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春は、夕焼けと黒飴ふたつ 04

 月曜日、わたしは美術部の前にいた。ネコがいる。金曜日に、東門から出で行ったと思った三毛ネコ二匹。部室の鍵は閉まっている。

 「誰? こんなことをしたのは! 昨日もだったじゃないの」 部長がわめいている。

 わたしじゃない……、一体誰が……。

 考えられるのは、光先輩。でも、光先輩なら、こんなことせずに、朝日山公園にもっていったことだろう。

 「はい、はいっ。ちょっとどいてね」 人ごみをかき分けて、部室の戸の前に立ったのは、あの人だった。

 「太一……。どうしたの?」

 「うん、ちょっとまって」 太一は、制服のポケットから鍵を取り出して、鍵を開ける。

 「どちら様か存知あげませんけど……、どうもありがとう」 部長は、急いで、部室に入っていった。自分のかわいい作品がどうなったのか気になるのだろう。

 「よし、おいで」 太一は、よって来たネコを抱きあげた。

 「今から、朝日山公園に連れて行く」 そう言って、歩いていった。

 「ちょっと待ってよ」 わたしは、太一が持っている二匹のネコのうち、一匹を取り上げる。

 「一緒に行くから」

 「おう」

 「……太一だったの。今日のネコ」

 「まあな。日曜にな。で、朝日山のことを部長に聞いたのは、今朝」

 「ふーん」 わたしは、太一と並んで歩きつづけた。いろいろ聞きたいことがあるけど、今は……べつにいいや。

 湖宮中から歩いて十分ぐらいのところにある朝日山公園という名の山で、野良ネコの世話をしているという老人に三毛ネコをあずけてきた。

 「ありがとう」 帰り道、わたしは太一にお礼を言った。

 「…………」

 「え? 何」 太一が何か言ったような気がするけど、小さい声だったので、良く聞こえない。

 「黒飴なめたいなあ」

 「昔から、好きだねえ」 わたしは、制服のポケットから黒飴を取り出した。


 部室に戻ると、部長と顧問の先生に呼び出された。

 「高梨くん、君は春の作品展に出展しないのかね?」

 「一年生から、一度も作品を描いていないというじゃない? どういうつもりなのかしら?」

 「……先生、佐藤部長、いままでお世話になりました」 わたしは、頭をさげる。

 「え? どういうことかね?」 顧問が、首をかしげる。部長は、わたしに冷たい視線をあびせている。

 「転部します。文芸部に」

 廊下から、足音が聞こえる。

 だんだんと、こっちに近づいてくる。

 それの足音は、きっと、春の足音にちがいない。


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