秋は、落ち葉と共に踊る暇もなく 07
ぼくは、高いところが好きでも苦手でもない。東京タワーのてっぺんにのぼれば、ちょっとは怖いかもしれない。そんなところだ。でも、透はちがう。ちょっと高いところにあがるとすくみあがってしまうんだ。このまえ、一緒に湖宮市で一番高いビルの屋上に行ったことがある。たかが、十五階ちょっとのところだ。たしか、そこに買い物に出かけたんだ。新しいショッピングセンターで、エレベーターがガラス張りになっている。それに乗ったとたん、透はしゃがみこんでしまった。しかも、そのエレベーターは屋上の直通と来た! 乗るエレベーターをまちがえたんだ。もう、気絶寸前で、足はがくがくして。もう、ぼくは吹き出しそうだった。
下をのぞき見ると、透はせっせと飾りをはっていた。透が届かないところは、ぼくが脚立に乗ってはらなきゃいけないな……。
ベランダみたいなところから、はっていくことにする。
手を伸ばしすぎて、落ちそうになった。
「おっと!」 何とか落ちずにすんだ。
「あぶないなあ。何してんだよう」 透がぼくを見上げて、声をあげる。顔が少し青い。
「だいじょうぶ! だいじょうぶ!」 と言いつつ、今度は飾りを落としてしまった。
「おおいっ。だいじょうぶかあ」 透が走って飾りを取っているのが見える。
「ごめん、ごめん。それ、下のほうにはっといて」 ぼくは、頭をかきながら言う。まったく、どうしちゃったんだろう……。
「おうおう、やってるなあ。ねえ、あの人、誰?」 竹内先輩が顔をのぞかせた。なんと、佐藤委員長も一緒だ。美術部の共同作品終わったのかな。
あの人? ああ、さっきぼくと目が会った人かな……。まだいたのか。なにしているんだろう。
「いいえ、まだ部員が作業をつづけていますわ。光に無理やりつれてこられたんです」
「だって、見てみろよ、沙貴絵。一年生が二人だけなんだ。響だって本当は前々から部活の準備をしなくちゃいけなかったのに、無理してきたんだ。まあ、暇な透と結人はちがうけど」暇なぼくたち二人は、竹内先輩と佐藤委員長の言い合いをながめていた。
少しでも手を動かしたほうがいいだろう。ぼくは、のろのろと手を動かしはじめた。
「ケンカしてないで……。手伝いに来たんなら、手伝ってくださいよう」 透が話している声が聞こえる。
「ケンカなんてしてないわ。手伝いに来たのよ。ほら、沙貴絵は二階を手伝って」
「…………」 佐藤委員長は、だまってぼくのところへ来る。
「あ、これ、お願いします」 ぼくは、自分がやる分を袋から取り出して、袋を佐藤委員長に渡す。
「ありがとう……、…………」
「え? なんですか?」 ぼくは聞きかえす。何か言われたような気がした。
「いいえ、なんでもありません。それでは、わたくしはあちらから……」 佐藤委員長は袋をぼくから受け取って、ぼくのいる反対側に歩き出した。
下を見ると、竹内先輩が脚立に乗って、壁の上の方にぼくの描いた鳥の絵をはっていた。透は、脚立の足元でうろうろとしている。姉のことが心配なのか、自分が脚立に乗った姿を想像しているのか、ここからでも分かるぐらいに、真っ青だった。
「透っ! 早くやれよう!」 ぼくは叫ぶと、飾りをはる作業に没頭した。




