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新たなる年へ

2021年12月のお話。

「ただいまあ」


「お帰りなさい」


「しげちゃんもお帰りー」


「はいただいまです千夏さん」


二人で行った買い物から帰宅し、

家の中へと戻っていく。

なおここはそこまで広くは無いアパートである。

さすがに茂光の大学卒業からそれほど経っていないので

一軒家を買うほど余裕はない。


「いっぱい買っちゃった」


「まあ、お正月くらいゆっくりしたいですし、買い物は年末に終わらせるくらいでいいんじゃないですか?」


「そんなもんかな」


「とりあえず買ってきたものは冷蔵庫に入れちゃいましょ」


「うん」


茂光の両手に抱えられた買い物袋が台所へと運ばれていく。

結構な分量だが、

こういう時怪力な茂光は便利である。

その証拠に千夏は自分のバックくらいしか持っていない。


「ふう、なんだかんだでもうあと4時間くらいで新年だねえ。あっという間だよ」


「今年もあっという間でしたね」


「ほんとに。今年は色々あったから尚更かもしれないけど」


「確かに。卒業に結婚に夜…」


「最後のは言わなくていいからっ!」


「あ、すいません」


「でも、確かにあっという間だったなあ。このまんまだとおばあちゃんになるのも時間の問題だね」


「ふふ、さすがに時間の過ぎ方半端じゃなくないですかそれ」


「でも、私的にここに来てから時間が飛ぶように流れてってるんだもの。二度目の高校もあっという間だったし。しげちゃん待ってたら大学の4年もあっという間だったし」


「こっからは噛みしめて一年一年過ごしてきましょ?俺はそうするつもりですから」


「そうだね。せっかく結婚したんだし?」


「実際まだ夢みた…これは禁句でしたね。千夏さんと一緒にまた次の年、次の年を迎えるんです。俺の予定では、死ぬまで」


「私も他の人と一緒になる気は無いからね。一生たぶんこのまんまだからね。しげちゃん覚悟しなよ」


「もうあなたを好きになった時点で覚悟してましたよ。逃げようとしても離しませんからね」


「しげちゃんこそ逃げちゃだめだからね」


「その点は安心してください。俺から逃げるなんて天地が裂けてもありえませんよ。…もっとも、逃げたら優美ちゃんに殺されそうだけど…」


「え?」


「あ、なんでもない、なんでもないです」


優美からは逃げたら殺すとハッキリ言われているのである。

マジトーンにマジ目だった。


「さて、あと残された時間なにしましょうかね…」


「とりあえずテレビつけよ?」


「あれ?珍しいですね、千夏さんからテレビをつけようと言い出すなんて」


そんなに積極的にテレビを付けるタイプではない千夏。

茂光もそれほどテレビにこだわるタイプではないので、

普段であればそんなについていないのである。


「いや、年末は特別番組いろいろやるから?」


「ああ、まあ紅白とかやってますしね」


「ゆく年くる年とかね」


「しぶいですね」


「でも必ずあれは見るんだよね」


「分からなくはないです。うちでもあれは毎年必ずついてましたし」


とりあえずテレビに紅白を流す千夏。

まああんまり真面目に見ていないが。


「さーてと、そろそろ夕飯の準備しようかなー」


「ああ、もうそんな時間ですか」


「帰ってきたの結構遅かったからね」


「今日の夕飯は何にするんです?」


「そりゃ当然年末ですから」


「ああ、蕎麦かな」


「正解。神社に居た時に優美ちゃんに催促されてやってたから知らないうちに腕上がっちゃってたんだよね」


「期待しますよ?」


「お手柔らかにお願いします。てか、何回か食べたことなかったっけ?」


「ん、ありますけどそこはこう夫婦になった付加価値と言いますか」


「味は変わんないからね?」


「お嫁さんに年越し蕎麦作ってもらえるっていうのがいいんです。そもそも千夏さんの料理がおいしいのは知ってますから何にも問題ないんです」


「じゃあ腕によりかけて作っちゃうからねー」


そんなこんなで千夏が台所に引っ込む。

とはいえ、狭いアパートなので、リビングから台所の中の様子は丸見えである。


「…」


「…」


「あの、しげちゃん?」


「どうかしましたか?」


「そんなにこっち見られるとものすごい作業しづらいんだけど?」


「あ、すいませんつい。違う方向いてます」


「そんなに時間かからないから待っててよ」


「…」


「…」


今の一言で収まったように見えた茂光の視線であるが、

今度は断続的にその視線を感じる千夏。

千夏はあまりそういうものを感じるタイプではないが、

さすがにちょっと顔を上げると確実に目が合う状況で

気づかないほど抜けてはいない。


「ちょっとーしげちゃんどうしたの?」


「あ、いやなんでも」


「気になるってば」


「うーん…いや、こう千夏さんが台所立ってエプロン姿なのいいなと」


「ちょ、毎日見てるでしょ!何を今さら…」


「なんでしょ?年末だから意識しちゃったんですかね」


「どういう年末効果…」


「いや俺にはご飯作ってくれる家庭ができてるんだなーとしみじみと」


「そんな面と向かって言わなくていいからっ!普段からやってることだから!」


「でもそういえばお礼言ってませんでしたよね。普段からおいしいご飯ありがとうって。今年最後なんで言っておきますね」


「もう…」


そんなこんなで年越しの蕎麦も食べ終えて、風呂に入れば、

気づけばもう年明けまでのカウントダウンと言った時間でである。


「そろそろ明けるね」


「あ、お風呂上りましたか」


「お風呂で年越しはしたくないからね。ちょっと急いで出てきたよ」


テレビの前に座っていた茂光の横に座り込む千夏。


「そういえば、優美ちゃんの神社はいいんですか?」


「いいって何が?」


「いや、年末やばいからいっつも応援くれって千夏さん行ってたなと思い出して…」


「優美ちゃんがね。結婚した年くらい夫婦水入らずでいたいっしょ。ってさ」


「へえ…あとでちょっとお礼言っておこうかな」


「ただどっかのタイミングで来て死ぬからってさ」


「あ、でも応援は呼ぶんだ」


「まあ、だから今日と明日くらいはゆっくりできるから」


「そうでしたか」


「何気にしげちゃんと一緒に年越すの久しぶりだなあ」


「そうですね。大学時代はさすがに無理でしたし…」


「高校の時に一回あったくらいだよね」


「そうですね。神社に俺が押しかけて」


「そうそう。あったあった。泊めてくれーって」


「優美ちゃんにめっちゃ熱いねえって言われた記憶」


「まあ、あの時はしげちゃんぐいぐい来たもんね」


「あの時は千夏さんを離したくない一心で…」


「もう離れませんよー」


除夜の鐘が打ち鳴らされる。


「煩悩退散…」


「別に煩悩まみれでもいいんだよ?」


「大丈夫です。仮にここで飛んでもすぐ煩悩まみれになりますから」


「それはどういう意味で」


「千夏さんが近くにいるだけで煩悩まみれです。これ抑えるの大変だったんですからね」


「ちょ、しげちゃん一回ことに及んだからって解放しすぎだから」


「もう抑える気無いんで来年もよろしくお願いします」


「その新年の挨拶はひどくない?ねえねえ。…来年もよろしく」


108回目の鐘が響いた。



年明けに年末の話って…

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