##18 昼飯うまいし笑顔も…?
「さ、出来ましたわイシャス。どうぞ召し上がれ」
錬金部屋からサロンのテーブルへ並べられたロザリアの手料理は、たらの芽とこしあぶらの天ぷら・薇の煮物・こごみの吸い物・独活の酢味噌和え・青みずのおひたし等で、イシャスが今までこの世界で食べていたもの――――基本的にパン・スープ類・サラダ・果物など――――とは、全く異なる料理である。
今のイシャスにとっては、よく知っている料理かも知れないが。
「――おー! めっちゃウマそー……」
(料理見たらポンって記憶でたよ。まんま日本食じゃん。白米もあるしー。この世界の食ってどーなってんだろ?)
イシャスは食前の祈りをして、自分用に取り分けられていた中から、まず天ぷらをフォークでスプーンのようにのせて食べる。
(うまっ!ナニコレ――サクッとした薄いころもは小麦粉と油の甘さが――んで、やわらかいケドむにゅっと歯ごたえのあるタラの芽の緑の味?と香りの中に少しのアクの苦みと、なんかの甘みが、付けた塩でなんつーか、うまい。うま~い!――――ん?なんでウマく感じんだろ? 苦味は受け付けないお年頃だよなオレ――って、少しの苦みと甘み?)
「お味はどうですか? イシャス」
イシャスに合わせて同じタイミングでお祈りをして、ほくほく顔で一番の好物である、こしあぶらの天ぷらを食べていたロザリアは、それでもイシャスの様子は見ていた。
聞くまでもなく、美味しいと表情と態度に出ているイシャスに、ほっとしながら水をむけるロザリア。
イシャスの口に合わない時用に、抜かりなく普通の食事も用意してはいたのだが。
「うまーい。山菜ってアク抜きしても苦いんだよね? だからウマそーだけど食べられないかもって思ったけど、すげーうまい。――やっぱオレ用に作ってたり?」
「ええ、もちろんですわ」
イシャスが美味しく食べられるように、愛情――だけではなく技術と知識を込めて作ったロザリアである。
「だからウマいのかー。ナニかわかんないけど、コクがある?のにすっきりした甘いのと、特にオレでもへーきな、ちょこっとある苦さが。……アクないと逆にマズくなるかも?」
「よくわかりましたわね、イシャス。山菜料理の美味しさは苦味あってのものですもの。――あ、いえ、これは私の好みですので、灰汁を抜ききったりしてはいけないという訳ではありませんのよ? きっとイシャスと私の好みが、嬉しい事に似ているのでしょう」
「あ~、ロザリアが作るの何でもオレ好みでウマいと思ってたけど、好みがにてるのかー。んで――――……」
イシャスの素の感想がロザリアにとっては褒め言葉だったのか、ただでさえ上機嫌であったロザリアから零れた微笑は、輝かんばかりである。
その、極上ともいえる笑みを見たイシャスの刻が、一瞬止まる。
(――――おおー…すげー微笑見たよ。なんだろ? 一瞬息でも止めたのか? なんかドキドキするなー?)
「イシャス?」
会話中に言葉を途切れさせたイシャスにロザリアは、どうしたの?とでもいうように首を傾げる。
「あっうん……ちょっとね。――んで、甘いのはナニ?さとーじゃなさそーだけど」
(アレ? なんかごまかしたよオレ。今までなら、ロザリアのほほえみ威力スゲーとか口に出しそーだけど? や、言い方は違うだろーけど……ん~、まぁいーか)
「――本当に良く味の違いがわかりますわね、イシャスは。あの甘みはハーブの一種の―――――」
精霊関係の事かと思ったのか、ロザリアはそれ以上踏み込まず話し出す。
その話に興味をひかれ聞き入り始めたイシャスは、少し前の自分の事を流してしまった様だが、傍から見れば一目瞭然。
イシャス五歳半、食事中に恋におちた。
いくらロザリアがイシャスの理想のタイプであろうとも、タイプと恋は別物だったのである。
一方、その傍から見ていたリリーは音もなく溜息を付き、ぼそぼそと独り言を呟く。
「山菜味の初恋――さすがイシャス様、少し甘くて苦いんですね……あら? 本来ならイシャス様には苦くて受け付けない山菜が…………絶対叶わない筈ですが……イシャス様だと、さすがイシャス様、なんてことに……」
そんな呟きの止まらないリリーを置き去りに、二人の話しは食事をしつつも進んでいる。
「―――――この料理は、私が隣国――ベルロンド王国というのですが、その国にある錬金術学園に在籍していた頃、知り合いになったエルフの方に教わりましたの。それから大の好物になってしまいましたわ」
「レンキン術学園!? そんなのが隣の国にあんの? つーか、エルフって絵本に出てたけど本当にいるんだー」
家の広い敷地内を探検しているとはいえ、基本離れに居るイシャスは所謂箱入り息子である。
一日のスケジュールに学習も組み込まれていないので、平均的な五才児よりもこの世界の物事を知らない。
「……ええ、大陸の東にある国の一つに、リスキュールというエルフの国がありますわ。――私たちの暮らすこの国は、大陸の西に4つある国の一つで、アーリス王国といいます。錬金術学園は……多分イシャスには向かないと思いますわ」
「――え、なんで?」
ふんふんと聞いていたイシャスは最後の言葉に反応する。
「それは……私が錬金術をイシャスに教える事となれば、いずれわかりますわ」
ロザリアの言葉を素直に聞いたイシャスは、首をかしげながらも頷く。
「ですが、その前にイシャスは――基本的な学習を、始めましょう?」
「おお! いーの?」
「――イシャスは勉強を強要されるのが嫌なのでは、ないのですか?」
「あ~、カシスにきーたみたいに、合わない家庭教師?に一方的に教えられんのはヤだけど、物を知るのはきょーみあるよ。本読んでいろいろ知ろーと思ったんだけど、絵本とちがってムズかしー文字わかんないだろーから、どー覚えよーって丁度思ってたトコだし」
「そうなのですか……」
聞いていた話と異なり、喜んで勉強する気のあるイシャスに、ロザリアは腑に落ちない顔で考え込む。
ロザリアが聞いていた話はイシャスが寝込む前の事なので、多少の齟齬はあるが、それを差し引いても、何かイシャスの母イリアの思惑がありそうではある。
「では、イシャスは学習する事に否やはなく、むしろ希望するのですわね?」
「うん。まず読み書きはぜったーい」
「―ふふっ、わかりましたわ。合わない家庭教師は嫌なのですわよね。……イシャスに合う方を探していただきましょうか」
「あー、それならオレ、リリーがいーんだけど――――」
その後、美味しく昼食を食べ終えたイシャスはリリーに送ってもらい、あっさりと午睡する。
そうは見えなかったが、イシャスの脳はかなり疲労していたのだろう。
そして、何やらぼんやりとしているパールは、眠りにおちたイシャスの額へとスッと消えた。




