春は、桜の絵を言葉で描いて 07
「高梨のやつ、小学のときから、図工とか苦手できらいだったのに、中学に入ったとたん、美術の授業を真剣に聞いちゃってさ。それに、美術部に入ったなんてさ」
「うん。考えられる可能性は、ひとつですね」 ぼくは、なんの根拠もないことを話す。つまり、でたらめだ。
「なんだ?」
「高梨先輩は、美術部の誰かに恋しちゃったんじゃないですか?」
「な……。まさか」 田中先輩は、目を丸くして昇降口があるほうを向く。とうぜん、高梨先輩の姿は見えない。東門の近くにいたので、昇降口が校舎に隠れてしまっている。田中先輩は、後ろ歩きしながら、東門を出る。ぼくは、その後をあわてて追った。
「大丈夫ですか?」 ぼくは聞く。だって、田中先輩がボゥっとしたままでいると、車にひかれそうになったり、みぞに、はまってしまうからだ。でも、後ろ向きに歩かれるよりは、ましだ。
「ああ、じゃあな」 家の前につくと、田中先輩はやっと声を出して、家に入っていった。学校から、ぼくの家のほうが三軒分、距離が短いのだけど、心配なのでちょっと送ってあげたことに、先輩は気づいているのだろうか。
一体どうしたのだろう。ぼくは、家につくちょっとの間、考える。いきなり、風邪を引いたでもないし、石が頭の上に落ちたわけでもない。もしかして、さっきぼくが言ったでたらめに、気づいて怒ったのだろうか。だから、なにも話さないとか。
ああ、家についた。玄関に入ると、カレーのにおいがする。金曜日はいつもカレーライスなんだよなあ。
月曜日の放課後も、美術部部室の前は混雑していて、窓を見ると、やっぱりネコが何匹かうろうろしていた。
「あれ、鍵、見つかったんじゃなかったの?」 ぼくは、近くにいた木野に話しかける。
「ううん、金曜は、となりの部の部長さんが、なぜか開けてくれたの」
となりの部? 美術部は、別校舎の一番端で、階段に一番近い教室だから、となりは、一つしかない、文芸部だ。ってことは、鍵を開けたのは、竹内先輩か……。
「え? どうして、先輩が持っているのかな……」ぼくはつぶやく。
「なんかね、美術部と文芸部は、同じ鍵で開くみたいなの」
「へえ、それじゃあ、今日も先輩に開けてもらったら?」
「それがね……、文芸部に行ったんだけど、ノックしても誰も出なくて……。佐沼くん、行ってくれる? 文芸部だよね」力強い目で、ぼくを見つめる木野。
「いいよ」 ぼくは、軽くうなずくと、文芸部の部室へ向かった。木野もついてくる。
カラリと扉が開く。なんだ、誰かいるんじゃないか。そう思って部室に入ると、真っ暗だった。電気がついていない。
「あれ……、どうしたんだろう」 電気をつける。ひと一人いなかった。また、集会か図書室にでも行っているのだろう。そう思って、ぼくは、いつも鍵がかかっているフックのところへ行く。
「え? ないなあ」 ぼくは、首をかしげる。
「どうしたの?」 木野が、廊下から部室をのぞきこみながら、聞いてくる。
「いやね、鍵がないんだよ。いつもここにかけてあるのに……。先輩まだ来てないのかなあ。でも、鍵は開いていたし……」
「そう……」
「葉子、鍵が開いたわよ」 木野を呼ぶ声がする。
「ええっ、本当? だって、鍵は?」 木野は、美術部室にかけ出していった。




