##17 増やしてたべたい 後
「――お待たせしましたわ、イシャス」
「あ、やっぱそっちから来たんだ」
プライベートエリアの北側に隣接する錬金部屋から、採取道具を携えたリリーを伴なって、いそいそと現れたロザリアは、リリーに所作を軽く注意されつつも嬉しそうである。
ロザリアが自分を心配していたとは思いもしないイシャスは、現状のロザリアを見て、にぱっとする。
ちなみに、イシャスは錬金部屋を、調薬室を兼ねた仕事部屋だと思っている。
それらも行っているので間違いではないのだが、メインは魔法薬を調合する仕事場であり、咎められる事無くロザリアが趣味のお菓子や料理を作れる部屋でもある。
「ええ、準備もありましたので」
「うん。で、どの山菜どーとるー?」
イシャスは採る方に、ロザリアは食べる方に比重が傾いているが、山菜好き同士似たような雰囲気をかもしだし、全種類採ろうと二人で盛り上がっている。
その勢いのまま、手袋をリリーにはめてもらったイシャスは、どんどん山菜を手で摘んでいく。
当然のように、一番増える採り方にしたようだ。
後日にまわしたが、ロザリアは株も増やしてもらう予定である。
「おお! 山菜採りだ~……ん? 離れの庭と同じくらい増えてる、かな?――うん、増えてる。ラッキー」
イシャスは実験結果が印象になったりと、今までもそうだったが、気になる事を考えたり試したりはするが、突き詰めてまで知ろうとはしない大様な性格であるようだ。
すでに、この世界の真理の一部を体験していたり、パールにナチュラルに聞かされているイシャスにとって、その人となりは幸いな事といえるだろう。――この件に関しては、だが。
「それは嬉しいですわね。――私は摘み終わった山菜の灰汁抜きをしてきますわ。リリーはイシャスが木の芽を摘む補佐をお願いしますね」
山盛りの薇と少量の独活が入っている籠をロザリアは自ら持ち、錬金部屋へ鼻歌が聞こえそうな後ろ姿で向かう。
(やっぱアクあるよなー、ゼンマイ。手袋にもガッツリこげ茶のアク付いてるし…どーすんだろ。――つーか、肩よりチョイ上に腕伸ばして山菜とるの、地味につかれる~)
「さ、イシャス様。木の芽類の後は残りの山菜も採っていただかなくてはならないので、今までのようにニマニマしながらサッサとどうぞ。―あら、一文字多かったようです。失礼しました」
「そこはニコニコって言ってっつーか、両方わざとじゃ~ん――――え、ナニ? なんでワゴンにオレを乗せてんの、リリー」
「木の芽を採るのに丁度よい高さだからです」
「――確かにいーカンジだけど…ワゴンだよな、コレ」
(んで、リリーって意外とパワフルだなぁ)
「しっかりとした作りのお高い物なので、強度的にもイシャス様が乗るくらいは平気ですし、汚れても良い様にシートも敷いてあります」
「……まーいーか。んじゃ、ガンガンとるぞ~」
「さすがイシャス様、適度なスルースキルが素敵です。あ、この木は棘に注意してください」
「わかった。つーかナニそのスキル…まぁいーケド。それよりさー、ゼンマイのアク抜きってどーやんの?」
たらの芽をリリーが差し出している籠に入れ、灰汁の付いた手袋を見せて聞くイシャス。
「――そうですね…通常は固くならないように適宜手もみしながらカラカラになるまで天日で干します。その後、水でしっかり戻したら調理できます」
「(だよなぁ…)――んじゃ、ロザリアは?」
「奥様は魔法薬や調薬の技術をムダに応用されて、乾燥も水戻しも、ひと手間でなさいます」
「えーなになにナニそれ。オレそっち見たかった。見たかった~……つーか覚えたい」
「今回は諦めて下さいイシャス様。イシャス様をお昼寝前にお送りしないとなりませんので」
「あー…母さんかぁ。昨日の今日だしな――今回は?」
「奥様の好物なので当然次回もあります。なによりイシャス様に錬金術をお教えする事にものすごく乗り気でした」
「おお!」
「旦那様にご相談なされると思いますので、すぐに予定が組めるとは言えませんが、イシャス様のご希望でもありますから却下もされないと思います」
「やった!!」
素で子供らしく喜びながら、最後のたらの芽を籠に放り込むイシャス。
「話しながらでしたのに棘にもさされず、摘むのが手早いですねイシャス様」
「6コしかとれるのなかったし。ん~、14コかぁ…まあまあ増えた」
「十分増えてますイシャス様。――さ、次に参りましょう」
「うん」と返事をしたイシャスを確認し、ワゴンを押すリリー。
「うおっ! って……オレ乗せたまま運ぶんだ、リリー」
「楽しいかと思いまして」
「や、楽しいよ? 楽しいけどさー、ひと声かけて――って、あー参りましょうがそーだったのかぁ…」
――――と、まったりと話しつつ手早く山菜を摘んでいくイシャス。
この調子であれば、元が少量なのであっという間に全て摘み終わる事だろう。
ロザリアは料理にも裏技を使うのだろうし、これから恒例になるかもしれない特別な昼食はもうすぐである。




