第18話 橋向こうの新エリア
3階層の中ボスを倒し、俺は橋を渡って新たなエリアへ入った。しかし、新エリアの通路をしばらく進んでもモンスターは見当たらない。
おかしいな。さっきまでアレほど溢れかえっていたキャンサーゴブリン達がいない。橋を渡っただけでなんでこんなに違うんだ?
警戒しながら通路を歩いていく。足元が僅かに振動した気がした。耳を澄ますと、どこからか低い音がする。
「何の音だ、これ?」
『もしかして……ヨロイ君、消音魔法を早く使った方がいい』
消音魔法を? いや、考える前にまず使おう。ヴァルガードの時のような事はごめんだ。
「消音魔法」
魔法を発動する。俺の体が青い光に包まれ、物音を立てないようになる。すると、先ほどまで聞こえていた振動音が聞こえなくなった。極力小さい声でリレイラさんに聞いてみる。
(何ですか今のは?)
『ワーム型のモンスター、レズームだ。地面に潜み、獲物を音で捉えている。迂闊に物音を立てると捕食されるぞ』
物音……か。このバイオームはキャンサーゴブリンといい厄介だな。
……まずはどんなヤツか試してみるか。
通路に転がっていた石を拾い上げ、遠くへ投げる。カンカンという音が通路に響き渡った。
次の瞬間、石造りの床がメキメキと割れ、その中から2メートルほどのワームが複数飛び出した。デカいミミズのような体に穴のような口。その口全面に無数の歯が生えている。ファンタジーゲームならサンドワームとでもいいそうだな。
「ギシャアアアアアア!!!!」
レズームが現れ、石を飲み込んだ。しばらく周囲を警戒した後、ヤツは再び地面へと潜っていった。しかも、よく聞くと、地面だけではなく、側面や頭上からも中で何かが蠢く音がする。厄介な奴だなぁ。
リレイラさんとの作戦会議中にレズームに襲われても困るな。
俺は、一度橋まで引き返した。
……。
橋まで戻ってからリレイラさんに話を振ってみる。
「さっきそこら中から音が聞こえてましたね。そっちのマイクでも拾えました?」
『ああ。少なくとも4体のレズームがいるようだな』
左右の壁に天井と床に蠢くレズームか。
「アイツらの攻撃は飲み込みだけですか?」
『ああ。奴らの戦法は1つ。地面に隠れ、標的を音で探し出して丸呑みにする。飲み込まれたら最後、生きたままヤツの腹の中で溶かされるんだ』
「うわ、絶対食われたくねぇな」
だが、逆に考えればヤツらの攻撃は丸呑みだけか……奇襲に特化しているだけみたいだ。奴らの行動は本能的な物ってことか。
「リレイラさん。今から消音魔法を発動してあのエリアを探索します。レズームの数を数えて貰っていいですか?」
『ああ。任せてくれ』
消音魔法を発動し、再びレズームの徘徊するエリアを探索する。できればそのまま突破できれば……と考えていたが、そう簡単には行かなかった。
エリア内にはレバー式の扉があり、レバーを弾くことで石造りの扉が開く。その際に、扉が開く音でレズーム達が周辺から集まって来る。その数は多く、いくら消音魔法を使っているとはいえ、レズームの中を突っ込む気にはなれなかった。
しかも、完全に扉が開ききるまでレバーを引きっぱなしにしなければならないというオマケまで付いている。相当性格悪いな、この仕掛けを作ったヤツは。
結局アイツらは全部倒さないとあの扉を突破できないな。
……丸呑みか。
橋に戻って来ると、リレイラさんの声がインカムから聞こえた。
『レズームの数は全部で12体だな』
「12体……結構多いな」
『どうするんだ?』
バッグの中を見る。何か使えそうなアイテムは……。
……。
あ。
「いい事思い付いた。俺、一回キャンサーゴブリンのいるエリアに行って来ます!」
『何をするつもりだ?』
「へへっ! 見てて下さい!」
◇◇◇
「よし、武器も持たせた。これで大丈夫だろ」
「ギ」
「ギギ」
「ギギッギ」
俺は新エリアの入り口に戻って来た。前にはスピルギニョルで操ったゴブリンが12体。
「じゃあ行って来い」
スピルギニョルの槍先をレズームのエリアへ向ける。12体のゴブリン達は、皆一斉に新エリアへと走り去っていった。バタバタと足音を立てて走って行くゴブリン達。
彼らが新エリアに入って数秒後、通路の上下左右からレズームが現れ、ゴブリン達の捕食を始めた。ゴブリンを飲み込んだレズーム達が満足したのか壁の中へと戻っていく。
