##11 ロザリアとお茶 ニ
「あれ? なんでオリーは目ぇかっぴらいてんのー?」
ロザリアが用意した、程よく冷えたアップルジュースを口にしていたイシャスは、静かな注意の声につられ目を向けた先に可愛い変顔を見つける。
「オリーは奥様がイシャス様の為に、お飲み物を用意したことに驚いているのでしょう。メイドや侍女の仕事ですから」
頭の中が白くなってしまっているオリーの代わりに、ロザリア付きの侍女であるリリーがイシャスに答える。
「それと、イシャス様の言葉遣いも、それを許される奥様にもですね」
つけつけと言う言葉だけ聞くときつそうだが、カチューシャのような編み込みをした長い黒髪に青い目の可憐で大人しそうな美女は、嫌味を感じさせない、くすくす、というような微笑と声である。
「リリー」
たしなめる響きを含んだロザリアの呼びかけに、リリーは変わらぬ笑みで「失礼しました」と控える。
「そんなボ~ゼンとするほど……そーいやリリーも最初の頃おどろいてたよーな気がする」
控えたばかりのリリーは、ほほえみ顏で肯定する。
(リリーはロザリアといてもフツーっぽいよなぁ……)
「ねーロザリア~、オレがロザリアと会うときリリーが付いてるけど、たまたま?」
「いえ、リリーは私付きの侍女ですから、いつも一緒ですね」
「いつから一緒?」
「……リリーの発言が気に障りましたか?」
「え?――リリーなんか変なコト言った~?」
「―ふふっ。イシャスが気にならなかったのならいいのです。リリーとは生まれた時から一緒なのですよ」
「あー、乳きょーだいなんだぁ……」
(なるほど、ならフツーでもおかしく――や、おかしくね? そんな絆あんならもっとこ~……なんだろ? イマイチしっくりこないケド…まぁ、生まれた時から一緒の逸材にはちがいないか)
「じゃあさぁ~、リリー、ロザリアがうとまれてるってどーゆーコト?」
イシャスはロザリア本人が疎まれていると言ったことを気にしていたようだ。
その、イシャスの問いに軽く息をのんだリリーは、やはり同じような状態のロザリアを見る。
「……何故リリーに訊くのです?」
気を取り直したロザリアは逆にイシャスに問うた。
「だってロザリアにうとまれるトコってナイじゃん。もしあっても、自覚してんならロザリアって自分で直しそーだし。だから」
子供故か性格故か、言葉足らずなイシャスの発言を少しの間をかけ理解したロザリアは、うっすらと目を潤ませる。
「私も知りたいです。リリー、あなたはいつも私に非は無いといってくれますが、何か心当たりがあるのでしたら話してください」
「だよねー、ロザリアに非とかナイよねー。うとまれるっつーか、すーはいとかケイアイとかされると思うんだけど」
イシャスの言葉でほほえみを取り戻したリリーは力強く頷き、口を開いた。
リリーの主観であるという前置きの元の話をまとめると、どうやら敬遠される大きな理由はロザリアの魔力のようだ。
魔力の量が多ければ多いほど、魔力量の少ないものからすると、なんらかの圧を感じるらしい。
ルシスやイシャス、イリアからも感じるが、ロザリアの場合その圧の質が、うまく言い表せないが違うという。
その他の理由として、ロザリアの整いすぎた容姿や貴族としての所作等が余計にその圧を際立たせてしまい、ロザリアの人柄関係なく畏怖のようなものを感じてしまう、と。
「あ~、そのキラッキラの魔力にそんな作用があんだぁ…まー、そーじゃなくても見た目女神サマみたいだもんなぁロザリアは……あわさってドーンって?」
悲しいかな、人は多かれ少なかれ見た目に左右されてしまう生き物なのである。
さらに、本能に危機を感じさせる魔力もあっては、敬遠と畏怖がまざった様な反応を周囲がしてしまっても仕方がないといえば仕方がないのだが。
(……でも、魔力の圧っつーのがオレにはピンとこないからなぁ…ソレだけでそんな反応になるのかぁ?)
「イシャス様、魔力がキラキラと見えるのですか?」
リリーの話にまだ、やや呆然としているロザリアよりも、話し終え二人の反応をうかがっていたリリーがイシャスの感想の一部に食いつく。
ちなみにオリーはスタートで頭の中が白くなっていたので、今は逆に落ち着いており、話を少しずつ理解していっている。
「え、あ~うん」
「魔力を魔力として、別にですか?」
「いまいち魔力として別ってのがわかんないケド、魔力は見えるよ」
「……では、ロザリア様――いえ、奥様のお顔…表情がお分かりになりますか?」
「はー? あたりまえじゃーん。ナニいってん――って、もしかしてリリーわかんないとか?」
「――はい。魔力の少ない私だけではなく、魔力の圧を相殺できるルシス様ですら、透明ではあるらしいのですが、魔力のモヤのようなものがあり、奥様の表情を見ることができないそうです」
「――まじかー……」
(や、ほんとにマジかー。異質な圧を放つ無表情の女神様――あぁ、うん、ナットク。ーにしても、オレしかロザリアの表情見えてなかったっつーことかぁ?ーあれ? でも魔力見えるようになったの今日だよ? う~ん……まぁいーか。ロザリアをロザリアとして見れてたんだし?)
「…………私の、表情――いままで、見えてなかった、のです、か? リリー」
リリーとイシャスのやり取りが耳に入ったロザリアは、信じられないというように、生まれた時から一緒である乳兄弟に問いかける。
そのきれぎれの問いに、はっと口を押えたリリーの顔に悔いるような感情が浮かぶ。
イシャスと話をしているうちに、結果的に言ってしまったが、表情の事までいうかは決めかねていたのだろう。
「――――――はい」
すでに口から放たれてしまった言葉はごまかせず、絞り出すように返答したリリーに、ロザリアは声も出ない。
ロザリアとリリーとの間の事ではあるが、つらそうな二人にイシャスは我慢ができなくなったのか、つい口を出す。
「リリーはスゴイね。ふつーに見えてるみたいだったし、ロザリアが中身も美人だったからがんばったんでしょー? それにやっぱロザリアに悪いトコないってわかったし、ロザリア自身が見えるオレ的には、ロザリアはさみしかったり悲しかったりすると思うとアレだけど、変な虫が寄ってこない、その殺虫剤みたいな魔力あってよかったんじゃね? って思うよ」
イシャスは二人のフォローから始め、ちゃっかりロザリアへのアピールを付け加え、そして、少しズレたところへ着地した。
イシャスの言い方はともかく、確かにその魔力がなければロザリアは、人柄もよい絶世の美女であるので、良い事よりも面倒ごとや不幸に見舞われる危険がかなりあるだろう。
ショックを受けたロザリアと、ロザリアを悲しませた後悔にさいなまれていたリリー、二人の心にゆっくりと、イシャスの言葉にこもった気持ちが沁みていく。
――――そして二人は同じタイミングで、くすっと笑った。
「――やはり貴方は、私の心を晴れやかにしてくれるのですね、イシャス」




