秋は、落ち葉と共に踊る暇もなく 12
「なんだ、どうした?」 田中先輩の声を聞かないうちに、今度は本物の人間が落ちてきた。さっきと同じ、黒い布をはおって。
竹内先輩が、一番おどろいたんだと思う。しりもちをついていた。
「うう……」 うめき声が聞こえる。生きているみたいだ。
救急車が到着した。タンカに乗せられて運ばれていく。
その光景を、ぼくたちはぼう然と見ていた。あっという間の出来事だった。
「びっくりした……」
竹内先輩がよいしょっと窓を乗り越えて保健室に戻ってきた。と、思ったら、保健室から出て行こうとする。
「どこ行くんですか?」 ぼくは聞く。
「屋上! あの人、屋上から落ちてきたのよ」
「なんだって!」 田中先輩もついて行こうとする。ぼくもついて行ってみることにした。
階段をかけあがる。校舎が四階建てなので、けっこうのぼらなくてはいけない。最初は、走っていたのに、だんだんと歩くようになった。それでも、竹内先輩と田中先輩は息も切らさずにのぼって行く。
ぼくがもうすぐ屋上につくというときに、もう竹内先輩と田中先輩がおりてきていた。
「なんだ、お前も来ていたのか」 田中先輩がひどいことを言う。これでも、ぼくは頑張っているんだ。
「鍵がかかっていて、入れなかった」 竹内先輩が階段をおりながら言う。
ぼくはあとちょっとだったので、階段をのぼりきり、屋上へ出る戸のノブを回してみた。
たしかに開かない。
「なあ、開かなかっただろう?」 階段の下のほうから田中先輩の声がする。ぼくは、返事をすると階段をおりはじめた。
保健室につくと、高梨先輩と木野がいた。保健の先生は救急車に乗っていった。
「自殺未遂かな」田中先輩がつぶやく。
「さあ、事故かもしれないわよ。ここで何を言っても、何も分からないわ」 竹内先輩が長い髪をかきあげる。
「……あの、わたし、もう帰ります」 木野がベッドからおりようとしている。体が小さくふるえているようにも見える。
「大丈夫? わたしが送っていこうか?」 高梨先輩が、木野がベッドからおりるのを手伝う。
「いえ、莉子が一緒に帰ってくれると言うので……」
野澤が、木野のスクールカバンを持って現れた。
「さあ、行こう。それじゃあ、また明日。佐沼くん、休むなよう」
「うん」 ぼくはうなずく。
二人は、保健室から出て行った。
「さあ、ここにいてもしかたない。おれたちも帰るか」 時計を見ると、もう四時をさしていた。
「ちょっと、太一、明日の準備は? 今日何もやってないでしょう」 高梨先輩が言う。
「そうだった。そうだった。じゃあな、部長、結人」 そう言うと、二人は保健室から出て行った。
「あー! 思い出した」 ぼくは思わず叫んでいた。