俺は消音魔法を発動してゴブリン達の後を追う。スピルギニョルの槍先は通路の奥を示したまま。ゴブリン達は仲間がやられようとも構わず奥へと進んだ。
「ギシャア!!!」
進む度に飲み込まれて行くゴブリン達。そして、最後のゴブリンが飲み込まれた時、俺はスピルギニョルを収納モードにした。カシャリと戻る槍の両端。壁や床に空いた穴へと戻っていくレズーム達。アレが発動するまで30秒から60秒ってとこか。
数を数える。50秒ほどが経った頃。俺は消音魔法を解き、大声で奴らを挑発した。
「オラァ!!! 来いよミミズ野郎!! 俺はここにいるぞ!!!」
叫びながら何度もジャンプする。ガシャガシャと鎧が音を立て、大量のレズーム達がこちらへ向かって来た。
10。
9。
8。
『何をやってるんだヨロイ君!? そんなことをしたら……!?』
「大丈夫。アイテム回収に必要なことをしてるだけです」
7。
6。
5。
『アイテム回収……?』
4。
3。
2。
リレイラさんが疑問を口にした時、大量のレズームが俺の前に現れる。全部で12体のレズームが、俺を捕食しようと顔を出す。
「ギシャアアアアアア!!!!!」
「お、集まってきたな。だが、もうお前らは終わりだぜ?」
1。
0。
カウントが0になった瞬間。 レズーム達の悲鳴が上がる。ヤツらの体から一斉に炎が吹き出したからだ。
「ギィエエエエエエエエエ!!?」
炎にのたうち回るレズーム達。ヤツらはもがき苦しみながらレベルポイントの光を溢れさせた。1体50pt。全部で600ptの光が俺に……。
──レベルポイントを550pt獲得しました。
550pt?
アナウンスが自分の計算とズレている。視線を向けると、かろうじて炎を喰らっても生きのびたレズームが穴の中へ逃げ込むのが見えた。
「逃すかよ!」
ヤツの逃げ込んだ穴へと全力で走り、肩から伸びたシャドウソードを掴む。
「オラァ!!!」
ダッシュ斬りの要領でシャドウソードを叩き付ける。刀身から伸びた影の斬撃が、硬い地面ごとレズームを切り裂いた。
「ギャアアアアアア!!?」
レズームの叫び声の後、穴からレベルポイントの光が溢れ出した。これで本当に600pt。最後まで油断しちゃいけないな。
『何をしたんだ? なぜレズーム達が……?』
驚くリレイラさん。その声を聞いていると少し得意な気持ちになる。自分の考えていた通りにいくと気分良いな。
「あのゴブリン達にブレイズナイフを装備させてたんですよ」
ブレイズナイフを持ったゴブリン達。彼らが飲み込まれた後にスピルギニョルを収納してやる。すると、自動モードになったゴブリン達は、レズームの腹の中でレズームへナイフを突き刺す。奴らの腹に刺さったブレイズナイフは、時間差で炎を吹き出す。
体内から火炎を放出されたレズーム達はそのまま絶命する……って作戦だったがここまで上手く行くとは思わなかったぜ。
『君はそんなことまで考えていたのか……』
「実際アイテム使いながら戦ってると色々組み合わせ思いつきますよ」
『最初に入った時より格段に攻略の安定感が増しているな』
「リレイラさんのおかげですよ」
『私の……? 何かしただろうか?』
リレイラさんのおかげで死なないように最善の行動を取るよう心がけるようにしてるんだよな。だから思い付いたってのもある。まぁ、悲しませたくないし……。
だけど、それを直接言葉にするのは妙に気恥ずかしかった。さっきの中ボス戦の時は戦闘前の緊張感と勢いでカッコつけたこと言ったけどさ。
「まぁいいじゃないですか。……っと、それよりアイテムはなんだ……?」
レズームが吐き出した白い円錐をかき集める。頼むぜ、こっちはブレイズナイフ12本も消費したんだ。せめて武器系であってくれ。
集めたアイテムに鑑定魔法を使用する。
名称:ディガーファング
分類:牙
属性:地
効果:投げ付けると回転し、ドリルのように地面を掘り進む。使用回数1回。
「これは……クセがありそうだけど使えそうだな」
良かったぜ。消費が無駄にならなかった。
レバーを引く。轟音と共に石の門が開くと、下の階につながる階段があった。俺は、グンマダンジョン初の4階層へと進んだ。
次回、先に進んだ461さんは大蜘蛛と戦うことに……そろそろこのバイオームのボスも違近いかも……?




