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【461さん踏破録】〜元引きこもりダンジョンオタク、入るたびに構造が変わるグンマダンジョンを攻略して最強探索者に至ってしまう〜  作者: 三丈夕六


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第23話 攻略準備

 〜探索者 461さん〜


「また宝石かぁ。あんまり買取ばっかやってたら俺の金が無くなっちまうんだが……」


 亜空間で手に入れた宝石をいつもの商人の所へ売りに来た。商人は迷惑そうな顔で買取を渋る。だけど俺は知っている。それは少しでも安く買い取る為の演技だという事に。


 なぜならこの商人の店に入る前に店の前を小一時間観察していたからだ。みなかみで商人がいる店はそれほど多くない。早くからこの土地で店を構えているこの商人が儲からないはずがない。すでに4組ほどの探索者パーティがこの店で買い物をしている姿を目撃していた。


「俺の前に来た探索者が随分買い込んでたの見てたぜ? 大丈夫だろ」


「はぁ……鎧の兄さんには随分やられちまってるな。いいぜ」


 店主は俺が出した宝石4つをマジマジと見つめ、48万を支払ってくれた。


「まぁでも感謝してるぜ。アンタ7階層のボスを突破したろ? 俺の店で準備したヤツが攻略したって事でよ、最近客が増えてんだ」


「なんだ? 今まで7階層のボスって倒されてなかったのか?」


「俺の聞いた限りではあそこを突破したのは兄さんの他に3組のパーティだけだ。その次は13階にボスがいるらしくてな、それを倒した後……26階に行くと言って突入して帰って来なくなっちまった」」


 ……次が13階。その次の26階に何かある……か。このダンジョンを消すアイテム、エモリアの魔除けがあるのも26階だったな。



「ここ最近では1番先に進んだ探索者だよアンタは。だいぶ注目されてるぜ」


「注目? なんか面倒くさそうだな」


 答えると、店主は「変わってるねぇ」と呟いた。そんなに変わってるか? 探索できればそれで良いんだけどな、俺は。


「で? 他に何か買ってくかい?」


「クロウスラッシャー5枚、ブレイズナイフ3本、回復薬2、魔力回復薬2、麻痺回復薬3、毒回復薬3、恐怖耐性薬3」


「お、めちゃくちゃ買ってくれるじゃねぇか! おまけして21万な!」



 ……消費アイテムに21万払うってのも中々に頭おかしい気がしてきたぜ。だけど、ここで出し惜しみするわけにはいかないからな。前回の残りが11万に今回48万で宝石が売れたから59万。そこから21万払ったから残り38万か……もう少し用意しておくか。


 店主に金を払った俺は、次に符呪士の元に向かった。



 符呪士の店は骨董屋の店先を簡易的に改装した店だ。中に入ると、メガネの気難しそうな爺さんがジロリと俺を見た。


「……なんだ、お前か」


「なんだとは失礼だな」


「うるさい。ワシに符呪のレベルを下げるなどと屈辱的な事をさせおって」


 まだ根に持ってるのかよ、辰巳に言われて痛覚軽減のレベル下げて貰ったこと。あの時も散々渋られたのを強引に対応して貰ったからなぁ。


「辰巳に言ってくれよ。アイツに言われたんだから」


「例えあの治癒師が言ったとしても! それに一理あると思ったからお前はワシに依頼したんじゃろうが!」


 烈火の如く怒る爺さん。そんなに符呪のレベル下げるのって屈辱的なのか? 俺にはよく分かんねぇや。


「まあ良いじゃん。今日は別の符呪頼みに来たんだからよ」


「……何を上げたいんじゃ?」


「物理防御上昇を2段階上げてレベル6に、荷重補助を2段階上げてレベル8に。後は火炎と電撃耐性を1段階上げてくれ」


 防御系は生死に直結するからな。金があるうちに上げておきたい所だ。符呪士の爺さんは、電卓を取り出してパチパチと計算を始めた。


「属性耐性は高いぞ? 2つも上げていいのか?」


「ああ、構わない。あ、そういや暑さ対策の符呪も頼む」


「あ〜それだと全部合わせて36万になるが」


 ここから先はさらに攻略難易度が上がるだろう。万全の準備をしてもまだ足りないくらいだ。36万使うと残り2万……後は攻略しながら金が必要になればアイテム売るか。


「問題無い」


 了承すると、符呪士は時計を見た。


「明日の朝一には仕上げておいてやる。今日は大人しくしておくんじゃな」


「朝一? そんな早くできるのかよ。暇なのか?」


「お、お前が大金払ってくれるから優先してやったんじゃろうが!!!」


「うお!? 悪かったって!」


 再び烈火の如く怒り出す爺さん。俺は、急いで鎧とヘルムを預けて、持っていた上着を羽織り、スウェットズボンを履いて店を出た。




◇◇◇


「あんなに怒らなくても良いよな〜」


 店を出て民泊に戻る。すると、先に出ていたリレイラさんが戻って来ていた。


「リレイラさん、辰巳の要件って何だったんですか?」


「よ、よよよよ……ヨロイ君、お、おかえり……なさい……」


 何だか様子がおかしい。顔を真っ赤にして目を合わせてくれない。今朝家を出るまでは普通だったのにどうしたんだ?


