冬は、ココアに涙の雪を溶かして 13
次の日、竹内先輩は学校を休んだ。
卯月拓海が学校に来るということで、朝からクラスのみんなは興奮ぎみだった。
「卯月拓海が来るんだぜ。すごいよな。うちの学校出身だったなんて」 関原が言ってくる。
「知ってたのか? 卯月拓海のこと」
「ああ、もちろん。え、まさかおまえ、知らなかったのか?」
「まあ、ちょっと前までは知らなかったな」
五、六時間目が卯月拓海の講演会になった。
「こんにちは。みなさん」 卯月拓の声がマイクを通して、体育館にひびき渡る。
講演会がはじまった。
何を言っていたのか、良く覚えていない。
卯月拓海を前から知っていたわけでもないし、イラストのファンでもない。
でも、卯月拓海。
その人をじっと見た。
皐月先輩の父親だけある、きれいで、りっぱだ。
声は低くても心の底にひびくようにすんでいる。
ふーん。
感想といったら、それだけしかないけど、いい二時間だったと言える。
学校が終わった後、皐月先輩と父親の皐月匠は、帰っていった。
見送る文芸部員に、皐月先輩は、いつも読んでいた文庫本を森部長に差し出した。
「これ……、光に渡してください」
「うん。分かった」 森部長はうなずいた。
「手紙書きます……っていっても、住所わかんないから書かないけど、電話番号は分かるから、何かあったら電話していい?」
「もちろん。でも、時差を良く考えてな」 杉先輩がほほえむ。
「はい。…………それじゃあ」 皐月先輩はおじぎをすると、ゆっくり回れ右をして歩いていく。
最後まで、悲しそうな顔をしていた。
「森部長……」 おれは、皐月先輩のうしろ姿を見ながら言う。
「何?」
「何で、皐月先輩は竹内先輩に最後まで、引越しのこと言わなかったんでしょうか……。あんなに仲良さそうだったのに……」
「だからだよ」 杉先輩がつぶやく。「姫の悲しそうな顔を見たくなかったんだ」
「わたしも、そう思うよ。でも、姫は裏切られた気分になったんだと思う。だけど、姫がもし、引越しするってなったら、きっと姫もそうしていたと思う。それほど、大切な仲なんだよ。茉里と光は」
あれから、一年ちょっとたった。
森部長と杉先輩は卒業して、竹内先輩が部長になった。
佐沼先生はちがう中学に転任になって、その息子が文芸部に来た。
竹内先輩は、あれから小説を書かなくなった。
皐月先輩の話も、全くしなくなった。
でも、皐月先輩のことを怒ってたり憎んでいたりは、絶対していない。
なぜなら。
毎日、暇さえあれば。暇じゃないときも。
皐月先輩からもらった、文庫版卯月拓海のイラスト集をながめているから。




