部屋の用意とお嬢様のとびきりキュートなお姿のご提供を…」


「え?お菓子を作るのに服装が関係あるの?まさか…」


顔を青くしたヘルテルが無理やり思考を切断する。


唐突に始まった不審な会話に、嫌な予感しかしない。ヘルテルは慌てて両耳を塞いだ。絶対に巻き込まれたくないと全身で拒絶する。



「僕は何も知りません何も聞いてません本当です、アレク義兄様…」


念仏のようにぶつぶつと唱えながら外の音を遮断した。


ヘルテルは後ろで飛び交う弾む会話に恐怖を覚えながらも、必死に雑念を払いながら勉強机に向かったのだった。



***



「私がアレクにお菓子を作る?全く意味が分からないんだけど。」


眉を寄せたシャルロッテが首を傾げる。


絹糸のように繊細な髪がサラサラと横に流れた。睫毛のカールした大きな瞳を丸くして不思議そうな表情をしている。その可憐な仕草を見れば深淵の令嬢そのものであったが、続く言葉はそれと真逆のものであった。



「まぁ、材料費とは別に人件費と手間賃を貰えるのなら話は別よ。すべては金額次第ね。」


「もちろんですよ!アレクスティード様が言い値でお支払いになりますっ。だから愛の詰まったハート型のケーキを作りましょう!」


「姉さんってば…ミミまで…」


当たり前のように金だと言う姉に、額に手を当てたヘルテルが心の底からため息をつく。


ヘルテルとミミの2人は、夕飯後さっそく手作り菓子をプレゼントする話をシャルロッテに持ち掛けていたのだ。

ヘルテルはやんわりと、日頃の感謝を込めて〜などと言っていたが、前述の通り反応は芳しくなかった。



「それならやるわ!早速明日庭で食べられそうな花を探して飾り付けに…」

「姉さん…頼むからちゃんとしたものを作って。僕が材料すべて用意するから。不安だし、作る工程も僕やるよ。だから姉さんは余計なことしないで、ね?」

「助かるわ。ありがとう。」


ちっとも悪いと思ってない顔でシャルロッテがヒラヒラと手を振る。人がやってくれることで大金を得られるなど願ったり叶ったりであった。


そんな2人を見ていたミミが乾いた笑みをこぼす。


(これはもはや、ヘルテル様からの愛が詰まったケーキになりますね…まぁ言わなきゃバレないですし。)


あくまでプレゼントした事実が大事だと、ミミは作り手云々は些細なことは気にしないようにしたのだった。



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