冬は、ココアに涙の雪を溶かして 10
「話は聞いたわ。わたしも前から、文芸部に部室がないのはおかしいと思っていたのよ。全部は無理としても、半分、四分の一ぐらいはもらえるんじゃないかしら」 真剣な顔で話す南条先生。頼もしい先生だ。
「それじゃあ、さっそく佐沼先生に……」 杉先輩があいている職員室をのぞく。佐沼先生とは美術部の顧問の先生のことだ。おれのクラスの担任でもある。
「それが今日は、出張でいないんですって」 森部長が肩をすくめた。
「帰ってくるのは明後日になるのよ」
「明後日じゃあダメ」 突然、皐月先輩が声を出した。
「何で?」 森部長が首をすくめる。
「今日か、明日じゃなきゃ……」 うつむく皐月先輩。
「どうしたの? 茉里……」 竹内先輩が皐月先輩の顔をのぞきこむ。
「ううん。なんでもない」 皐月先輩は顔をあげると、ほほえんだ。
「それじゃあ、明後日にでも佐沼先生のところに行きましょう」 森部長がそう言って、今日はお開きになった。
学校から家に帰って黒飴をなめていたら、三十分後くらいに家の電話が鳴った。
「はい、もしもし」
「あ、田中さんのお宅ですか? 太一くんをお願いします」 なんとびっくり、森部長だ。
「太一です。どうしたんですか?」
「あのね、佐沼先生の電話番号を知ってる? たしか田中くんのクラスの先生って佐沼先生だったよね」
「知ってますけど……」
「じゃあ、教えてくれる?」
「はい。えっと……、ちょっと待ってくださいね」 おれは受話器を持っていないほうの手で電話機の横にあるアドレス帳を引っ張り出す。
さ……さ、さぬま……。っと、……あった。
「言いますよ。いいですか。────です」 受話器の向こうでえんぴつを走らせる音がする。
「うん。ありがとう」
「聞いてどうするんですか? 佐沼先生に電話を?」
「…………」
「森部長?」
「あのね、姫には内緒にしてくれる?」
「……はい」 竹内先輩に内緒? どういうことだろう。
「茉里ちゃんがね……、転校することになったの」
「え……」
「しかも、明後日」 それで皐月先輩が今日か明日じゃないと……って言ってたんだ。
「でも、どうして竹内先輩には内緒なんです?」
「わたしも帰りに茉里ちゃんから聞いたんだけど、そうしてくれって言われて……」
「杉先輩には、話したんですか?」
「ううん、明日話すつもり。内緒にして欲しいのは姫だけにってことだから……」
「そうなんですか……」 なんだか、悲しくなってきた。せっかく文芸部に入ったのに、もう、お別れなんて。
「どこに、転校するんですか?」
「それが、教えてくれないのよ、茉里ちゃん。感じからすると、とっても遠いところみたいだけど」
「…………」




