第19話 大蜘蛛戦
そこから俺は階層を一気に進んだ。良かったのはディガーファングがレズームに大きな効果があるという事だ。
ディガーファングは地面へ投げ付けるとドリルのように回転して地面を掘り進む。しかも、その音と振動がレズームを引き寄せる。これをうまく使えばレズームの群れを誘導しつつ先に進める。
4階、5階のレズーム達をディガーファングで遠ざけてから進み、さらに6階層へ進んだ時、スクィジゴブリン達の群れを見かけた。
キャンサーではなくスクィジゴブリン。しかもヤツらが捕食されずに群れを成してるってことはこの階層にレズームはいないようだ。もしいたとしたらあらかた食い尽くされてるだろうからな。
通路の先を進むスクィジゴブリン。ヤツらの持つチャクラム「クロウスラッシャー」は数が少ない。できればこの階で補充したい所だな。
「ギ〜……」
「ギギギ〜」
「ギギッギ……」
ん? あのゴブリン達、妙に上を警戒してるな。
ゴブリン達は、何かに怯えるようにソロソロと通路を進んでいる。消音魔法をかけて気配を消しながらヤツらの後をついていくと、広い部屋に入ったところで、急に1体のゴブリンが空中に飛び上がった。
「ギギ〜!?」
よく見ると、ゴブリンの体には糸が巻きつけられている。他のゴブリン達は慌ててクロウスラッシャーを上空に投げるが、糸を切断できずに跳ね返ってしまう。ゴブリン達は、自分が投げたチャクラムが戻って来た事で逃げ惑った。
飛び上がったゴブリンはそのまま大きな蜘蛛の巣にべチャリと張り付けられてしまう。
ギーギーと泣き喚くゴブリン。暗闇に赤い目がビカリと光る。8本の長い脚で歩いてくるのは、大きな蜘蛛だった。その蜘蛛がゴブリンに噛み付く。糸で全身を拘束されたゴブリンは抗う事もできず捕食され、ただ苦しみの声を上げ続けた。
どうする? アイツと戦うか?
……いや、もう俺は戦う気になってるな。
強敵が現れた事で思わず笑みを浮かべてしまう。周囲を見渡してみる。今の状態だと蜘蛛自体に攻撃が届かない。まずは下に引き摺り下ろす必要があるな。なら、狙うはあの蜘蛛の巣か。
蜘蛛の巣はこの部屋にある天井の隅2箇所とその対角線上にある下2つの隅に糸が伸びており、正方形の部屋を斜めに分断するように張られている。
巣を落とすにはあの角に張られた糸を斬ればいいか。
『あれはアリトラネアだな。ヤツの糸は強靭だ。並みの刃物では切断できないぞ』
強靭……か。確かにクロウスラッシャーの風の刃でも断ち切れなかったからな。俺のショートソードじゃ歯が立たないだろう。
「だけど方法はあると思います。あの巣を切断すれば……」
『戦う気か?』
「どんなアイテムをドロップするか気になりますから。もしかしたら、攻略に役立つかも」
『……分かった。ヤツの糸に絡め取られないようくれぐれも気を付けるんだよ』
「了解です」
さて、どこから狙う? ヤツは他のゴブリンに気を取られている。厄介なのは上の2つの角か。ジャンプ斬りで届くか? 並みの剣じゃ届かなくても……。
右肩から伸びる剣の柄に手を伸ばす。
コイツなら……!!
