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夏は、宿題の山と肝だめし 02

 「……え? 涼香、なにしてるの?」 わたしはつぶやく。今、校舎側からカタリと音がしたような気がした。京香が正面玄関から入ってきた音だろうか。もしそうだとしても、わたしの声は聞こえなかっただろう。自分でもびっくりするくらい、小さな声だったんだから。

 「昇降口、開いていなかったよ。他の出入り口も見てみたけど、閉まってた」 涼香がそう言って戻ってきた。わたしは、ビクッとしてふりかえった。

 「何、どうしたの」 涼香が聞いてくる。わたしは、たかがカタリと音がしたがけで怖がっている姿を、涼香には見せたくないので、だまっていることにした。でも、あの音は涼香じゃなかった。それじゃあ、なんだったの?

 「しょうがない。ここの窓から入ろう。たまたま、ここを閉め忘れたんだね。ラッキィ」 わたしはそう言ってサンダルを手に持って、窓から校舎に入った。涼香もついてくる。

 トンと廊下におりると、はだしの足に廊下が冷たかった。

 「わあ、涼しい」 涼香がほほえんでくる。わたしも笑った。でも、ちょっと冷たすぎるような……。

 「それじゃあ、どこにいく? とりあえず、教室かな」 わたしは言う。音が反響して、ウワンウワンとひびく。

 「うん、言ってみよう」

 一年生の教室は、四階にある。けっこう階段をのぼらなくてはいけない。

 はだしであるくといつも思う。画びょうが落ちていたら、もしふんでしまったら、痛いだろうなあ。

 そのとき、

 「ぎゃああああああ……」 と言う声が、階段の上のほうから聞こえてきた。

 「何だろう……」 わたしは後ろをふりかえる。涼香の顔がボヤッと……。

 「ひゃあ……!」 わたしは飛び上がった。

 「何? 今の声は」 涼香が真剣な顔でわたしに聞いてくる。あ、涼香は懐中電灯を持って きていたんだ。まったく、それを先に言ってくれないと。

 「ねえ、もう帰る? 怖いでしょう……?」 わたしは聞いた。なるべく冷静をよそおって……。

 「ううん、のぼってみよう。声の正体をつき止めなくっちゃ」 涼香は階段をのぼりはじめた。涼香って怖がりで泣き虫で……じゃなかったっけ? わたしは、ぼう然と涼香の後ろ姿をながめた。

 もしかして、涼香はお化けにとりつかれてしまったのかも、正面玄関に行ったときに。それしか考えられない。だってこんな涼香は、今までに見たことないんだから。

 「……注意しなくっちゃ」 わたしは自分に言い聞かせると、階段をのぼりはじめた。

 「誰かが、わたしたちと同じように、学校できもだめしをしているのかもしれないわ」 お化けにとりつかれたかもしれない涼香が、わたしに言う。

 「でも、たくさんある夏休みの中で、今日のこの時間に重なるなんてこと、ある?」

 「うーん、誰かに言った? 今日学校できもだめしをやるって」

 「ううん。涼香は?」

 「わたしも。……そうか、もしそうだとしたら、よほど息が合っているのね」

 涼香がもっている懐中電灯に照らされた階段は、なぜか不気味に見える。……逃げようか? わたしは、階段を上りながら考える。涼香を置いて。でも、ひとりで逃げるのも怖いし、お化けにとりつかれていても涼香は涼香。帰るときも一緒でなくっちゃ。

 「あれ……。これみて」 涼香が、三階に来たところで、しゃがんで何かを拾った。階段の段になっているかどのところだったのでわたしには見えない。

 「ほら……」

 それは、画びょうだった。針のところが、みょうに赤い……。

 「……血?」 わたしは、おそるおそる目線を画びょうから涼香にうつす。もしかしたら、涼香がお化けに変わっているかもしれない……と思って。でも、涼香は涼香のままだった。良かった。わたしはホッと胸をなでおろす。

 「さっきの悲鳴はこれだったのね」 涼香が話す。真剣なまなざしが、怖い。


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