冬は、ココアに涙の雪を溶かして 09
「いいね。それ」 話に乗ってきたのは、皐月先輩だ。文庫本を閉じて身を乗り出している。
「え? どういうことですか?」 竹内先輩が聞く。
「のっとるのよ。美術部部室を」 同じことを言う森部長。
杉先輩は、ニコニコと笑っている。
「どうやってですか?」 おれは、一応聞いてみる。まさかとは思うけど、おどしたりとかじゃないだろうね。
「もちろん。おどしたりとかはしないわ」 おれを見すかしたように言う森部長。 「説得するのよ。先生を」
「先生?」
「部員に言ったって、反対されるだけ。どっちにしても、結局最後に動くのは、先生だからね」 丸いメガネを指でおしあげる森部長。
「なるほど。で、誰に言う?」 皐月先輩が聞く。
「まずは、顧問に相談。許可を得たら美術部の顧問に行く。それでもダメなら……」
「ダメなら?」
「校長先生ね。直談判よお」 こぶしを突き上げる森部長。
「おおー」 おれたち四人は拍手をする。
「静かにいいいいー!」 司書の先生に怒られる。
「ね、だから、部室が必要なのよ。おちおち拍手もできやしない」 森部長は首をすくめた。
なんだか、楽しくなってきた。
ただ本を読んでいるよりは、こうして動こうとしているほうがいい。
おれたち文芸部員は、さっそく職員室へ行く。図書室から昇降口に向かって歩くとすぐに職員室がある。
「失礼します。南条先生はいらっしゃいますか?」 森部長が戸をノックして、一人で入っていく。
廊下に残されるおれたち。
おれは、職員室の壁にはってある掲示物を見ることにした。
『英語検定を受けてみませんか?』
『夏休みの部活動について……』
『マッチ一本火事のもと』
『あの卯月拓海がやってくる! 講演会を湖宮中体育館で!』
卯月拓海? どこかで聞いたことあるような……。何でわざわざ湖宮中に来るんだ?
その掲示物をよく見ると、母校である湖宮中に帰ってくるとある。日付は明後日。
ふーん。おれもいつか有名人になって、こういう風になったりして。
「何、見てるの? あ、卯月拓海が来るんだー。へー」 竹内先輩と皐月先輩が来る。
「卯月拓海かあ。わたし、あの人きらい」 首をふる皐月先輩。
「何で? すてきなイラストをたくさん書くじゃない」
「きらいと言ったらきらい。大きらい」
「へえ。茉里がきらいなんて、よほどのことなのねえ」
竹内先輩が意外そうにうなずいていると、森部長が職員室から出てきた。南条先生もいる。




