##12 ロザリアとお茶 三
通常のお茶の時間としては、始めたのが遅かったこともあり過ぎてしまっていたが、話の流れと雰囲気的にお開きにはならなかった。
イシャスが遊びに来るのも、一旬に2・3回ではあるが、だいたい午前のお茶が終わってから昼食までの間が多かったというのもある。
「オレのおかげ的にほめられんのメッチャうれしーけど、ロザリアの気が晴れやかになんのは、もともとロザリアの心が晴れみたいにキレーだからじゃ~ん?」
ほのかな塩味が甘さをより感じさせるサクサクのクッキーを食べて、少しの間をおいてからイシャスは言う。
「それは…受け取り方が良い、ということかしら? それでしたら私も、イシャスの事をそのように思っていますわ」
「ロザリアってオレにあまあま~」
「本当にそうですね。奥様はイシャス様がお相手だと、ご自分もマナーに反したりなさいますし。今はお言葉遣いも、お嬢様の頃のものが少々まざっておりました」
「――そうでしたか?」
マナーの方は自覚があったようだが、話し方も緩くなっていたと聞き、リリーに確認するロザリア。
イシャスいわく、一言でいうと女神様みたいなロザリアでも、中身は人柄がいいとはいえ普通の人間である。
人としてのマナーならばともかく、貴族の立場として義務であるマナーは、必要がなければしたくはないし、気も抜きたいのだ。
その相手がイシャスしかいないというのは、不憫でもあるが、居るだけ幸せともいえる。
「そんなのどーでもいーんじゃん? マナーとかが必要な場? とかじゃないし、オレあいてだし」
「そうですよね?」 「――そうですね」
少しはずんだ声音で、イシャスが良いならいいわよね、というようなニュアンスのロザリアと、やはり言葉のイメージとは裏腹に微笑んでいるリリー。
リリーの今のほほえみは、ロザリアがイシャスとの会話で、楽しそうなのが嬉しいのだろう。
「ロザリアは――あ、リリーもだけど、思ってるコトけっこーだだもれだから、どんないい方しても変わんないよー」
「駄々洩れですか? 私は、いつも変わらない仮面のような微笑でキツイ事をいう嫌な女ですし、そう言われますが」
すぐに反応したのはリリーである。
ロザリアは、だだもれという言葉に首をかしげていたが、リリーの言った事に思うところがあったのか、口を開こうとする。だが、イシャスの方が早かった。
「それってリリーがわざとそーしてるか、相手がリリーの事みてないんじゃないのー?」
それを聞きほっとしたロザリアは、そのまま成り行きを見守る。
「……なぜ、イシャス様はそう思うのですか?」
「え~? リリー今まで、近所の子かまう世話好きのねーちゃんみたいだったしー、オレにあまあまなのはロザリアだけじゃなくてリリーもだし。んで、さっきの話でなんとなく?」
イシャスがリリーに馴染んでいる理由。それは、そもそもロザリアは忙しく、うまく予定を立てても、急な仕事というのが発生したりするので、遊びに来たイシャスの相手を毎回できる訳ではない。
だが、せっかく来たイシャスを返したくないロザリアと、この地域では珍しい、初春の気温に適した薬草等に、目を輝かせて勝手に過ごせるイシャス。
結果、必然的にリリーがイシャスの世話、という名目でかまうことになる。
余裕が無かったり苦手だったりしなければ、幼い子というのは大概可愛いと感じるものだが、それに加えイシャスは約束も守れる、顔立ちもいい子供である。
約束が守れたり話が通じたりするところなど、人によっては引いてしまうかも知れないが、リリーは可愛い上に楽だと受け取り、世話をするごとに分かってくるイシャスの性格も、リリーにとっては好ましいものだった。
何より、主であるロザリアに懐いているし、そのロザリアは、視界でうろちょろするイシャスを時折見ては、上機嫌で仕事をするのだ。
リリーに、イシャスを可愛がるな、という方が無理な話である。
「――――だだもれ、でしたか」
はにかんだ笑みで、ぽそりとリリーはつぶやいた。
リリーは勿論わざと、周囲の人間に遠巻きにされる様にしていたのだ。ロザリアだけ、本人にはどうしようもない理由で敬遠されてしまうのが、シンプルに嫌だったのである。
「私が仕事をしている間に、ずいぶん仲良くなっていたので・す・ね」
拗ねたように言うロザリアは、今までよりかなりくだけている。
自分がうとまれていると感じる、その理由が分からなかったロザリアは、なついてくるイシャスが嬉しくもあるが、「無理をしているのでは?」嬉しいからこそ、「何かの拍子で嫌われてしまうのでは?」と、可愛がりたいのに一歩引いて様子をうかがっていたのである。
そして知った、原因である理由を改善できない理不尽と、人と付き合っていくうえで大事な要素である表情が、乳兄弟にすら見えていなかった事に大きなショックを受けたが、その上で、そのままのロザリアでよかったかも、と言うイシャス。魔力の圧を受けているのに、それをこらえ、見えない表情を予測しずっと支えてくれていたリリー。
ロザリアのしなやかな心は、孤独を伴う不運にとらわれる事なく、舞い込んできた小さな幸せを受け入れていた。
「奥様のおかげで、役得ですね」
普段通りに返してきたリリーに、ロザリアとイシャスは笑む。
「リリーってカンジする~」
「そうですね、イシャス」
心はくだいても言葉は砕かないりりーである。
侍女という仕事に就いているリリーのポリシーなのかも知れないが、主と、一応客となるイシャスにまざって要望された話以外をしている時点で、侍女の立場としてはかなりゆるい。
アルフォンス達が来ていたら、話の流れも違うだろうし、とうぜん控えていたのだろう。
現に、乳兄弟であるアルフォンスと兄であるロジスが来るからと、ロザリアが気を配り呼んでいたオリーは、イシャスを席に促した時以来、一言も話さず――話せずともいうが、控えている。
逆にオリーは、イシャスに話をふられたのに答えられなれなかった事が、通常ならば失敗となるのだが、見習いであるなど色々込みで、大目に見られている。
そのオリーは、控えながら話を聞いていくうちに、当初おどおど、おろおろとしているような顔付から、どのような心境の変化か、かなり異なってきている。
「奥様、イシャス様の体調がどうなのか、お聞きしなくていいのですか」
疑問ではなく、ロザリアをうながすリリー。
「――! そうでした。まだイシャスの回復を喜んだだけで、すっかり私たちの話になってしまって……私、浮かれていたようですわ」
「オレがロザリアのコトきーたんだし、調子はばっちり~。それにオレ、カシスといたからロザリアも無意識に安心してたんじゃないのー」
(んで、浮かれて拗ねたりとか、ふつーにカワイーし、もれなくギャップ萌えもついてくるよ。口に出して言いたい、ケド、いくらオレに甘いリリーでもなぁ…ロザリアのレアな表情見える発言したらジェラシーが吹き荒れそーだし)
「――イシャスの言葉に甘えますわ。……体調と言えば、イシャスは突然意識不明になった心当たりが、何かありますか?」
(――どうしよう、めっちゃアルヨ――――)
思わず自分の肩を見たイシャスである。




