春は、夕焼けと黒飴ふたつ 03
次の日、わたしは、朝早く光先輩に鍵を返して、放課後に図書委員の仕事をすませてから、部室に走った。
あのネコ、大丈夫かな……。
部室では、にぎやか、おだやかとは無縁なピリピリとした、いつも通りの雰囲気がただよっていた。ネコの姿は見られない。
「高梨さん、戸は静かに開け閉めしてください。他の人の迷惑を考えて」 部長がわたしに言ってくる。
「あの……、ネコは、どうしたんですか? あの、黒くて目つきのするどい……」 わたしは、おそるおそる聞く。この部長、苦手なんだよね。まあ、部長に限ったことではないけど。
「となりの部長が、捨ててしまわれました。何で、ご存知なんです?」
「いえ、べつに……。ありがとうございます。ちょっと失礼して……」 わたしは、部長に軽く頭をさげると、部室を飛び出した。廊下に、光先輩の歩いている姿が見えたからだ。
「先輩、光先輩」 わたしは、光先輩を呼び止める。
「あ、薫子。派手なんだか地味なんだか良く分かんないけど、やってくれたわねえ」 ニコニコと笑う光先輩。美術部部長のこんな顔は、みたことない。
「ネコは……?」 まさか、本当に捨てたわけではないだろう。光先輩はそんなこと絶対にする人ではない。
「わたしが、山に返したわ。朝日山公園に。あそこ、野良ネコを世話する人がいるでしょう。その人と話してきたわ。やっぱり、世話していたネコが何匹か湖宮中に来てしまうみたいね」
「そうですか……。よかった。うちの部長が、光先輩が捨てたっていうもんだから……」
「あ、そう。『山に返しておきます』って言ったのを、かんちがいしたのね」 くすくすと笑う光先輩。
「とにかく、ありがとうございます」 わたしは、深く頭をさげた。
「ねえ、文芸部にこない?」 頭を上げると、真剣な表情の光先輩がいた。
「え……」
「冗談で言っているんじゃないの。文芸部に転部しない?」
「…………」




