秋は、落ち葉と共に踊る暇もなく 14
「保健室の前に落ちたのは、うちのクラスだった。──遠藤弘樹。布をかぶっていたから、教室に戻ってくるまで気づかなかった」 田中先輩がボソボソとつぶやく。
「黒マントでしょう? 何で気づかなかったんですか?」 ぼくは聞く。
「んーとな、マジックは、リバーシブルの赤と黒のマントをバサッと、裏表逆にしたときに、マントを着ていた人物が変わってしまうというマジックなんだ。で、赤マントのときは弘樹で、黒マントになったら浩太になるんだ。浩太はほら……、こんなに太っているから、細くてのっぽの弘樹とはちがう。だから、あのときは、黒マントだとは思わなかったんだ。ただの黒い布だと……。それに、びっくりして、何がなんだか……」 田中先輩が唇をかんでうつむく。となりに高梨先輩がよりそう。
「そうなんですか……」
「で? 遠藤くんが落ちたとき、近くに人はいなかったの?」 竹内先輩が聞く。
「たくさんいました。クラスの何人かと、マジックを見に来た観客たちも何人かいたし。そう……、二十人くらいはいたんじゃないかな」 近くにいた先輩が答える。
「そのときの状況は?」 現場検証をする刑事みたいだ。
「えっと……、弘樹くんが、マジックを終わらせて、ベランダに出ました。マジックが終わるといつもそうなんです。また何かあるんじゃないかと観客に思わせておいて、……結局何にもないんですけど。でも、そのときは何かちがって、何か叫んで、手すりを飛び越えていってしまったの。止める間もなかったわ」
「そのまえに、マネキンの足だけ落とさなかった?」
「ええ、手に持っていました。それもいつもとちがっていたから、おかしいなとは、思っていたんですけど。また、新種のマジックでも披露するのかなって」
「また?」
「いつも弘樹くんは、マジックのネタを考えているんです。今回の文化祭でマジックをしようと言い出したのも弘樹くんです」
「何かを叫んでといったわね。何を叫んでいた?」 竹内先輩と二組の先輩のやり取りを、みんなはだまって聞いていた。
「えっと……、窓ごしだし、外に向かって叫んでいたから良く聞こえなかったけど……。 『……キー、……ベン……』 ぐらいしか、聞き取れませんでした。この後にも何か言っていたような気がするんですけど……、だんだん声が小さくなって、聞こえませんでした」
「そう……」 何かの呪文だろうか。
「分かったわ。ありがとう」
廊下で、パタパタと走る音が聞こえる。
「ああ、ここにいた。遠藤くん、足の骨を折ったけど、命に別状はないって。よかったわね」 保健の先生だ。ニコッと笑っている。
「そうですか。それは良かった。お見舞いに行きましょう。うん、そうそう」 ニコニコと笑っている竹内先輩。さっきとは顔が変わっている。




