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春は、桜の絵を言葉で描いて 09

 「おうおう、部長登場!」 ガラガラと戸を開けて、竹内先輩が入ってきた。機嫌がよさそうだ。手にたたんであるパイプ椅子を一脚持っている。それを、田中先輩の横において、自分は向かい側に座る。ぼくの横だ。

 「どうしたんですか? 遅かったですね」 ぼくは聞く。竹内先輩は、ニコニコだ。

 「いいえ。べつにい、あ、そうそう、帰りに東門をちゃんと閉めて帰りなさいね。クラスのみんなにも言ってくれる? 田中くんもね……、ってあれ? 小説書いているのね」

 田中先輩は、原稿用紙に向かっていた。竹内先輩に気づいているようすもなく、ときおり、となりに置いてある国語辞書を引いている。まったく、ぼくに頼らずに最初からそうすればよかったのに。

 「田中くんは、小説を書きはじめると、周りが見えなくなるのよね」

 「……そうだ、ぼく、東門を閉めた記憶がない……」 ぼくは、竹内先輩に言われて、やっと思い出した。何かを、忘れているような気がしてたんだよなあ。

 「でも、何で、知っているんですか?」

 「そりゃあ、美術部にネコがいるからね」 竹内先輩が、ぼくのとなりのパイプ椅子に座った。

 「え……。ああ、そうか。そういうことかっ」 ぼくは、立ち上がった。パイプ椅子がガタンと倒れる。

 「へ? なんだ? どうした? ……おう、部長。いきなり出現か」 椅子が倒れる音に、顔を上げる田中先輩。寝ておきたようなボゥっとした顔だ。

 「分かりました、田中先輩! ネコが美術室にいたわけが」

 「うん、東門だろ」 田中先輩はそういうと、原稿用紙に戻っていった。

 「へ? 知ってたんですか?」 ぼくは、倒れたパイプ椅子を、元に戻して、座る。

 「そりゃあ、今回のことに、薫子が関係しているからよ」 竹内先輩は、ニコニコ顔で、文庫本を開く。

 「な……。部長、何を……」 とつぜん、しどろもどろになる田中先輩。

 「え? ……どういうことです? 薫子って、高梨先輩のことですよね」

 「そうよう。なんか、分かったって言って何にも分かってないようだから、わたしが、説明してあげるわ」 竹内先輩は、文庫本を閉じると、椅子から立ち上がって、歩き出した。

 「さて、ことのはじまりは、東門の扉の閉めの悪さからおきたことなの」

 「え? ぼくが、原因なんですか?」 ぼくは、自分を指さしながら言う。

 「ええ、そうよ。でも、他に東門を通った人も、原因ね。閉めた扉があったら開けてから通って閉めるけど、最初から、開いていると通っても閉めはしないわ」 ぼくは、竹内先輩の言っていることが良く分からない。

 「文芸部は、比較的他の部より、早めに終わるの。ということは、帰りに東門を一番に出るという日が多いということね。東門を、開いたままで帰ってしまったんでしょう?」

 「はい。あ、でも、金曜は、元から扉が開いていたような……」 ぼくは、田中先輩が、後ろ向きに東門を出る姿を、思い出していた。そう、そのときは、扉が開いていたんだ。

 「他の部が、終わって、東門を出ようとすると、扉が開いている。ネコが入ってくるのは夜だけだから、昼は常時開いているの。だから、昼と同じだから、誰も不思議がらないし、ネコのことなんてそんなに、覚えていられるものではないわ」 そうか、金曜は、文芸部が部活を終える前に、終わった部があって、扉を閉めないでいたんだ……。竹内先輩は、一息つくと、話を再開した。

 「扉が、開いていたから、ネコが侵入したわ。そこに、部活を終えた薫子が、通りかかったの」

 「え? 高梨先輩が?」 竹内先輩はうなずく。

 「そう、薫子は、ネコをほおって置けなかったのね。その日は、一段と寒かったから。それに、雨も降っていたようだし。だから、美術室にネコを入れたの。外においてはかわいそうだし、夜はここら辺の交通量が多いから、危険でもあるのよね。美術室に、ネコを入れたのはいいが、美術室の鍵は前から、紛失している。鍵をかけなかったら、ネコが、廊下に出てしまうかもしれない。そこで、思い出したの。文芸部と美術部の鍵が同じであることを。だから、借りに来たのよ。鍵をね」

 「でも……」 ぼくは、疑問に思ったことを話す。

 「時間的におかしいですよ。ぼくが、扉を閉め忘れるより先に、高梨先輩が鍵を借りに来たじゃないですか」

 「ふうう」 竹内先輩が、パイプ椅子に腰を下ろした。

 「もう、話すのは疲れたわ。田中くん。美術部から薫子を呼んできて。当事者から話してもらいましょう」

 「え? おれが呼んでくるの?」 今まで、だまって聞いてきた田中先輩は、目を白黒させながらも、立ち上がり、部室から出て行った。


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