春は、桜の絵を言葉で描いて 08
部室には、ぼく一人が残る。
昨日座っていた窓ぎわパイプ椅子に、ゆっくりと座ると、カバンから原稿用紙を取り出した。
金曜日に書いた小説の続きを書きはじめて、約三十分後。
「おう、書いてるなあ。どら、先輩に見せてみ」 田中先輩が、部室にやってきた。
「まだ、できていなんで……。そうだ、どうして鍵が開いていたんですか?」 ぼくは、田中先輩の原稿をとろうとする手をするりと抜けて、質問をする。
「金曜、鍵をかけなかったからじゃないか」
「ああ、そうか」 どうも、土日をはさむと記憶が飛んでしまうらしい。
田中先輩は、金曜と同じパイプ椅子に座って、原稿用紙を取り出した。
「さあて、書くかな」
「何をですか? また宿題ですか」
「ちがうって、小説だろ」シャープペンをカチャカチャふる田中先輩。どうやら、それが癖のようだ。
「そういえば、竹内先輩はどうしたんですか?」田中先輩に今にもかみつかれそうなので、話題を変える。
「さあ、見かけんなあ」 まだ、ぼくをにらんでいる。
「文芸部と美術部の部室って、鍵が同じなんですね。どうしてですか?」
「え? お前、知らなかったの? 元々、ここも、あっちも美術室だったんだよ」
「へえ……」
美術部の部員は去年の時点で、五十人もいたらしい。元々は、学校の美術室を部室として使っていたのだけど、それでも収まりきらなくなったので、新しく、同じ大きさの美術室を作り、いままでの教室を美術部にうけわたし、入り切らない部員は、新しい美術室で、作業することになった。
そこで、そのときの文芸部部長が手を上げた。竹内先輩ではない。森先輩というらしい。そのとき、森先輩は、こう提案した。
「旧美術室を半分、文芸部にくれませんか?」 と。
理由は、文芸部も、部室がなくて、図書室や教室で作業をしていたんだ。だから、部室がほしいと。一年前の部員は、四人だから図書室で十分じゃないか、という意見がでたのだけど、森先輩の熱心な説得で、部室を手に入れることができたというわけだ。
半分は、あまりにも広すぎるので、美術室の四分の一のところで、旧美術室に白い壁がはられた。それが、ぼくが疑問に思った真っ白な壁だ。
そういういきさつがあって、文芸部と美術部の部室は同じ鍵で開くというわけだ。
「なるほど……」 うんうんと、ぼくはうなずく。
「すごいだろう? 森部長は」 まるで自分のことのようにえばる、田中先輩。
「ネコは? どうして、美術部にネコがいるんですか?」
「うーん。さあなあ」 腕くみをする田中先輩。
「それにしても、部長、遅くないか?」
「そうですねえ」 ぼくは、テーブルにおいていたシャープペンを手に取り、原稿用紙に向かう。田中先輩もシャープペンをカチャカチャと鳴らした。




