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春は、桜の絵を言葉で描いて 03

 「べつに」 ハハハと笑い出す田中先輩。

 こんな会話をして、何が楽しいんだ。何でいつも田中先輩と一緒なんだ。という疑問は、心の奥深くのさらに深くにしまってある。鍵をかけて、厳重に保存。液体窒素で凍らせてもいいのだけど、液体窒素ってどこにあるのかが分からない。何を考えているのだ、ぼくは。とりあえず鍵は、キーホルダをつけてポケットにしまっておこう。

 ハハとまだ笑い続けている田中先輩。思い出し笑いでもしているのだろうか。その思い出が分からないものにとっては、いきなり笑い出されても、困るところだ。

 ぼくは、田中先輩へのいたずらをこころみた。

 「先輩」

 「なんだ?」 笑いが止まった田中先輩がぼくに聞く。

 「なんでもありません」

 「は? なんだよ。言えよ」

 「いえ、なんでもないんです」

 「なんだあ? 言わないと、漢字の辞書を家に送ってやるぞ」

 「そうされて困るのは先輩だけです」 ぼくは、笑い出した。


 次の日。ぼくは、いつも通り、田中先輩と学校に行き (いつも、家から出ると、ちょうど田中先輩が学校に向かって歩いていくところにあう。べつに、約束しているわけじゃないのに、一緒に行くことになってしまうんだ)、 いつも通り授業を受けた。

 そして、部活に行く途中の廊下が、事件の始まりだったんだ。

 「ん? どうしたんだろう」 なんだか、美術部部室の前がさわがしい。そのうしろを通り過ぎるとき、だれかが、叫び声に近い声で、さわぎ立てているのを聞いた。

 「はやく、だれか、鍵を持ってきて! 大事な作品が、壊されてしまうわ!」

 「でも、部長。昨日から、鍵が紛失しているんです!」 ぼくと同じクラスの、髪をふたつに結っている小柄な木野が、戸にはめこんである窓をのぞきこみながら言った。

 ぼくも、人ごみのうしろから背伸びをして、窓を見てみた。

 「えっ」 なんと、美術部部室の中は、ネコが一匹。これにはぼくもおどろいた。

 「先輩。見ました? 美術部にネコが!」

 部室に入ると、田中先輩が、パイプ椅子にすわって、マンガ本を読んでいた。


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