秋は、たこ焼きスケッチブック 03
「一週間前かしら……。それが?」
「そう……」 と言うと、光は歩き出した。わたしは、光のあとを追う。
光がとつぜんふりむいた。びっくりしてわたしは一歩下がったけど、わたしじゃなくて、もっと後ろのほうを見ていた。わたしもうしろのほうを見る。
うしろの木の上。さっき光がわたしを待っていた木の上に、ジャージ姿の男子が双眼鏡を持って体育館のほうをじっと見ている。
「誰……なにやってんだろ」 光がつぶやく。わたしは首を横にひねった。
「わたくしの話を、ちゃんと聞いていました? わたくし見回りが……」 光の横に並ぶともう一度言った。光はだまって歩き続ける。
何? 何なんだろう。わたしはだんだん腹が立ってきた。
呼び出しておいて何にも言わないなんて、なんてこと。
そのまま帰っちゃおうかな。忙しいんだから……、まったく。
わたしは、光のうしろ姿を見ながら考える。光は、靴をぬいでスリッパにはきかえているところだった。体育館は土足厳禁だからね。
「ほら」 光がわたしの分もスリッパを出してくれる。わたしはだまってそれをはいた。
「沙貴絵、みてごらん」 下を向いてスリッパをはいていたわたしの肩をたたく光。
わたしは、顔を上げる。
そこには……。
「何……、何もしていないの? あと三日しかないのよ」 わたしは、何も飾りつけがされていない体育館から、光へと目線を移した。
「今、一所懸命やっているの。たった三人でね」 光は、わたしをじっと見すえて言った。
体育館を良く見ると、一人が鳥の絵らしきものをはっている。あれは確か光の弟……。
何? どういうこと? 一年生の委員は十四人いるはずじゃあ……。
思ったことがそのまま口から出る。
「ねえ、沙貴絵。美術部の一年って何人いる?」
「……十八人。あ、一人減ったから十七人かな……」 もう、会話の上品さレベル一だ。意識してしゃべっている言葉なんか要らない。
「その中に、文化祭実行委員会は何人いる?」
「え……」 わたしは考える。一人、二人……。 「十一人だ」
「全員が放課後、部活に行っているのよ。頑張って、やっているの。手伝ってくれる?」
「…………」 わたしは、下を見た。光がだしてくれたスリッパがある。 「ええ……もちろん」
歩き出そうとするわたしを、光が止める。
「何?」 わたしはふり向く。そのときの、光の顔……。
「行こう」 光がニコッとほほえむ。
「ええ」 わたしは、ツンとすますと、体育館の中央に歩いていった。
文化祭当日。
この三日間、わたしは頑張った。
はじまったばかりなのに、達成感すらある。
でも、気をゆるめてはいけない。まず、教室の見回り、外にも行って、クラスのところにも顔を出さなくっちゃ……。
わたしは、正面玄関にある大きな鏡で制服のリボンを閉めなおし、気合いを入れる。
よおし、頑張りましょう!
「何か問題は?」 わたしは、ボードに紙をはさみ、シャープペンをかまえながら言う。
「いいえ、何もありません。それより会長、たこ焼き買いませんか?」
「何か困ったこと、問題がありましたら、実行委員におっしゃってください」 わたしは、百円を渡し、たこ焼きを買った。片手で持たなくてはいけないので、熱い。
わたしは、今日と明日だけあるベンチに腰を落とすと、ボートを置きたこ焼きをほおばった。
うん、おいしい。今度レシピ聞いて作ってみようかな。




