1117〜押してダメなら引いてみろ
「風ではないのか?」
「風?どこに吹いている?ナナカマドも揺れてはおらん」
「閉まっただけなら開くかも知れない。おい!お前ッ!あの扉を押してみろッ」
「お前?お前がやれよアナナ。皆を城に入れてしまったのはお前の責任。自分でやれ」
「チッ」
海賊兵の長となったアナナ。
スタスタと芝土。扉の前まで戻ると両の手でグイと城壁扉を押した。
しかしビクリとも動かぬ厚い板。
アナナは肩が外れるほど力いっぱい。
3度押してみたが、らちがあかない。
「アナナ。お前って奴は、、、バルウになる資格も首領になる資格もなしだ。大昔にいたここの門番兵は片手で開けようぞ」
「なら、お前やってみろよ」
「言っておくがね、新首領になられるお方。それではいつまで経っても開かぬ。城壁扉ってのは手前に引くものだ。外に開かれてしまってはその扉。錠を握られたら敵の自由となる。覚えておくんだな。中からは押すんではない。引くんだ。手前にな」
辱めを受けたアナナ。
3度切りの力で尽き果てたか、言った兵にやれと命じた。
「仕方のない首領様だ。どけっ小僧っ」
「こ、こ、小僧?」
「ああ、小僧だ。こんな常識すら知らない者。ネネツの大人ではないわい。下がっとれっ」
手下兵。そう言うと背が高いだけのアナナの倍もあろうかという腕っぷし。口髭に埋もれた厚い唇が笑った。
「片手だ。見ておけ。小僧」
左手を城壁扉の鉄の取手。
収めるとグイと手前に。
「ん?ちょっと待てよ」
全く動かぬ扉に手下兵。今度は右手に変えた。
「ググ、グゥーいっ!」
「どうしました?あなたも小僧の仲間入りですか?」
「ムムムッ。グゥーい。グイ」
「開きませんね。お顔真っ赤でありますよ。ハハッ」
「うるさいっ!黙っておれ!腰抜かし男がっ!じきに開くっ!」
動かない扉に巨漢兵。
今度はグイと押してみた。
「ああ、ああ。もうさっきの言葉撤回か?貴様も、押しているではないか?」
「なにぃ〜!!」
「ま、そりゃあね。常識では計れぬものありましょう。引いてダメなら押してみる。押してダメなら引いてみる。しかし開かぬは開かぬ。ハハッ!」
巨漢の手下兵。
扉から手を放すと、その両の隙間。
腰を屈めて城外を覗いた。
「アナナ。これは押す引くの問題ではない」
「どうした?貴様が言ったのであろうッ。城の門扉は手間に引くものだとッ。ハハッ」
「笑いごとではない」
「笑うところだ」
「押しても引いても動かぬはずだ。外に丸太が2本。掛けてある」
「え?」
「つまり何者かが鍵を掛けたのだ。重い丸太は人の手に寄らず掛かるもんではないな、、、」
「じゃあ扉が閉まったのは、、、?」
「人だ。ハメられた。ハカられた」




