春は、桜の絵を言葉で描いて 02
「美術部は、まだ部活をやるのか。大変だな」 手に持っていたリュックサックを背負う田中先輩。
教室の通路側の壁は、上半分が窓になっていて、中を見ることができるようになっているんだけど、美術部はカーテンが閉まっていて、中の光がもれている。だぶん、外からの光を入れないようにするためだろう。外からの光は、時間によって変化するから、静物画なんかをやっていると、影か変化してしまうんだね。
それにしても、美術部部室は広いなあ。文芸部の三倍はあるんじゃないだろうか。でも、戸は、黒板がある側に一つしかない。どうしてだろう。
「先輩も大変ですね。宿題が大量にあって」
「ふっ……。今に見てろ。英語、数学……。怪物がおそいかかるからなあ」 ケッケッケと笑う田中先輩。いじわるな先輩だ。しくしく。ぼくは、心の中で泣きまねをした。
「学校にはもうなれたかしら? もうすぐ入学して一ヶ月よね」 昇降口まで歩きながら竹内先輩が聞いてきた。
「ええ、大丈夫です。クラスにも小学校からの友達も多いし。先生も優しいし」 となりのリュックの先輩以外は先輩方も優しいですし。という言葉は、のどまで出かかってかろうじて飲みこんだ。ごっくん。
「そう、それは良かった」
昇降口についた。ぼくらは、別々の下駄箱が並んでいる通路に入り、上靴を外靴に取りかえた。
「じゃあ、わたしこっちだから。また明日ね」 竹内先輩は、西門の方に向かって歩いていった。
「さようなら」
「ううっ。寒いなあ。もう春じゃないのかよ」 田中先輩が肩をすくめた。
ぼくらが通う湖宮中は、湖宮市の真ん中にあるので、門がひとつだと、学校をぐるっと回らないと学校に入れない生徒が出てくる。そこで、湖宮中には四つもの門がすえ付けられているんだ。今、竹内先輩が出て行った西門が正門で、一番立派。車の出入りができるのも、この西門。あとの三つはおまけみたいについている。一番ひどいのは、ぼくと田中先輩が出る東門。俗に言う裏門で、簡単な扉しかない。一人は楽に通れるけど、二人並んで通るには少し無理があるくらい狭い。
門は、四つあるのに、昇降口は一つしかないので、結局は、校舎をぐるりと回らなくてはならない。まあ、門を出た道路は、交通量が多いから、学校内を歩いていくほうが安心して、歩ける。門を取り付けたのは、失敗ではないってことだ。
グラウンドでは、まだ、運動部が部活をしていた。ランニングをしている部にもすれちがった。
キイイイと音を立てて、東門の扉を外側に開いた。東門は、ネコの侵入が多発しているので、扉は開けたら閉める決まりになっているんだ。
「この音、何とかしてほしいよな。おれ、この音が一番きらいだわ」 田中先輩が耳をふさぎながら言う。
「なあ」
「なんですか?」 家まで歩いていると、田中先輩が話しかけてきた。
中学に入るまで気づかなかったのだけど、なんと、田中先輩とぼくの家が、同じ通りの三軒をはさんだおとなりさんだったのだ。今思えば、町内会の回覧板を届けたような記憶も、あるような、ないような。
それに気づいてからというもの、学校への行き、帰りと一緒になってしまったのだ。
「知ってるか?」
「何をです?」
「いや……、なんでもない」
「なんなんですか」




