##28 ごめーん父さん
「えー?ってね、そう言いたいのは私の方だけどねぇ……この水のベットは心地いいね。体が浮いているような軽さだ。なのに柔らかく包まれている様な……――――」
「父さーん、話の途中で寝んな? オレはこれが魔術なんだと思ったら、魔術じゃないって言われてビックリ、し~た~ら~「と、思うよ?」とか曖昧なコトゆーから」
「ナニ イッテンダ コイツ。ッテ オモッタンダヨネー」
イシャスは思わず左肩のウィ―ルを見る。
「――や、まぁ、そーなんだけど……ウィ―ルって意外と辛口」
「カラクチ? フツーダヨ?」
「イシャスも緑妖精様も酷いね。もう少しくらい現実逃避をさせてくれてもいいだろうに」
「あ、寝てたんじゃなくて、とーひしてたんだー……」
(父さんでも現実逃避すんだなぁ)
「って、ウィ―ルの事なんだろーけど、りょく妖精ってナニ?」
「イシャスが緑の妖精だと言っていただろう?」
「あ、うん。緑がりょくか……」
(緑妖精かぁ。ステータスっぽいのには緑の妖精って書いて?あったけど、なーんか微妙に違うっつーか、緑がりょくって日本語じゃねーの? そーいや錬金術師とか、こっちのオレが知らないの読めたしなぁ…。う~ん、あっちとこっちの言葉の差がわかんないな。どーなってんだろオレの脳。ま、わかんないからまたスルーしちゃうけど、解決してないからたまに気になんだよなぁ)
首を傾げ、考え事をしているのがまるわかりのイシャスを見ながらルシスは口を開く。
「昨日から思っていたけど、目覚めてからのイシャスは一段と理解力が上がっているね」
「――え。……あーうん、そーみたい、だけど」
(父さん気付いてたんだ。んじゃあロザリアとか母さんも?って、変に思われたり――)
「そんな顔をしなくても、それ以外変わっていないというのは分かっているよ。水の精霊様が関係しているだろう事もね」
元々ルシルは気の置けない間柄の中でも、イシャスに対しては特に気が抜ける傾向であるのだが、振り返ってみれば起きてからのイシャスとの会話では、イシャスの返事の後に力が抜けていたので、それなりに他に変わったところがないか心配して探ってはいたのだろう。
「――へ? なんでわかんの?」
(ほっとしたけど。めっちゃほっとしたけど――)
「パールガ イシャスノ オデコニ イバショ ツクッテ、イシャスガ キョウセイ スイミン シタアト、ルシス ノゾイテタヨ」
ルシスが返事をする前にウィ―ルが答えた。というかニュアンス的にちくった。
その後の話しが長いので軽くまとめると、ウィ―ルの「ノゾイテタ」発言に対し、ルシスが人物鑑定というスキルを使えると言った事により、自分基準で全部みえると勘違いしたイシャスが、「みえてたなら話しちゃったほーがオレが楽になるかなー」と、転生の間からの事をすべてルシスに話した。
「あー、父さ~ん?」
「……??――――?! う、う~ん…………」
イシャスの話しを聞かされたルシスは、魔術云々で現実逃避をしたばかりなのもあってか、普段の処理能力が全く発揮されず混乱したままである。
そして見た目は、まだウオーターベットに寝そべっていたので、まるで悪夢にうなされている様だ。
(返事がナイ。ナウローディング、ちょっと待ってね、ってカンジだなー。ちょっとがどれくらいかわかんないけど。人物鑑定ってステータスみたいなの見えるんじゃないのかなぁ? それか、やっぱ転生の間の事とか? パールとのきっかけだから、や、ウィ―ルもだけど、言っといたほーが話がとーりやすいかなって思ったんだけど…)
「まー父さんがナニにパニってるのかわかんないからー、取りあえず午後のお茶にしよーかウィ―ル」
「ウン。デモ……イシャス パール ミタイ」
「え?! パールみたいって…どこが?」
「ゼンブ、マルット ハナストコ」
「――――が~ん……」
(口でが~んと言う日が来ようとは……。そっかー、そっかー、気を付けよう。たった1日半くらいなのに慣らされてる…ナニにじゃなくて全部か。全部にパニってんだな、オレも全部にパニくったよ。オレは1コずつだったけど――)
「ごめ~ん父さん。フルコースなカンジで~」
「キヒッ。 ウィ―ル パールノ ミズ ノミタイ」
「あ、あ~うん。ってグラスないな。作るか? や、お菓子もたべたいから持って来てもらおーっと」
イシャスは、これまたロザリアお手製の魔道具のベルを鳴らす。と、間髪を容れず「コンコンコンコン」と扉がノックされ開かれた。
「失礼致します」と入って来たのは、侍従でも執事でもなく、家令のオリバーであった。しかも、お茶のセット用のワゴンも用意してある。手ぐすね引いて待っていた様だ。
彼、オリバーは領地の管理を行う事のできる家令である。今は当主のルシスもいるため、屋敷の管理と兼業しているが。
ちなみに容姿は、五十歳を少し過ぎた中肉中背、鋭い黒い目、栗色の髪に白髪がメッシュのようにあるオールバックで、背筋がピンと伸びている。
何故普段と違い家令が来たかといえば、イシャスの話しを聞き始めた時にルシスがとっさに防音の魔道具を使用したため、隣室の執務室で仕事をしていた侍従がそれに気付き、家令に報告した結果である。
家令の中で、最優先になった何かがあるのだろう。
「うわっ、はやっ。めっちゃ早い上にオリバーってエスパー? お茶の用意してある~」と通常運転のイシャスに対し、ルシスの様子を見て動揺を隠しきれないながらも、こらえるオリバー。
「旦那様は、ええ、どうなさったのですか? イシャス様」
「う~んと、父さんはまだ、まだ…なんだ? パニくってかたまってる?から、オレとウィ―ルはお茶して待ってよーと思って」
「――――左様ですか。では、お茶は何にいたしましょうか」
「オレはねー――」「ウィ―ルハ グラスガ――」と、やはりイシャスとウィ―ルは通常である。だがオリバーの方も動揺を抑えつつ、ウィ―ルの事や、ウィ―ルに出したパールの水の事、水のベットの事などを、着実にイシャスから聞き出している。
この二人は、イシャスが呼び捨てで呼んでいる通り初見ではなく、ロザリアと同様定期的に、お菓子込みでおしゃべりをしている祖父と孫のような間柄なのである。
お茶とお菓子が終わる頃には、昼寝をしていなかったイシャスは自分にも水のベットを作って夢の中へ。
オリバーはそんなイシャスに歯磨きの代わりに浄化という生活魔法をかけ、ルシスは相変わらずうなされている。
すでに常識が出来ている大人なので、イシャスのように流していくのが難しいのもあるが、一番の原因はファメール家、ファメール家当主の紺の色に関係する神の事、なのだろう。




