第34話 行ってきます
「辰巳はこの町を出ないのか?」
「アンタが挑んでいる限りはここに残るつもり。グンマダンジョンを攻略しても攻略者が死んだらむなしいから」
辰巳が金を数えながら言う。もう金は無いから町を離れろと伝えたが「その時は出世払いにしてやる」と言って聞かなかった。しばらく押し問答していたが、最終的に諦める事にした。実際、辰巳が言うように頼る事もあるかもしれないしな。
「待って」
診療所を出ようとした時、辰巳に声をかけられた。
「何があるか分からないんだ。悔いがないように2人ともちゃんと話しておくんだよ?」
「なんだよそれ……」
「アタシは優しいんだ。アンタ達に後悔して欲しくないだけだよ」
辰巳が寂しげに笑う。彼女は命を扱う職業だ。色んなヤツの別れを見て来たのかもな。
俺達は、彼女に礼を言って診療所を出た。
◇◇◇
辰巳の診療所を出て、修理に出していた鎧を受け取った俺達は、グンマダンジョンに行く途中の忠霊塔公園で装備の最終チェックをしていた。
円形のベンチに座ってマジックバッグの中身を広げる。
・フレクシルド 1
・シャドウソード 1
・トラネアウィップ 1
・ベントナイフ 3
・クロウスラッシャー 6
・ブレイズナイフ 6
・ディガーファング 5
・アキドゥスフィア 4
・スライムキューブ2
・回復薬 3
・魔力回復薬 3
「ナイフホルダーにベントナイフとブレイズナイフをセットして……トラネアウィップやシャドーソード、フレクシルドはそろそろ壊れるから気を付けないとな。アキドゥスフィアはバッグの中でいいか……」
「……」
レベルポイントも確認しておくか。
スマホを取り出してスキルツリー画面をタップする。今あるレベルポイントは……。
「11095ptかぁ……かなり溜まったな」
「……」
今スキルを取得しておくか? ……いや、中に入ってから何があるか分からない。これは残しておくか。
「……」
ふと気付くと、リレイラさんが俺の事を見つめていた。なんだか悲しそうな顔で。
「どうしました?」
「ダンジョンに入ったら、途中で引き返すつもりは無いんだよね?」
魔法障壁を見た後、みなかみを再び歩いてみたが、他の商人達も既にこの場所は去ったようだった。そうなると、この町に戻って装備を整える事もできなくなる。途中で引き返す度に不利になり、最終的にアイテムが枯渇するだろう。だからこそ、この探索で決めなければグンマダンジョンは攻略不可能になる。俺はそう考えていた。
辰巳にも後悔が無いように言われたしな……思った事はちゃんとリレイラさんへ伝えておくか。
「はい。そのつもりです」
「……急に心配になって……すまない、いつもいつも心配してばかりで」
「嬉しいですよ。俺、心配してくれる人いなかったんで」
リレイラさんは、俺の家族の事を思い出したのか俯いてしまった。
「……そうだな」
「だから嬉しい。俺はリレイラさんが待ってくれていると思えるとがんばれます」
我ながら恥ずかしいセリフだなぁ……だけど言っておいた方がいい。なんとなく、そう思った。
リレイラさんが両手をギュッと握る。
「私はね……魔族だから多くの人から嫌われている。だけど、ヨロイ君だけは違ったんだ。私を慕ってくれて、信じてくれた」
「だから厳しくしてくれていたんですよね? 俺が死なないように」
「……気付いてたの?」
「分かりますよ。みなかみに来て、リレイラさんの色んな一面を見れて、知る事ができました」
リレイラさんは、俺のヘルムをゆっくりと外した。彼女の顔を見ていると恥ずかしくなって、思わず顔を背けてしまいそうになるけど……なんとか堪えた。彼女を傷付けてしまう気がしたから。
「最後のダンジョン探索……もう1度だけ言うよ。絶対帰って来て。私におかえりなさいって言わせて」
「俺、約束は守りますから。リレイラさんとの約束なら、絶対に」
彼女がコクリと頷く。寂しそうな顔。迎えてくれた時とは真逆の顔。それを見ると絶対に帰って来なければいけないと思った。
……。
手を繋いでグンマダンジョンへ向かう。ダンジョンの前まで来た時、彼女は名残惜しそうに俺の手を離した。
グンマダンジョンの門の前に立つ。今まで集めたカケラによってできた鍵。それが眩く光ると、グンマダンジョンの門が真っ白な光に包まれた。今までとは全く違う様子に、リレイラさんの方を見てしまう。彼女は、コクリと頷いて真剣な顔になった。
「いってらっしゃい、ヨロイ君」
「行ってきます、リレイラさん」
短い言葉を交わして光の中へ入る。俺は、この地で最後のダンジョン探索へ足を踏み入れた──
次回より最後の挑戦です。間も無くクライマックス。最後までぜひお付き合い下さい。




