##13 ロザリアとリリーって…けっこーアレ
(あ、べつにオレ魂のコト抜きで、泉でパールアタック受けた辺りから言う分にはいーのか? カシスには起きた夜に押しかけられたトコから、もーアバウトに話してるしなぁ…)
「うーん……あるケド、話すと――たぶん続きが長くなるよーな気がする」
(詳細きかないで受け入れちゃうの、カシスくらいだし)
「――原因ではなく続きが長く……通常ある事ではないのでしょうか」
ロザリアはイシャスが見た肩、パールの居るところを見つめながら続ける。
「イシャス、貴方が気にしているのは私の予定と、イリア様かしら?」
「そーだけど…なんでロザリアが母さんにサマつけてんの?」
(パールがいるトコ見てるみたいなのより、ソッチのがオレ的に気になる)
「イシャスに言ってなかったかしら? 私も魔術師ですから、優秀な魔術師である方への敬意でもありますし…貴方の母上ですもの」
「ロザリアまじゅつ師なんだ~…ゆーしゅーじゃないマジュツ師なんていんの? つーか、オレの母さんだから…?」
「ええ、イシャスの母上だからですし、魔術師になれる者は少ないのです。そして、魔術師になれたとしても、魔術を行使する能力もバラバラなので――たいていの者は、魔法士用の魔術具を――魔法具ともいいますが、開発する研究職というような方向へ落ち着いてしまいます。中には魔法士用だけではなく、魔道具というアイテムを作ること、錬金術そのものに楽しみを覚え、そちらの方へ従事してしまう者もいますが……とにかく、イリア様は治癒魔術も使えますし、特に優秀なのです――」
「奥様、魔術や錬金術の事となりますと、端的に申し上げて、長いです。その上、本題からそれております」
ロザリアは自分でも長くなりそうだと自制したのか、一旦はイリアの話に戻したが、前述の補足をしようとでも思ったのか、さらに口を開こうとした時、ほほえみリリーから、さくっと続きそうな話を切られ、頬を染めた。
「ロザリアってけっこー、アレなんだぁ……」
(おたくっぽいよ。でも、魔術とか錬金術とか――なんかイイな。特に錬金術……胸がゾワゾワ? ソワソワ? する。コレだ!的な)
「――っ。…その、少々、熱くなってしまいましたわ。本題からそれた上に恥ずかしい所を見せてしまって、ごめんなさいねイシャス」
「んーん、オレはべつに~。むしろレンキン術? くわしく聞きたいなー」
言葉のゆるさとは逆に、目をキラキラさせてそう言ったイシャスに、ロザリアの顔もパッと輝く。だが――――
「奥様、まずはイシャス様が意識不明になった原因のお話からです。色々、ながくなりそうですので、一応、お昼も含め遅くなる旨、イリア様にご連絡するための指示をお願い致します」
リリーの先制パンチのような、真っ当な言葉に、ロザリアは沈んだ。
なんだかんだいって乳兄弟というのは、強いのである。リリーの場合、なんだかんだ、あったからこそ、ともいえるが。
「ならオリーに頼めばー? いつもだったら、マジメな兄さんは予定どーりなコトすんだろーけど、ロザリアに呼ばれたお茶こなかったり、なんつーか反抗期っぽい? し、オレがまだ帰ってナイから、たぶん兄さん達も母さんのトコいそーだし」
(兄さんだけロザリアに対して、な~んかね。今考えると、魔力の殺虫剤っぽい効果だけじゃなさそーだったしなぁ……)
「…そうなのですか?――いえ、そうですね。ではオリーに頼みましょう」
反抗期など、五才児が言うようなことではないし、今までのイシャスも話は通じたりしたが、ここまでではなかった。
だが、それにロザリアは違和感どころか、アルフォンスのあれは反抗期なの? とでもいうように、そのまま受け取っている様であるし、よく話していたリリーの方も、少々ひっかかりを感じたようだが、多分すでに心を開いて可愛がっている子であるので、イシャスだから、とカシスのように思っている事だろう。
もともと、イシャスがゆるい口調で口が悪いのも、気にならない一因かも知れないが。
同じ内容でも、ですます口調で、「反抗期のような気がします」等、言っていたら、さすがに引いていたかも知れない。
ちなみに、イシャスの口調が許されているのは、準貴族ではないが、当主の子として認められているという微妙なラインのせいと、イシャスの言い方が乱暴な印象をあたえないからである。
そして、オリーは自分の名を挙げられた事ではなさそうだが、少しのおどろきと、何か考えているような顔でイシャスを見ていた。が、ロザリアに改めて連絡の指示と、その後は休憩という名の自由時間を命じられ、一礼してこの場を後にした。
自由時間というのは、イシャスの言う通りアルフォンスがいて、その後の予定もさぼる気ならば一緒に過ごしても良いというロザリアの気配りである。
「ロザリアー、暑くなくなったから、つぎミルクティー飲みたいなぁ、あったかいヤツ」
「わかりましたわ。私も温かいものが飲みたくなったところですし。イシャスのものはティーを少なめにしますから、香りやアクセントに何か入れますか?」
「う~ん…甘めのにシナモンとジンジャーちょこっと」
「――おいしそうですわね。私も同じものにしようかしら」
ロザリアは、リリーが使いやすいように動かしてくれた、簡易コンロと同じ用途の魔道具が載っているワゴンを前に、まるで新しい調合をするかのように、どのような作り方がいいかしら?などと言いつつ機嫌よく、作ったことのないティー作りをはじめる。
その様子を見たリリーは、長くなりそうだとため息を付き、イシャスをかまう事にしたようだ。
「イシャス様は、侍女である私に催促するべきではないですか?」
