秋は、落ち葉と共に踊る暇もなく 15
「響ちゃんを追いかけている人って、遠藤くんだったんだ」 部室で高梨先輩が椅子をかたむけながら言う。倒れないのかなあ。
「でも、響を好きだったとかではないみたい」 竹内先輩が文庫本をながめながら言う。
「どういうことだ?」 田中先輩が聞く。
「マジックで使うマネキンを壊されたから、弁償してもらおうとしたらしいよ」
「へええっ!」 目を丸くする田中先輩。
「夏休みに、ですか?」 ぼくも目を丸くする。
「そう、響はバスケ部でね、屋外のバスケットゴールにボールを入れようとしたら、外れちゃって、その近くを歩いていた遠藤くんにぶつかっちゃったんだってさ。で、そのとき持っていたマネキンの足が破壊されたんだって」
「マネキンが壊れたくらいなんだから、すごい勢いで飛んでいったんだろうな。バスッケトボール」
「で、落ちる前は、なんて叫んでいたんだろう」
「きっと、 『ひびきー、べんしょうしてもらうぞ』 でしょうね。校庭に響の姿が見えたから、文化祭でやるはずだったマジックができなかった恨みが爆発したのね。で、いきおいあまって、落っこちちゃったのよ」
「食べ物の恨み以上に怖いな。マネキンの足を壊されて、今度は自分の足を折っちゃったのか。かわいそうな弘樹」 田中先輩はまったく、かわいそうとおもっていないだろう。なぜって、マンガを読みながら言っているからだ。
三日後に、ぼくら文芸部員は遠藤先輩が入院する病院にお見舞いに行った。
竹内先輩を一目見ると、 「ああ! 響のやろう。おれを笑いにきやがった」 とベッドからおきあがってわめいている。
「おまえ、足だけじゃなくて、頭も打っちまったんじゃないか?」 田中先輩が心配そうに遠藤先輩の頭をなでる。
「さわるなあっ、おれはこいつに、こいつに……。あれ、ちがうな。誰?」 田中先輩を見る遠藤先輩。
「響の姉、光です。妹が失礼をしましたね」 苦笑しながら、田中先輩にかわって答える竹内先輩。
「まったく、先輩に向かって、誰? はないでしょうが」 遠藤先輩の頭をごつく高梨先輩。
「え? ……そうなの。あ、どうも、遠藤でえす。はじめまして……」 ペコリと頭を下げる遠藤先輩。
「はじめてじゃないわ。ね、佐沼くん」 ニコッとぼくに笑う、竹内先輩。
「え?」 ぼくは、何のことだかさっぱりだ。
「ほら、体育館の装飾のとき」 竹内先輩がヒントをくれる。ぼくは、数秒間、頭を働かせたのち、やっと思い出した。
「あ、あのときの……」 そう、ぼくと目が会ったあのジャージ男が、遠藤先輩だったんだ。
「ああ、体育館の!」 遠藤先輩は目を丸くする。
「え? なになに?」 高梨先輩が興味深げに聞いてくる。
「はああ、なんかもう、どうでも良くなった。マネキンは壊されるし……。まあ、おれの不注意かな。でもなあ、せっかく、文化祭でやろうと思っていたのに……」 ベッドに横になる遠藤先輩。
「今ごろ、どうでも良くなるの遅くないか? 夏休みからの話だろ」 田中先輩がまた、遠藤先輩の頭をなでる。
「だから、さわるなあって言ってるだろ。頭も少し打っちまったんだから」 手をはらう遠藤先輩。
「やっぱり……」
「夏休み? 何のことだ? 響にバスケットボールを当てられたのは、夏休みが終わって……、えっと二週間ぐらいだ。文化祭でやりたかったなあ……」 しくしくと泣きまねをする遠藤先輩。なんだか、田中先輩に少し似ている。でも、今はそれどころじゃない。
「ええっ」 ぼくらはさけんだ。
「こらあ、病室では、静かにしろよ」 遠藤先輩が口に人さし指をあてる。
「おまえ、響のストーカーしていたんじゃないのか?」 小さな声で田中先輩が聞く。
「は? なんのことだよ。響のやつのことなんて、好きでもなんでもねえ」 ヘンとそっぽを向く遠藤先輩。
「どういうこと?」 高梨先輩が竹内先輩を見ながら聞く。首をすくめる竹内先輩。
「さあね、でも、まあ、一件落着ってことで」
「どこがっ」 ぼくらはさけんだ。
「シー、シー!」
「こんにちわあ、遠藤先輩、だいじょうぶですかあ?」 響が病室にやってきた。その名の通り、病室中にひびきわたる。
「静かに!」 ぼくたちはまたさけんだ。
「だからあ、さけぶなって」
遠藤先輩が寝ているベッドの横にあるテーブルに、花束を置く響。
「ねえ、響、これゆりの花じゃない?」 竹内先輩が言う。そういえば、ゆりの花って花の部分がストンと落ちるから、首が落ちるって言って縁起が悪いんじゃあ……。
「そうだよ。きれいだから。買ってきたの」 ニコッとほほえむ響。
「かああっ。なんできたんだ、おれを笑いに来たのかあ」 さけぶ遠藤先輩。
「まさか。お見舞いに来たんですよお。あ、病院でさけんでいけないんだあ」 ヘヘンと笑う響。遠藤先輩がまた泣きまねをする。その頭をなでる田中先輩。
「あのさあ、響ちゃん、夏休みにさ、誰かに追われているって言ってなかった?」 高梨先輩が聞く。
「うん、幽霊だった。夏だったからね」 平然として答える響。
「はああ?」 目を丸くするぼくたち。今度は、となりで寝ていた人に注意された。
「あ、すみません……」




