春は、夕焼けと黒飴ふたつ 01
わたしは、久しぶりに早く終わった部室を飛び出した。本当は、南門からの方が家から近いのだけど、ある人に会えることを期待して、いつも東門から帰っている。
「薫子、また明日ね」
「うん、また」 すれちがう陸上部でクラスメートの菅野砂知が、軽快な足どりで走っていく。寒いのに、よくやれたもんだ。走るから、あたたかいのかな。
夕焼けがきれいだ。
わたしは、夕焼けが好きだ。絵を描くのではなく、言葉で表現したい。文芸部に、本当は入りたかったのに、ある人がいるおかげで、入部しそこねた。それに、親が無理やり、美術部への入部をおし進めたこともある。将来は美大に入れたいそうだ。まったく、ぐちゃぐちゃだ。
東門に近づく。今日は、文芸部が終わっていなかったみたいだから、今日はここであの人を待ってみようかと思う。
「あれ?」 思わず声に出してしまった。最近、ひとり言が多いと砂知に注意されたことがある。まあ、それは置いといて。
三匹、ネコがいる。目がするどい黒ネコ一匹と、三毛ネコが二匹。ニャアとも言わずに、わたしを見上げている。少し、体がぬれている。学校の校舎にいたから気づかなかったけど、雨が降っていたらしい。地面はもう、乾いているから、降ったのは昼ごろだろうか。
「ふん……、どうしよう。どうしてほしい? おなかすいたの」 わたしは、カバンの中に入っているパンを取り出して、三つに分けた。
「はい、どうぞ」 やっぱり、ひとり言多いかな。横にのけて置いておいた砂知に、注意される。 (──ひとり言多いよ、薫子) わたしはそれを、くしゃくしゃに丸めて、遠くに投げ捨てた。 あ、ポイ捨てか。あとで、拾わなくちゃ。
東門は、閉めておく。また、ネコが入ってきたらめんどうだし、このネコたちが、道路に飛び出したりでもしたら、大変だ。
わたしは、ネコを三匹、抱こうと思ったけど無理だったので、黒ネコを一匹小わきに抱えて、そっと昇降口に入った。黒ネコを最初に持ってきたのは、一番やんちゃそうだったから。 ほかの二匹は静かにしていた。
美術部の部室についた。窓から見る限りでは、カーテンで分からないけど真っ暗で誰もいなさそうだ。鍵は前から紛失しているはずなので、開いているはず。
わたしは、そっと部室の戸を開ける。すぐ近くの壁にある電気のスイッチもつけた。
明るくなる部室。
「誰もいない……」 わたしは、ホッとため息をついた。見つかってもべつに怒られないと思うけど、美術部員には見つかりたくない。
ネコをそっと床に置く。ネコは、タタッとかけだした。やっぱり、ここに連れてきてよかった。そうでなきゃ、今ごろ車にひかれてたわ。
わたしは、木製の机の上に置いてある作品をよけようとした。椅子に乗れば、ネコは十分机に届くと思ったからだ。作品に、キズがついたら大変だ。




