冬は、ココアに涙の雪を溶かして 12
次の日の放課後。皐月先輩が転校するのは、明日になった。
「ねえ、茉里。新作書いてみたんだけど。読んでくれる?」 竹内先輩が、原稿用紙の束をもってニコニコしている。
皐月先輩は、文庫本に目を落として顔をあげない。
「茉里……?」
「え、ああ、ごめん」 皐月先輩は文庫本を閉じる。
杉先輩を見ると、本を読むふりをして皐月先輩と竹内先輩のことを見ている。きっと、森部長と同じクラスだから、聞いたんだろう。皐月先輩のことを。
おれはというと、原稿用紙を買ってきた。
本を読むのはつまらないし、せっかく文芸部に入ったのだから、何かしら書いてみようと思ったからだ。
そのとき、図書室に森部長と南条先生が来た。
「聞いて、みんな。ビックニュースよ!」 森部長が腕を広げながら言う。 「美術部部室の四分の一が文芸部の部室になるの!」
「え、もう? だって、佐沼先生は明日帰ってくるんじゃ……」 竹内先輩が目を見開いて言う。皐月先輩もおどろいている。
「昨日、夜遅くに佐沼先生から電話がかかってきてね、そういう話になったの。文芸部にあげますよって」 南条先生が説明する。
「へえ。何で知ってたんだろ。わたしたちが部室を欲しがっていたこと」 皐月先輩が首をひねる。
森部長が昨日頑張っていとことは、おれと杉先輩しか知らない。
「いつですか? いつから部室が使えるようになるんですか?」 おれは聞く。
「今からでも、使えるそうよ。旧美術室のはしっこのテーブルだけどね。来月から、旧美術室を二つに分ける工事を行うことも決まっているわ」 南条先生はほほえみながら言う。 「でも、残念ね。皐月さんは転校するから」
「えっ」 急に、図書室中が静かになった。竹内先輩の声がひびく。 「茉里……。本当?」
「うん。明日」 皐月先輩が竹内先輩と目を合わせないようにして、言う。
「どこへ?」
「イギリス。お父さんが、日本に戻って来るから……。そのときに一緒に行く。実際に行くのは来週になるけど。いろいろ準備があるから、学校は明日までなんだ」
イギリス?
明日?
日本に戻って来る?
まさか、皐月先輩のお父さんって……。
「卯月拓海?」
皐月先輩はうなずく。
「そう。卯月拓海はペンネーム。本名は皐月匠。イラストレータを仕事にしている」
「……どうして? 今まで日本にお母さんと暮らしてきたじゃない」 竹内先輩が聞く。声が涙声だ。
「お母さんも行くの。妹も一緒。家族みんなで行くことになったんだ。前から決まっていたことなんだよ、光」 皐月先輩が、やっと竹内先輩のほうを見る。
「どうして……。今まで教えてくれなかったの?」
「………………」 皐月先輩はだまって図書室を出て行った。
「茉里!」 竹内先輩がさけんだ。その場に泣きくずれる。
森部長が、竹内先輩に近寄る。
「姫……」




