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見えない過去

2027年2月のお話

「あーさみいさみい」


手をポケットに突っ込む優美。

冬の街並みは寒い。


「家帰ったらこたつに埋まろうそうしよう」


誰に言うでもなくこたつむり宣言をしながら家へと向かう優美。

何をしに外に出てきたかと言われればただ買い物しに来ただけなのだが、

想定より寒かったようである。


「ああ…神社の階段だるいんじゃぁ…誰だよこんなに高いところに作ったやつ。平地でいいだろ平地で」


階段に対して文句を言いながら長い石階段を上る優美。

雪が降ると凍ることもある上に高い位置にあるせいで風がもろにあたるので、

冬とは相性が最悪の階段である。


「あーやっとついた。エスカレーターほしい」


そんなことを言いながら家の中へと向かう。

寒いためか参拝客も子供も今日は姿が見えない。


「ただいまー」


「おかえりー」


「あれ?」


誰もいないはずの家から帰ってくる返事。

それだけ聞くと恐ろしいが、ものすごい聞き覚えがある声だったので当人としては別にそれほどでもない。


「翔也。帰ってたのか」


「うん、今さっき。優美いないなんて珍しいなーと思いながら待ってた」


「おう翔也にまでずっと家にいると思われてら」


「基本そうでしょ?」


「まあね。引きこもり上等ですわ」


といいながら荷物を置いて、手を洗ってリビングへと戻ってくる優美。

部屋に入るや否や、そのまま炬燵の中へとダイブした。


「さむいー」


「今日寒いねほんと。北風がすごい」


「今水触ったから余計さむいー」


「ああ、ならいいものがある」


「え」


「これ」


「…お汁粉?」


「そう、ついさっき自販機で間違えて買っちゃった」


「どんな間違え方したんだよ」


「缶コーヒー買おうと思ってたんだけど、よく見ないでボタン押したら隣だったんだよね」


「ちゃんと見ろやい」


「まあ、でもこれあったかいよ」


「まあそりゃあったかーいって書いてある奴だよねこれ」


「これ持てば手もあったまるんじゃない?」


「カイロ代わりかよ。まあでも何にもないよりましかも」


「十分あったまったら飲めばいいしね」


「缶のお汁粉って飲んだことないけど…」


「けど?」


「うまいの?」


「さあ、僕も飲んだことないから…」


「ねえのかよ。知らんもん押し付けるなよ」


「まあ、優美が飲まないなら僕が飲むから」


「いやだ。あげない」


「えぇ…」


「甘いのは間違いないだろうしな。女になってからというもの甘いものが大好物なのだよ」


「優美甘いものものすごい好きだもんね」


「至福の一時よな。お汁粉がいかほどがわからんけど」


お汁粉缶を手に持ったまま炬燵に潜る優美。

そんな優美を翔也が眺めていた。


「…なんだよー翔也」


「いや、そういえばちゃんと聞いたことなかったなって」


「何を?」


「過去の優美」


「ぶっ、今それ聞く?」


「そりゃあ気になってたから…」


「てっきり信じてねえのかと」


「うん?信じてたよ?優美があんな嘘つく理由がないし」


「いやだって自分でいうのもおかしいけど明らかな超常現象だったのよ?そうほいほい信じていいものなの?」


「それで優美が僕の前にやってきたなら問題ない」


「適応能力高いなおい」


微妙な顔の優美。

もうすでに優美にとっても過去のものになりつつあるここに来る前の己。

優美にとってしてももはや今更なものなのである。


「せっかくだし教えてよ。優美、どんな人だったの?」


「…改めて話すとなるとこまるね?何を聞きたいのかね少年」


「えーっとじゃあ…どんな見た目だったの?」


「それ聞くう?幻滅すんなよ?」


「え、そんな何かひどい内容なの?」


「…まああれよ。体系がっしり、まあよく言ってそんな感じ?主に横に広いタイプの」


「え、ちょっと信じられない」


「今の見た目からでは想像つくまいよ。今の俺はどこまでいってもちんまい幼女だしな」


「てっきりもっと中性的な感じなのかなって勝手に想像してたよ」


「何が何が、あれですよ。男性ホルモンばりばりでしたよ。髭が生える生える。数日剃らなきゃじょりじょりしてくる感じだったし。今のすべすべからでは考えられませんな」


「うわあ、確かにイメージ崩れるなあ」


「だから聞くなと言うたのに」


「でも聞きたい。なんだろ、怖いもの見たさじゃないけど、そんな感じ?」


「え、まだ聞くつもり?」


「うん。どんな顔?」


「…一言でいえばおっさんだなうん。老け顔とも言う」


「えー以外」


「いやあれよ?普通に二十歳超えてると勘違いされたことあるからな。まだ高校生の時代に。どんだけひどいかお分かり?」


「今と真逆だね、優美」


「ほんと、今では二十歳超えてるのに逆に二十歳よりも下に見られる見られる」


いろんな意味で身分証を離せない優美である。


「あ、そういえば」


「何よ、まだ何を聞くというのだ」


「優美、名前って前から優美だったの?」


「…ああ、名前か。名前かあ…」


「あ、ごめん。言いたくなかった?」


「あ、いや、ちょっと久々すぎて元のほうを忘れかけてただけだ。優美じゃない、前の名前、あるよ」


「あるの?ほんとに?」


「今の名前はこっちに来てから勝手につけた名前だからなあ…もうなんか10年以上も使い続けて慣れちまったけど、最初は慣れなくて大変だったな」


「…教えてくれる?」


「別にいいよ。…勇人。勇ましいに人で勇人」


「へえ、勇人、勇人かあ」


「ユウの読みだけ引っ張ってきて適当につけたのが今のほう。まあ結果としてそれっぽい名前になったしいいんじゃないのかね」


「なんか変な感じ。優美の昔の話聞いてるだけなのにね」


「そりゃ嫁さんがオスだったころの話とか聞く旦那とか世界を探してもそうたくさんはおらんだろ」


「でもなんだか知れて嬉しい」


「なーにが楽しいのやら、こんな話」


「優美の話はあんまり聞いたことなかったから」


「…ま、確かにあんまり話したことねえな。別に聞かれれば話すぞ?」


「じゃあまた聞いてもいい?」


「いいよ、俺がどんな男子だったか聞かせてやらあ」


「じゃあ…」


「だがちょっと待った」


「ん?」


「お汁粉飲ませて。冷めてきた感じがする」


「あ、分かった。え、というかずっと持ってたの?」


「ずっと持ってた。手は暖まったが汁粉が冷たくなってきたからはよ食わねば」


「じゃあ続きはそれ食べてからで…」


「おうちょっと待っててな。あ、なんなら翔也も食う?」


「ちょっと頂戴」


「じゃあめんどいから回し飲みな」


「優美と間接キス…!」


「何今更うぶいこと言ってんだ。直にキスした仲だろうが。下の口にも突き入れといて今更何を」


「…優美」


「何よ」


「その…そういうのは昔から?」


「中学時代から頭はピンク色よ」


その夜、存分に過去について語りつくした二人であった。





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