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夏は、宿題の山と肝だめし 01

 「いえいっ。きもだめしやろうぜー」 わたしは、大きな声とこぶしを空につきたてた。

 「ええ、響、何言ってんのよう。怖くて、そんなの無理無理!」 涼香が手をブンブンとふった。

 宿題はそこらへんにほおって置いて、夏休み! 頑張って遊ばなくっちゃ。姉ちゃんは、毎日学校に行っているみたいだけど、何やってんだろう?

 「響、部活は?」 涼香が聞いてくる。

 「そんなのいいの! ほっとけほっとけ」

 「え、いいの。練習試合とか、ないわけ?」

 「うっそだよ。部活はあさってから。今日と明日は完全に休みなのさあ!」 わたしは、うんと背伸びをした。風が気持ちいい。

 「ね、どこでやる?」

 「何を?」

 「だから、きもだめしよお!」

 「本気だったの?」 涼香が目を丸くした。涼香はわたしの親友。怖がりで、泣き虫で。わたしがいなければ何にもできないの。

 「そう。きもだめし、わたしがやらなきゃ誰がやる!」

 「そんなの、きもだめし好きにまかせておけばいいよ」

 「んじゃあ、わたしね。そうだ! 学校にしよう。夜中にしのびこむの! うわあ、楽しい!」 わたしは、ピョンと飛び上がった。

 「今夜ね、今夜! 八時に西門に集合ね」


 わたしは、思わず生つばを飲みこんだ。

 うで時計を見ると、八時十分をさしている。この時計は、昨日おばあちゃんにもらったもので、ちょっと手首に合わなくてゆるいけど、とってもかわいい。

 「…………」 まあ、うで時計のことは置いといて。

 夜の学校って、こんなにこわいんだ……。となりで、涼香もふるえている。

 湖宮中は、生徒数が多いので校舎はとても大きい。でも、もう四ヶ月ちかくも通っているから、目をつぶっても大丈夫なくらいに、なれているんだと思っていた……。でも、それは、昼間だけ。夜になると、その大きな校舎がわたしたちを吸いこみそうなぐらいに、立ちはばかっている。

 「……ねえ、行かないの?」 涼香がわたしをせっつく。あれ? 『もう帰ろうよお』 とか言うのかと思っていたのに……。

 「よし、行くぞお。最初は、……教室だ!」 本当は、理科実験室とか言いたかったんだけど、いきなりそれは、ね……。

 「うん、それより、学校閉まってないかな……」 うっ、意外に冷静じゃない。そう、まだ入っていないんだからさ。

 わたしたちは、校舎にそろりそろりと近づくと、一番近かった窓に手をかけた。スーと音を立てて窓が開いた。わたしは少しがっかりした。窓も扉も開かなければ、残念だねと言って帰ることができるのに。

 「戸じまり、しっかりしていないのね。無用心な」 涼香はそうつぶやくと、正面玄関

のところに一人で歩いていった。

 取り残されるわたし。昼間も吹いていた風が、生ぬるくて気持ちが悪い。ああ、何でこんなこと言っちゃったんだろ。わたしは、校舎に背をもたれると、空を見た。どんよりと雲がいすわって、星が一つも見えない。もしかしたら、雨が降るかも。


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