「キュイイ!!!」
アリトラネアがゴブリンに糸を吐き出した瞬間、右奥の角に向かって走る。ジャンプと同時にシャドウソードを引き抜き、蜘蛛の巣を支える糸へと叩き付けた。
「オラァ!!!」
シャドウソードの刀身が黒い斬撃を纏う。ダンジョンの壁すらも容易く切断する黒いロングソードは、アリトラネアの糸をブツリと切断した。
「キュイ!?」
グラグラと揺れる蜘蛛の巣。俺に気付いたアリトラネアが真っ赤な瞳を発光させて糸を吐き出した。
「キュイイイイイイ!!!」
「おっと」
吐き出された糸をローリングで回避する。そのまま部屋を走って下に張られた糸をシャドウソードで切断する。後2本。
「キュアアアアア!!!」
怒ったアリトラネアが連続で糸を発射する。それを滑り込んで避け、部屋に残っていたゴブリンの背後に回り込んだ。
「ギ?」
消音魔法と、仲間がやられたことで俺の存在に気付いていなかったゴブリンは間抜けな声を上げた。ヤツの首を掴み、アリトラネアへ向けて放り投げた。
「ギ〜〜〜〜!?」
「キュイ!?」
飛んでくるゴブリンに糸を発射するアリトラネア。その隙にもう1つの天井隅に張られた糸にジャンプ斬りを放つ。グラリと揺れる蜘蛛の巣。そのまま最後の糸へと全力で走り、糸を切断。アリトラネアを地面に落下させる事に成功した。
「キュイイイ!!!!」
糸を伸ばす大蜘蛛。その攻撃をスライディングで避け、ヤツへシャドウソードの斬撃を放つ。
「キィアアアアアアアアア!!?」
女の悲鳴のような断末魔の声を上げ、アリトラネアは体からレベルポイントの光を溢れさせた。
──レベルポイントを600pt獲得しました。
お、600pt級か。サダリゲイトに近い。これはアイテムに期待できるかも。
さて、アイテムは……?
アリストラネアの体が崩れ去り、白い鞭が現れる。それを拾い上げて鑑定魔法を使用してみる。
名称:トラネアウィップ
分類:鞭
属性:地
効果:強靭な鞭。攻撃以外にも転用可能。使用回数50回。
「よし! 強そうな武器をドロップしたな」
手に入れた鞭を腰の武器ホルダーにセットする。槍に鞭。必要な時に武器がスイッチできるのは心強いな。
『汎用性の高そうな鞭だな。使用回数も多い。良いアイテムを手に入れたな』
「でも次はもっと警戒します。今回勝てたのはゴブリンが居合わせた事も大きいんで」
『そうだな……最近、急に成長したな……』
「何か言いました?」
『い、いや……それよりゴブリン達はいいのか?まだ2体は息があるぞ』
「そうだった。クロウスラッシャーも補充しとかないとな」
「ギギ!?」
「ギ〜!?」
不意をつかれたような間抜けな声を出すゴブリンにトドメを刺し、俺は先に進んだ。
◇◇◇
モンスターを倒してアイテムを集めながら6階層の最深部に到達した俺は、階段を降りて大きな扉の前で立ち止まった。そして、またあの文字を見かけた。
──この先にボスがいるぞ。
赤い筆記魔法の文字。やっぱりボスか。
『この門の向こうは恐らく冥闇騎士が待ち受けているだろう。アイテムは大丈夫か?』
「最終チェックしておきます」
・スピルギニョル 1
・シャドウソード 1
・トラネアウィップ 1
・ベントナイフ 5
・クロウスラッシャー6
・ブレイズナイフ 10
・ディガーファング 3
・回復薬 2
・魔力回復薬 3
・速度上昇薬1
6階層を進む時に使用したアイテムもあるが、中々広い戦術が取れそうな状況だ。
「これなら……行けるな」
扉に手をかけようとした時、リレイラさんに話しかけられた。
『シャドウソードを鑑定した時の映像が気になる。冥闇騎士はシャドウソードの持ち主に取り憑いていたと言っていたな?』
「はい」
中々に衝撃的な映像だったからな。もがき苦しんで変異していく人間とか……恐らく異世界人だろうが同情するな。
『……絶対帰ってきて』
俺は、彼女を安心させるように告げた。
「大丈夫です。鑑定した時に対処法も分かったから」
『うん……温泉、誘ったのはヨロイ君なんだぞ? 忘れちゃダメだぞ』
「分かってます」
彼女に告げて、扉を開く。暗い部屋に青い炎の灯った薄暗い部屋。如何にもボス部屋といったそこに、俺は足を踏み入れた。
次回、ボス戦です。果たして何が待ち受けているのか……?