 ……もしかして。昨日温泉に一緒に入ったことを思い出して急に恥ずかしくなって来たとか?


 そう考えた瞬間、昨日のリレイラさんの姿を思い出して俺も恥ずかしくなってしまう。そ、そうだよな。うわぁ……嫌われたかな、俺……。


 リレイラさんに嫌われたら、あれ? 俺、そうなったらすげー悲しいぞ?


「鎧……預けて来たのか?」


「符呪しとこうかと思って。明日の朝一には出来上がるみたいです」


「そ、そう……」


 リレイラさんが顔を合わせてくれない。うわぁ……これは……マジか……こういう時どうしたらいいんだ? ……いや、素直に謝るしかないよな。


「リレイラさん」


「ひゃい!? なんで、しょう?」


 ん? リレイラさんなんでこんなかしこまってるんだ? 目もボーッとしてるし、いつものような鋭さがない。


「昨日はその、わざとじゃなかったんです。リレイラさんとの約束守りたいって思って……あそこが混浴だっていうのをすっかり忘れてたんです。すみません」


「……」


 リレイラさんの顔が徐々に赤くなる。これ、怒っているんだろうか。ここまで怒らせたのは初めてだな……。


「俺、他の奴にはどう思われようと気にならないけど……リレイラさんにだけは嫌われたくないです。本当に、すみませんでした」


 頭を下げる。俺は許して貰うことに賭けて、誠意を尽くすしかない。


「わ、わわわわわ……私にだけは……?」


 リレイラさんが緩み切った顔になる。彼女は、モジモジすると何か独り言を言っていた。


(これは……マンガで脈アリというヤツだろうか……? い、いや、私は魔族で彼とは……で、でも……こんな真剣に言われたらもしかしたら……)


 何を言ってるんだろう……?


「私は怒っていないぞ? むしろヨロイ君が私の事を考えてくれて嬉しかった」


「本当ですか!? 良かったぁ……」


 胸を撫で下ろすと、リレイラさんはなぜか俺を見て顔が緩んでいた。何かあったのかと聞いても彼女はニヤニヤと笑みを溢すだけだ。


 と、とにかく、明日からはまた探索だ。次は何階層まであるのか……絶対攻略してやるぜ。




◇◇◇


 翌日、俺は符呪士の所へ鎧を受け取りに行き、4度目のグンマダンジョン探索へと向かった。入り口前まで送ってくれたリレイラさんが俺を呼び止める。


「ヨロイ君、準備は大丈夫か?」


「アイテムも鎧も大丈夫です。最初の1階層はとにかくコイツを扱う事を最優先にしますよ」


 左腕に付けた小さな三角形……フレクシルドを見る。亜空間で渡されたという事は、コイツが次の攻略の鍵って事だ。何としても効果を解き明かさないとな。


 盾を見ていると、急にリレイラさんが近付いて来た。すぐ目の前にリレイラさんが……って近くないか……?


 彼女は俺のヘルムを両手で撫でるようにすると、そっとヘルムを外した。


「どうしました?」


「ヨロイ君の顔……見たかったから……」


「え、あ、ありがとうございます……」


 すぐ目の前にあるリレイラさんの顔。彼女の呼吸が当たるくらいに近くて……潤んだ瞳に、俺の頭はぼうっとした。何か言わないと……そう考えたけど、何も言葉が出ない。なぜだか分からないけど、彼女の事をずっと見ていたい気がした。


 彼女は突然我に返ったような顔をしてヘルムを戻す。スリット越しの視界になって、若干の寂しさを感じた。


「すまない……」


 リレイラさんがシュンとしてしまう。俺は、今1番言いたい言葉を言う事にした。


「リレイラさん」


「は、はい」


 妙にかしこまるリレイラさん。俺は彼女の眼を見つめて深呼吸した。


「行ってきます。絶対に帰って来ます」


 彼女は大きな瞳をさらに見開いて、そしてふっと笑みを浮かべた。


「行ってらっしゃい。待ってるよ」


 頷いてから彼女に背を向ける。ダンジョンの扉に手をかけると、扉と俺の持つカケラが共鳴し、強い光を発した。


 ……よし、行くぜ。


 俺は、新たなバイオームに向けて一歩踏み込んだ。






 次回、さらに新たなダンジョン構造に新たなモンスターが……?

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