第36話 砦を越えて
「ガウ!!!」
半透明の狼が俺に襲いかかって来る。その攻撃を幽霊騎士から入手した盾で受け止め、エマージャクスを叩き付ける。狼がバックステップで攻撃を回避するが、石造りの床に斧のヘッドが叩きつけられた事で青い衝撃波が発生。それに当たった狼は実体化した。
「ラァ!!!」
オオカミを蹴り飛ばして斧を叩き付ける。吹き飛ぶオオカミの頭。すぐさま振り返ってショートソードへ持ち替える。
「油断してんじゃねぇぞ!!!」
「ギ!?」
俺とオオカミの戦闘をボケっと見ていたスクィジゴブリン。ヤツへ袈裟斬りに斬撃を放つ。
「ギギィ……!?」
スクィジゴブリンは後悔するような顔のままバタリと倒れ込んだ。ゴブリンとオオカミから溢れ出したレベルポイントが俺のスマホへと吸収される。
──レベルポイントを200pt獲得しました。
──レベルポイントを40pt獲得しました。
「はぁ……はぁ……」
キッツイな。幽霊狼のヤツ、ゴブリンとの戦闘中に襲いかかってきやがって……。
『大丈夫? 少し休んだら?』
「いえ、もう少し進んでからにします」
リレイラさんの言葉に甘えたいところだが、俺の勘ではもうすぐこの砦は抜けられる気がする。窓の外から真っ黒な空と草原が見えるが、その景色も徐々に変化しているからだ。
砦に入った俺は5時間ほどかけて中を攻略し、8階層まで進んだ。この最終攻略で新たに気付いた事が3つある。
まず、他階層への移動の仕方。
今までは階段を降り、地下へ潜る事で階層を移動していたが、今回は魔法陣に乗ることで別のエリアへ移動する。これが階層を移動するという事に該当する。ここまで移動を繰り返してまだ第1階層であるとは考えにくいからだ。
そして2つ目。移動する度に敵の種類が変わる。今まで遭遇したブレイズラムやスクィジゴブリンに始まり、スコルピオスや冥闇の騎士まで現れた。ダンジョンの全盛りかよ。
おかげでアイテムを集めることはできたが、とにかく戦闘が激しい。そして、時折現れる「幽霊」型のモンスター……神出鬼没で戦闘中にも階層移動の前後にも現れる。コイツがとにかく厄介だ。幸い、最初の幽霊騎士を倒した事で手に入れた「盾」のおかげで戦えているが。
名称:精神の盾
分類:盾
属性:闇
効果:実体無き攻撃を受け止める事ができる。使用回数?回
これはフレクシルドのような魔法攻撃のパリィはできないが、幽霊型モンスターの襲撃を防ぐ事ができる。1度戦闘中に襲撃されて回復薬を消費する羽目になったからな。これを活用するのはマストだろう。小型化したフレクシルドの上から装備すれば嵩張らないしな。持ち替えは面倒だけど。
幽霊型モンスターに襲撃された時はこのシールドで初撃を防ぎ、エマージャクスで実体化させる。そこから反撃に転じて倒す。幽霊騎士が出現した場合は精神の盾を交換して先へ進む。こうする事でなんとかここへやってくる事ができた。
最後の3つ目。俺が今攻略している砦の構造だ。
……ここは横に長い砦が草原の上に延々と続いている構造をしている。万里の長城に近いかもしれない。ただ、全て歩いて渡る必要はなく、エリアごとに魔法障壁で区切られている。
そして、エリア内に設置された魔法陣に乗ることでこの砦内を先へ先へと移動する。実際に徒歩でこの砦を歩こうと思えば何日もかかるような構造だが、外の景色を確認すると分かる。階層が進むごとに1キロ以上移動している事が。
砦の壁に開いた四角い窓から外に顔を出してみる。目視でおおよそ2キロほどでこの砦は終わる。恐らくあと2階層進めば砦の終わりに到着できるだろう。
……今までとは明確にダンジョンのルールが変わった。時空の歪みに近付くとこんな事になるのか。
……。
敵を倒しながら慎重にダンジョンを進んで行く。そして10階層にいた幽霊狼の群を倒して門を開けると、砦の外へ出る事ができた。
そこは広い湖がある場所で、ローブを来た霊体が船の前に佇んでいた。警戒しながら近付くと、霊体が「この先に渡りたいなら乗せて行ってやる」と気さくな様子で話しかけてくる。
霊体に殺気は無い。先程までの幽霊モンスターとはまた違った存在なのかもしれないな。どうする? 信用して船に乗っていいのか?
迷っていると、リレイラさんがポツリと呟く。
『ここは……』
「知っているんですか? リレイラさん?」
『この広さ、そして中央に浮かぶ島……私の世界にあるアトリア湖に酷似している』
「リレイラさんの?」
異世界の湖……? なんでそんなのがダンジョンの中にあるんだ?
湖を見ていると、再び俺の近くに亜空間の門が開いた。その暗黒の中から管理者の声が響く。
──このダンジョンは様々な時代、場所を写す鏡のような場所だ。先程の砦もはるか昔に異世界に存在していた物だ。
時代の写し鏡? いよいよおかしくなって来たな、このダンジョン。
「この湖、異世界のアトレア湖って所に似ていると俺の担当が言っているんだが」
──その認識で間違い無い。ここはダンジョンの10階層に当たる。船に乗り湖を抜けよ。その先にある魔法陣へ乗れば新たな階層へと進めるであろう。新たな時代を写した場所へ。
「今回はめちゃくちゃ協力してくれるじゃん」
──我自身の事を思い起こさせてくれた礼だ。だが、我としても存在を擦り減らす行為故……核心的な助言はしてやれぬ。すまぬな。
「11階層への行き方が分かっただけで助かったぜ」
──……ではな。
そう言うと、時空の歪みは消えてしまった。管理者も完全に信用した訳じゃないが、ここまで協力してくれるんだ。このダンジョンの攻略自体は望んでいる事だろう。
「よし、思い切って船で渡ってみます」
『む〜……』
ん? なぜかリレイラさんの反応が無い。
「どうしました?」
『なんだか親しげじゃないか……』
「あ、いや……攻略のためですから」
『助言は私の役割なのにぃ……』
そこからしばらくリレイラさんは機嫌を直してくれなかった。
次回、湖を渡って461さんは11階層へ。そこは焼け落ちた村で……?




