暖房求めて
2025年10月のお話。
「これで終わりか?」
「たぶん。持ってくるものも大して多いわけでもないしね」
「まあ翔也の家も近いから忘れ物あったらまた取りに行けばいいか」
ここは優美の家のもともと使われてないに等しかった部屋である。
翔也が引っ越してくることになったので使うことになったのである。
「とりあえず段ボールの中身開ければ終わりか。部屋これでよい?足りる?」
「大丈夫大丈夫。元々の僕の部屋より広いから。というか優美の家の中こんなに広かったんだね?」
「何を今さら、入ったことあるだろ」
「それでもほとんどリビングまでだったからね。ここまで広かったとは」
「まあ確かにそうか。縁側とかリビング以上はあんまり入ったことなかったっけか。まあ見たまんまよ。一階しかない代わりにえらい広いからこの家」
基本的に一人で住むには少々広すぎもいいところな家である。
明らかに一人では過剰スペースであり、実際優美一人ではとてもすべて使い切ることはできなかったようである。
というか千夏がいた時代ですら全部屋はとても使いきれていなかったので当然と言えば当然である。
「ではごそごそと」
「ああいいよ。段ボール解体くらい自分でやるから」
「ん?見られたら困るものでも入ってんの?」
「いやそういうのは無いけど…」
「まーじでえ。エロ本の一冊くらいあるんと違います?」
「ないから!」
「まあそれはさておき手伝わせてよ。せっかく一緒に住むんだし、一人でやる必要もないっしょ?」
「じゃあ、手伝ってもらっていい?」
「はいよ」
というわけで段ボール解体作業である。
翔也の荷物はあまり多くなかったので、それほど時間をとられることもなかったようである。
「うん終わりか今度こそ」
「そうだね。ありがと優美」
「いんや、私ほとんど何にもしてねえから。適当に箱開けて中身覗いてただけだから」
「中身出す作業手伝ってくれただけでもありがたいから」
実際何が入っていたのか気になったのが多分にあったらしいが、
まあ結果的に手伝いになっていたならば問題あるまい。
「しっかしなんかすごく普通だな。中身」
「普通って、どんなもの想像してたの優美」
「翔也が見られたらテンパる感じの物体をこう」
「優美に隠さなきゃならないものとか無いからね?」
「あったら言えよ。その時は隣で一緒に見ることにする」
「いや仮にあっても言う人いないと思うんだけど?」
なお隣で見るというこの約束は実際に果たされてしまうのだが、
翔也にとっては災難であったというべきか。
「まあとりあえずこれで部屋としては機能するから大丈夫だな」
「うんそうだね。これでちゃんと優美と一緒にここに住める」
「しっかしあれだな。寒そうだな。すごく」
基本的にこの家は部屋はほぼほぼ全面畳。
さすがに大分寒い。
「まあまだ耐えれるから大丈夫。夜は布団被るだろうから」
「でももう10月だぞ。遠くない内に超絶寒くなるだろうし…というか今でも少し肌寒いしな。ちょっと暖房器具持ってくるわ」
「え?あるの?」
「ふふ、うちの倉庫を甘く見るなよ。ものすごくいらないものから、絶対に開封したらまずそうなものまで、ありとあらゆるものが眠っているからな」
「なんか不穏な予感しかしない単語が聞こえたんだけど」
「まあただの生活雑貨とか使わなくなった家電とかも結構置いてあるから、たぶん小さな暖房器具くらいはあると思うから持ってくるわ」
そのまま倉庫の方に消えていく優美。
しばらくして戻ってきたときには手に小さめなストーブと思われるものがあった。
「とりあえずこれで」
「本当にあったんだ」
「いやまああるかどうか半信半疑だったけど、なんか前買ったはいいけどほとんど使わずに放置してあったやつがあった気がしたからね。これでとりあえずオッケーか?」
「いや十分。ありがと」
「あ、でも使えるか怪しいから一回つけてみよう」
「ああ、まあそうだね。いざ使うときに使えないってなりたくないし」
「えーっと…この部屋コンセントどこだ」
「あれじゃない?」
「ああそうそうそれだわ。この部屋ほとんど使ったことないから完全に何がどこにあるか分かってないんだよなあ」
掃除以外でまともに入った記憶のない優美である。
「というか前って何に使われてたのこの部屋って」
「名目上は来客用。ただ、実際に客が来てもほとんどリビングか玄関で相手するからここ使われることなんてそうそうなかったからなあ」
「実際はどうだったの?」
「ほとんど千夏の学校の友達が遊びに来た時に寝る部屋と化してたな」
「ああ千夏さんの」
「そそ。だからこの部屋が使われることはたぶんもう無いから安心して好きにしてくれ」
なお実際は定期的に訪れる千夏を筆頭にするメンツが泊まっていくことになるのだが、
実はまだもう一部屋は余っているので問題なかったりする。
最悪千夏の了承さえ得れれば過去の千夏の部屋も使えるので、
部屋の数には事欠かない。
正しく横に広い家であった。
「…あり?これつかねえ」
「え?だめ?」
「だめかも。電源部分が全くついてないし。というかなんか今コンセントつなげた時に火花散ったような」
「それかなり危ない気が…」
「あぶねえな。やめとこう。こりゃ新しいの買ってきた方がいいわ」
コンセントを引っこ抜こうとする優美を翔也が止める。
「僕やるよ。危ないし」
「いやそれ翔也が危ないでしょうに」
「大丈夫。もし感電したら優美が助けてくれると信じてる」
「すっごい信頼されてら。治癒魔法とかは使えないぞ」
「はは、まあよっぽど大丈夫だよ」
実際引っこ抜いたときにも微妙に火花が散ったので、
まあ完全に危険物認定である。
「うんうん。だめだ。そもそもこの家木造だから下手すりゃ火事だ」
「確かに…ほとんど全面木造だもんね」
「そうなのよな。そのまま神社も全壊しかねないしさすがにこれは危ないかなあ。よっぽどないとは思うけど」
「まあ季節的にもまだ寒さには耐えれるから大丈夫だと思うけど」
「どうする?じゃあ仕方ないから今日は俺の部屋で寝るか?」
「え!?いや流石に悪いよ。狭くなるだろうし…」
「いや別に二人くらい頑張れば入るだろ。部屋そこまで狭くないし。何よりあそこには暖房がある」
「優美いいの?」
「何が?」
「何がってその…いや隣で僕が寝るの」
「何をいまさら。いいに決まってるでしょうが。むしろいかんのか好きな男と寝るのが」
「いやまだ早いかなって…」
「同居するって決まった時点でもうそういうことになるのかなとむしろ思ってたんだが。え、なに翔也まさか嫌なのか。うわー泣けるわー」
「も、もう優美。それはずるいって」
「ふふふ…とんでもなく棒読みだったけどな。いいじゃない。嫌じゃないなら一緒に寝よや」
「優美さえいいのであれば…」
「よっし決まり。じゃあとりあえず暖房器具買うまでは俺の部屋に連れ込むんでよろしく」
「よ、よろしく?」
なおそれから数日後に暖房器具を買ってきた。
それまでは本当に毎日一緒の部屋にいたようである。




