伸びるというより広がる
2014年11月のお話。
お待たせしました。
「…」
「どしたの優美ちゃん」
「いや…髪伸びたなと」
「もともと長くない?」
「長過ぎねえかこれは」
「切ってないもんね」
「ないね。こっち来てからまだ一回も」
「ロング好きだもんね」
「それとこれは関係ない。あとロングが好きなのはお前だろ」
「優美ちゃんも好きじゃないの?」
「好きだけどお前にゃ負けます」
休日。
朝飯を終えて一息ついたところでの会話である。
なんか優美が髪の毛を指でくるくるやっていたのでこんな話になっている。
「さすがに目にかかるようになってきたから切らないとまずい」
「視界不良ですか」
「わりと。毛が邪魔だ。前は無縁だったんだが」
「天然パーマだったもんね」
「お前もな」
「まあそうだけど」
「スチールウール」
「そのあだ名取り出すのやめなさいや」
「天然パーマってみんなスチールウールみたいになるよね」
「なるね。優美ちゃんもなってたし」
「くるっくるだから前髪にあんまり髪がかからない不具合」
「まあ生活に支障出ないから楽といえば楽だけど」
「まあな。ストレートにちょっと憧れた」
「今はストレートだよよかったね」
「髪の毛がストレートになるのと同時にその他諸々全部変わりましたがね」
「大丈夫。ちょっと幼女と少女になっただけ」
「それちょっとの変化じゃないたぶん」
「冷静に考えればなんでこんな普通に生活してるのか謎だよね結構」
「もう少しこう反応するべきなんだろうか」
「でもなんか普通に生活できてるし別にいいよね、みたいな」
「我々おかしいのではないだろうかと最近思い始めた」
「たぶんおかしいんじゃない?」
「だよね」
「うん」
今の状況ってだいぶおかしいんじゃないかとか最近思い始めた二人である。
まあ何か感覚がずれているのはおおよそ間違いないであろう。
「いやまあそれはよくてですね。いやよくないけど」
「うんうん」
「とりあえず髪の毛切ろうかなと」
「まあさすがに視界不良はまずいしね」
「うむ。そのうち某テレビから出てくる井戸の人に慣れる気がする」
「優美ちゃんじゃホラー感ないよね」
「言うなや。夜中にこっそり枕元に立つぞ」
「なんだろ。私起きなさそう」
「それ、やったら俺馬鹿見るじゃないですか」
「深い眠りの最中なら起きない自信ある」
「まあ眠りが深いと目覚まし聞こえないあれよね」
「うん。それ。それかな?」
「とりあえず髪で目が無くなる前に切ってきます」
「あい」
「そういやお前は大丈夫なん?」
「伸びてはいると思うけど。なんかあんまり来た当初から変わってない気がする」
「伸びるの遅いんですかね」
「個人差があるってやつじゃないの」
「それか」
「まあ伸びてきたら私も切りますよ。ロングは好きだけど、さすがに平安貴族のごとく伸ばしたくないし」
「どこまで伸ばす気だよ。現代で平安貴族レベルになったらいろいろやばいわ」
「物の例えです!さすがにそこまで伸ばしませんから」
「でもすでに腰くらいあることねえ?」
「ロングがいいのです」
「好きよなあ…」
「優美ちゃんも切るにしてもショートにしちゃ駄目ですよ」
「そこまで短くする気はないぞ。なんだかんだ長い方が好きだし。ポニテできなくなるのは死活問題だし」
「優美ちゃんは本当にポニテ好きよね」
「え、最高じゃね?最近ツインテも好きになってきたけど」
「私はかわいければなんでも」
「こう男だとまずやらねえ髪型という点で至高」
「江戸時代の武士とか割と後ろで結んでる感じするけど」
「…あれポニテなん?」
「いや知らないけど」
「とにかくポニテはやめられねえのですぞ」
「そですか。まあ未だに遊びで私が髪の毛いじった時くらいしかポニテじゃないことないもんね」
「寝起きの時はさすがに普通におろしてるけどな」
「でも朝ごはんの時には既にポニテだし」
「まあ気づくと勝手に結んでるんで」
「何それ怖い」
「ポニテなら負けない自信あるわ」
「誰にだ」
「さあ?」
「適当だなあ」
「でもそこんじょそこらの幼女に負ける気はないな」
「対抗するの幼女なんですか。そこ同年代じゃないのか」
「いや同年代でこんな幼女幼女してるの…稀にいるか」
「いますね。私の前の知り合いとか、今の学校にもいるし」
「じゃあそいつらには負ける気しないということで」
「じゃあってなんだじゃあって」
それから日を改めて髪を切りに行った優美。
話をした当日はめんどくさかったらしい。
「ただいー」
「おかえりー」
リビングに顔を出す優美。
「短っ!」
「いやそうでもないだろ。前が長すぎただけで」
「え、でも優美ちゃんも腰くらいあったよね?」
「あったね」
「肩くらいになってるじゃん」
「いや肩よりは下だから。じゃっきん行きましたわ。どうせすぐ伸びる感じするし」
「ロングじゃなくなっただと…」
「いやまあどこからロングなのか知らんがセミロングくらいはあるんじゃねえのかこれ」
「まあそれくらいはある気がする。でもそれポニテいける?」
「小型化でなんとか」
「小型化って」
「前よりきついかもだが」
「まあいいや。最悪私が新たな髪型に改造すれば」
「どういうこったし」
「髪いじりは任せろーばりばり」
「ほんとお前さん髪いじるの好きよねえ…」
「大好きですね。あ、前髪はどう?ちゃんと見えます?これ何本?」
「4本。ってさすがに髪の毛で見えなくなっててもそれくらいは見えるわ。今はばっちり。だいぶ伸びてたっぽい。やっぱり」
「そっか。まあとりあえずよかったね」
「おうよ。しっかしあれだな」
「何?」
「髪が縦に伸びてるって変な感じ」
「何言いだしてんだこの幼女」
「幼女いうな。いや天然パーマだったじゃんか」
「うん」
「こうなんか髪の毛が伸びるというと横と縦に広がるイメージがあったんだが。そう、ブロッコリーのごとく」
「ああうん」
「下に伸びるんだな」
「いや当たり前なんですけどね。天然パーマが重力に逆らいすぎなだけで」
「あのブロッコリーはもう拝めないと」
「いやできることならもう私は拝みたくないですけどね。ストレートがいいです」
なおそれから数か月後、
髪を切りに行った千夏は相変わらず腰くらいの長さであったという。
ロングはやっぱり正義らしい。