「ロザリアの味つけのセンスがオレ好みだからー」
「奥様の味付けのセンスがお好みですか。さすがイシャス様、お生意気ですね。私のお作りするものは、お好みではないのでしょうか」
見習いのオリーが居なくなったので、先輩として張っていた肩の力を抜いたのか、イシャスの頬を、ふにふにとつつきながら聞くリリー。
イシャスの世話をしている時は、お茶の時間ではなくても様子をみて、飲み物などを用意していたので気になったのだろう。
「母さんが作るのより、ふつーにはウマいよー。センスって、びみょーなトコじゃん? ロザリアは子供に合わせてくれてんのもあるケド」
「…独身のもうてんでしたが、ほめてくださってはいる様で安心しました。――ところで、イリア様がお料理系が苦手とは伺っておりませんが?」
「んー、べつに苦手ってワケじゃなくて、調薬みたいにレシピどーりカッチリ作るのは、むしろ上手なんだケド…ただ、食べると、おいしくないとまずくはないの間くらいなんだよなぁ…」
「上手にレシピ通り作れるのに、ですか?」
「そー。レシピがアレなのか、料理のセンスがナイっつーか…料理を作ってきたケイケンがナイっつーか? そんなカンジ」
ニューオレになったイシャスが、ペロッと付け足してしまった料理の経験とは、レシピには書かれていない、温度や空気、間といった、繰り返し作らなければわからないコツのようなものと、調味料を入れる順や下ごしらえ等のことだろう。
その些細なポイントが少しずつ合わさった結果、イリアは手際よく微妙なものを作ってしまうようだ。
「それは…なんとも私には言えませんが。――それにしてもイシャス様は、反抗期や料理の経験など、どこで覚えてくるのですか?」
「ロジスからー」
(ォ、オレの口すげー、即答したよ。や、ロジスから色々聞いてんのもホントだけど、よくビクッてなんなかったなぁ――無意識に頼らないでもう少しネコかぶるべきかぁ? でもなぁ、五才児のオッケーラインがわからないし――)
「やはりロジスですか。イシャス様もカシス様も、ロジスから良くも悪くも影響を受けすぎですね」
「わるいコトのほーが覚えやすいんだって、楽だから」
「――ロ・ジ・ス……」
(やはりだって、ロジスごめ~んそしてありがと~って、アレ?)
「リリーってロジスのことは呼びすてなんだ?」
「はい。基本は、もちろん上の方が様、同列の同僚などがさん、後輩や下の者は呼び捨てにする決まりですから」
「兄さんのごえー兼側づきはリリーの下になんの?」
「そうですね…ロジスが実家である子爵家を出て、一般人として冒険者になっていなければ、次期当主の側付きでもありますし、難しいところではありましたが、私の立場は現当主夫人付きの乳兄弟の侍女ですから」
「ん~、なんとな~くわかったけど、侍女だからってのがわかんない」
「そうですよね。イシャス様はそういうお勉強はしてませんからね」
またしてもイシャスの頬をふにふにするリリー。
「侍女は貴族家の者しか就けませんし、私の実家はロジスより一つ爵位が上の伯爵家なので」
「あ、そーなんだ。なんで、侍女とメイドって二種類しょくぎょーめいがあんのかなぁーって思ってた。同じような仕事なのに」
「準貴族なので、信用と爵位の差ですね。それと、同じような仕事といっても、メイドの方が雑務が多くキツイです」
「え~、準ってダケの身分差でそんなチガウの?」
「当然です。貴族家の令嬢として育った人間が、マナーや教養以外の仕事で役に立つ訳がありません」
「そっちかー……リリーっておもしろいよねー、なんつーか、カレンなびじょって見た目なのになかみがー。あと、いい方も」
「――イシャス様が大きくなったら、私と結婚しますかー?」
イシャスと同じように語尾をのばすリリー。冗談半分なのだろうが、独身という私情が入ると、言葉も多少くずれる様だ。
「え、オレはロザリアとけっこんするー。リリーとけっこんすんのがヤなわけじゃないケドー」
「それは好都合です。私は側室にしていただきます」
「いーよ。それならリリー、けっこんしてもロザリアのそばにいれるもんねー」
「……イシャス様、結構本気でグラッときました」
「――はぁ、あなた達は何の話をしているのかしら」
ニ回スパイスミルクティーを作ったが気に入らなかった様で、違う方法で三回目を作り始めようとしていたロザリアが口を出す。
「オレが大きくなったら、ロザリアとけっこんする話~」
「もれなく私が側室についてきます」
「ふふっ、リリーったら――それで、イシャスは私と結婚してくれるのですね。嬉しいですわ」
リリーのノリを注意せず、つい自分も乗ってしまったロザリアは、自分の息子たちが言ってくれなかったので、本当に嬉しかったのだろう。
「やった! じゃあ大きくなったら結婚してね、ロザリア」
イシャスは五才児のテンションにひきずられ、きらっきらの目でにっこにこである。――――オレ魂の好みなので。
だが、イシャスにしては珍しい勢いとキラキラ具合に加え、やけにはっきりと結婚と言った事に、リリーは一抹の不安を抱いたようだ。
「イシャス様、奥様とは結婚できませんよ? すでにイシャス様のお父様と結婚なさっていますから」
「なんでー? 父さんは母さんもいんじゃん。なのになんでロザリアはダメなのー」
「……イシャス様はそのようなお考えですか。とても素晴らしいです」
「リリー、答えになっていませんし、悪乗りしすぎです」
「では奥様がお教えください」「え、それは――――」
――等々、話は続き、ほのかなスパイス感の甘いミルクティーと、イシャスの意識不明になった原因の話は、まだしばらく先になりそうである。




