春は、桜の絵を言葉で描いて 05
「博士! 大変です!」 扉をバンと開け、助手のトムくんが、わしの研究室に飛んできた。
「どうしたんだね! トムくん。何があった!」 わしは、座っていた椅子から立ち上がった。いきおい良く立ち上がったため、椅子がガタンと床にたたきつけられた。
「博士が作った『犬型ロボット ツー』の口から、ネコが大量に出てきています!」
「なんだって!」 わしは、目を大きく見開きながら言った。トムくんが後ずさりする。わしの目が怖いんだろう。なんといっても、わしは、三十年前に、 『目の大きさグランプリ』 で優勝したことがあったんだからな。それに、日々の徹夜で目が充血している。さぞ、怖い顔になっていたことだろうか!
そのときのわしは、そんなことおかまいなしに、おどろいているトムくんをつき飛ばし、研究室の外に出た。
「はああ! なんてこと」
緑の丘に立っている 『ツウェンター研究所』 の真っ白い壁が、なんと 『犬型ロボット ツー』 の口から出てきた大量のネコたちの、爪とぎになっているではないか! 研究所を建設したときに、 「ザラザラの壁にしてください。なんか、かっこういいでしょ」 なんて言わなければ良かったのに!
「は、博士……。どうするんですか?」 よろよろと、研究所からトムくんが出てくる。良く見ると、目が青くふくれている。
「どうしたんだね? トムくん」 わしは、首をかしげた。
ああ! そうか。トムくんは、このネコたちに、やられたんじゃな! わしのかわいい助手、トムくんを、こんな風にしてくれて、なんてこと! それに、ニャー、ニャーとなんてうるさいんだ!
「ええい、しずまれええ」 わしは、目をカッと見開いて、大声で叫んだ。
すると、大量のネコたちは、ビクッとふるえると、サーと海の水が引いていくようにして 『犬型ロボット ツー』 の口に吸いこまれていった。
「なんだったんでしょうね」 わしの研究室でコーヒーを飲みながら、トムくんが聞く。もうすでに、キズは治っている。
あれから、わしとトムくんは、 『犬型ロボット ツー』 の口にガムテープをはって、ダンボールに入れて、倉庫にしまった。
「あれは、わしが最初に作ったロボットなんだ」
「へえ、あんなにたくさんですか」
「そう、楽しくて作ったら、多すぎて怖くなった」 わしは、あのネコたちを思い出して、みぶるいがした。
「ニャー、ニャー泣くんだ。目がかわいい。そっくりなんだ。でも、ロボットなんだ。生きていないんだよ。それがたくさん。それが、怖かった。だから、ネコじゃない犬ロボに飲みこませたんだ」
「…………」 トムくんは、コーヒーをだまってすすっている。きっと、わしのことをあきれているんだろう。明日にでも、この研究所を去るかもしれない。
「壁をザラザラにしたのだって、本当は、ネコの爪を、とがせるためなんだ。わしのロボットは、つめも伸びる。すごいだろう?」 わしは、軽く笑って、コーヒーを飲んだ。
「ぼく、ここを出ます」 やっぱりな。わしは、窓の外を見た。青空が美しい。
「あ!」
「何書いてるの? もしかして小説? うわあ、見せて、見せて」 竹内先輩が、原稿用紙をのぞきこんで来た。いつの間に来たんだろう。外を見ると、もう、暗くなってきている。




