31.愛と決意
和やかな雰囲気に包まれる令嬢たちのお茶会。
話の流れからシャルロッテの好物が甘いものだということが分かると、お茶会の話題は珍しいスイーツの話で盛り上がっていた。
皆シャルロッテの気を引こうと、とっておきのスイーツを紹介しまくる。その中見事興味を引くことに成功したランルルが目を血走らせ、軽く身を乗り出した。
「ええ、ルビーチョコレートはその名の通り目を引くピンク色をしており、隣国の名産で我が侯爵家でしか取り扱いがないのですわ。それはもう言葉では言い表せないほど美味で、王宮御用達ですのよ。しかも、今の時期しか手に入らないとっておきなのですわ。」
一言一句に力を込め、瞳を輝かせて身振りを交えながら話すランルルの言葉に、シャルロッテがごくりと生唾を飲み込んだ。見たことも聞いたこともない、未知の美味しいものにどうしようもなく胸が高鳴る。
「それはランルルにお願いすれば買えるのかしら?」
テーブルに両手をつき、こちらも前のめりになって尋ねた。
(お金は…今着ているドレスとアクセサリーを売り飛ばせば何とかなるかしら?あぁ、アレクに貰ったやつもあったわね。うん、それなら絶対足りるわ。)
この公爵家で高級なスイーツの味を覚えてしまい、シャルロッテの舌は確実に肥えていた。何がなんでも食べてみたいという欲求に頭と心を支配され、それ以外のことは何も考えられない。冷静さを失っていた。
「まぁ。それなら我が家に来てくださればいつでも…」
「俺の妻を勝手に口説かないでもらえるかな?」
会話を遮り、颯爽と現れたのはアレクスティードであった。仕事帰りの彼は畏まった装いをしており、顔の良さが際立つ。
爽やかな出立ちなのに明らかな気迫があり、にこりと視線を向けられたランルルが必死に穏やかな微笑みを返した。
(あともう少しでしたのにっ…よりによって、なぜ!このタイミングでっ!ああもうっ!!!)
模範的な令嬢の微笑みの下で、ハンカチを噛み締め悔しさを爆発させていた。
「あら、仕事が早く終わりましたの?それにしても…随分と余裕のない振る舞いですわね。」
扇子を取り出したレイチェルが高らかに笑い声を上げる。兄を見上げるその瞳はひどく挑戦的だ。
「余裕だって?」
アレクスティードが鼻で笑う。
「あるわけないだろ。俺が惚れ込んでようやく結婚してもらえた相手なんだから。逃げられないように必死だよ。ね、シャル?」
言葉とは真反対に、余裕たっぷりな表情で愛しい相手に微笑みかけた。
甘やかに名を呼ぶ声にも表情にも仕草にも、シャルロッテへの愛おしさが滲み出ていて、誰がどう見てもアレクスティードの本気度がよく分かる。
レイチェル達はこの一瞬で深い愛を見せつけられ、皆の視線が自然とシャルロッテに向く。
彼女がどう反応するか固唾を飲んで見守っていた。返答次第では全力でシャルロッテの味方になってアレクスティードのことを葬ってやろうと、心に刃を携えて。
そんな一食触発の雰囲気を物ともせず、フォークを口に入れたままシャルロッテがこてんと呑気に首を傾げた。
「逃げるわけないでしょ?私たちもう夫婦なのよ。そんなことするわけないじゃない。」
「シャル…」
アレクスティードがくしゃりと前髪を掴んで、泣き笑いの表情で感極まる。
(あーちょっとこれ…いやかなり嬉しいかも。)
彼はシャルロッテから表情を隠すように目頭を押さえて俯く。迷いなく、当たり前のように答えてくれた彼女の言葉が何より嬉しかった。自分に心を決めてくれたのだと、多幸感に包まれる。
その大袈裟な様子を、なんだコイツ…という目で見ながらシャルロッテが紅茶を啜る。
(婚姻後に逃げて賠償金を支払うなんて嫌に決まってるじゃない。そうなるくらいなら、浮気でも誘発させて賠償金を貰う側に回ってやるわよ。)
愛とは無縁の全く別のことを決意し、感情を込めてイチゴにフォークを突き刺していた。
アレクスティードとシャルロッテの反応を注意深く見比べたレイチェルがその差異に気づき、小さくため息をつく。
(一人舞い上がってどうしようもないお兄様ですこと。でもまぁ…)
他の三人の表情を見て矛を収めた。
彼女達が顔を赤らめ、心酔した様子だったからだ。二人の愛を素直に受け取り、やはりこの組み合わせが最良だと納得したらしい。
美男美女の仲睦まじい(と思っている)やり取りを、眩しいものを見るかのように目を細めて眺める。
(侯爵家お抱えの画家の手配をすぐにでも…)
(宮廷作家に依頼を出さないと…)
(これで何冊も本を書けるわ)
瞳を爛々と輝かせ、似たようなことを思うランルル達。
美しい物が大好きな彼女達は、目の前の美しい愛に感化され、創作意欲を大いに刺激されていたのだった。
「目的は果たせましたわね。」
似た物同士のランルル達の奇行には慣れたもので、呆れながらもまぁいいかと優雅な所作でひとり紅茶を口にするレイチェル。
もちろん彼女の視線の先には、今日も最高傑作だと自画自賛したドレス姿のシャルロッテがいる。
こうして、異様な熱を感じて始まったお茶会は静かにお開きとなったのだった。




