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2036年6月のお話

「藤也、大丈夫?」


「ぅうん…」


神社裏。

いつもの家のリビングの脇の部屋。

長いことほとんど空き部屋に等しかったこの場所は、

優美に子供ができたあたりから改造され、

今では子供部屋になっている。


「…熱は、38度か。だいぶ高いな…」


「お母さん。藤也大丈夫かな?」


「うーん、病院には行ったし、薬も貰ってきたし…あとはゆっくり休めば治ると思うけどね」


その部屋にてうめき声をあげる一人の少年。

この少年こそ、優美の二人目の子供の藤也である。

その脇には結衣と優美の姿があった。


「この子も私に似て低体温気味だから余計辛いんだろうね…」


「私、冷却シート替えるね」


「ん、じゃあ結衣お願い」


立ち上がってリビングの方へと向かう結衣。

普段使わないようなものはだいたい倉庫に眠っているのだが、

風邪ひいたとき用に使うものはリビングに常備してある。

いざ使う時に場所が分からないでは困るので。


「えーっと…どこだっけ」


辺りをごそごそやる結衣。

いくら常備してあると言えど、

普段使わない物の場所はしっかり覚えていない。


「お母さーん!シートってどこにしまってあるー?」


廊下に顔だけ出して叫ぶ結衣。

部屋ごとの防音性はいいわけではないので、

これで十分聞こえるのである。


「左上の棚。あと叫ぶと藤也起きるよ」


「あ、ごめんなさい。分かった」


こちらもまた部屋からちらと顔を覗かせて返答する優美。

その返答を聞いてリビングに戻る結衣。


「左上左上…あれかな」


手を延ばす結衣。

少し高い位置にあるので背伸び気味だが、

一応届いたようである。


「えーと…」


中身をかき回す結衣。

棚の中身はみえていないため仕方ない。

手さぐりである。


「あ、あった!」


なにやら袋を引っ張り出す。

買いだめしておいた冷却シートである。


「持ってきたよ」


「あ、ありがと結衣」


「私にやらせて?」


「やってあげて」


藤也の額に貼られた冷却シートをはがす結衣。

既に使用時間を過ぎているせいか、

微妙に生暖かい。


「首に貼ってあるやつは?」


「今はがそうとすると藤也起きちゃうから、起きてから替えよ」


「分かった。じゃあこっち捨ててくるね」


「ああ、私やっとくから結衣は貼りかえてあげて」


「分かった」


優美に使い終わった冷却シートを渡して藤也に向き直る結衣。


「えーっとこれはがして…」


ぺたりと、藤也の額に新しいシートが貼られる。

少々斜めってるのはご愛嬌である。


「お姉ちゃん冷たい…」


「あ、ごめん起こしちゃった」


「いきなりおでこがヒヤッってしたんだもん」


「ごめんごめん。…ちょっとは楽になった?」


「うん、いっぱい寝たから。さっきよりも元気だよ」


「そっか、よかった。…お腹どう?空いてる?ほとんど食べてないでしょ?」


「…ちょっと減った」


「分かった。お母さんに言って、作ってもらうね」


「うん…」


「首のも替えちゃうね。向こう側向ける?」


ごろんと横に寝返りをうつ藤也。

首元に貼られたもう一枚のシートが目に入る。


「よいしょっと」


ペロッとそちらのシートもはがしていく。

とりあえずはがしたシートは一旦床の畳に置いておいて、

新しいものと貼りかえる。


「ちょっと冷たいよ」


「ゆっくり貼ってね」


「うん」


こんどはそっと首元にシートを貼っていく。


「よし。元に戻っていいよ」


再び寝返りをうつ藤也。

さっきまで上を向いていたが、

そのまま結衣の顔がちゃんと見える位置まで転がってきた。


「お姉ちゃん」


「どうした。藤也」


「よくなるかな」


「大丈夫大丈夫。私よりも藤也丈夫だからね。寝込んだのなんか初めてじゃない」


軽く藤也の頭を撫でる結衣。

実際、結衣はそこそこ定期的に風邪をひいたりしていたが、

藤也が布団行きになるほどひどい風邪をひいたのは今回が初めてだったりする。


「ん、藤也、起きちゃったか」


「あ、お母さん。起こしちゃった」


「ママーお腹空いた」


「ん、お腹減ったか。じゃあご飯にしようか?」


「…うん。うどん食べたい。前お姉ちゃん風邪ひいたとき食べてたもん」


「そう言えばお母さん。なんで風邪ひくと毎回麺類出てくるの?」


「なんだろ、我が家の…というか私の伝統?」


優美がここに飛んでくる前は、小さかったころは、

風邪ひくとうどんだったらしい。


「じゃあ作ってくるからそれまでもう一眠りしなよ」


「でももうあんまり眠くない…」


「じゃあ私が一緒に居る!」


「それじゃあ結衣。藤也任せた。できたら持ってくるからね」


そう言うと部屋から出てくる優美。

後には二人が取り残された。


「藤也。なんかしてほしいことあったら遠慮なくお姉ちゃんに言っていいからね」


「うん、ありがと。お姉ちゃん。でも、今はいい」


藤也の隣で足を崩した座り方になる結衣。


「お姉ちゃん」


「何?」


「パンツ見えるよ」


「わ、馬鹿、見るな」


顔の近くに居たが故であろうか。

姉弟感であるのでお得感あるかと言われれば謎である。


「…もう。油断できないわね全く」


「見られたくないの?」


「見られたい人はいないの」


「ママ、全く気にしないよ?」


「お母さん…」


家族に見られる分には別にどうでもよくね?

とかいう考えを持っている優美であるので、

ここら辺は仕方ない。

結衣のがそこらへんはむしろしっかりしているであろう。


「とにかく、人の下着見ないこと!いいね!」


「うん」


聞き分けが良いのは単純に理解していなかった証であろう。

オープン過ぎる母親故の弊害であった。


「お姉ちゃん」


「何」


「風邪が治ったら、一緒に学校行こうね」


「はいはい。いっつも行ってるじゃん」


「でももう長いこと学校行ってないもん」


「まだ二日でしょ…」


「早く学校行きたいー」


「そのためにも、ちゃんと寝て、ちゃんと風邪直しなさいよ」


「うん」


「…まあ、藤也が休むのなんて土日くらいだったから仕方ないか」


子供のころの休みは長く感じるものである。

まして風邪ひいて体を動かせないとなると、

それはそれは長い時間のように感じるものである。


「できたよー」


「あ、お母さん」


「ご飯ー」


「結衣、ちょっと藤也起こしてくれる?さすがに寝ながらは食事できん」


「分かった。ほら藤也。起きて」


「…起こして」


「何甘えたこと言ってんの。ほら、捕まって。はい」


なんだかんだ言いながら手伝う結衣である。


「お姉ちゃん」


「何さ」


「食べさせて」


「甘えすぎ。ほら、自分の手で持ちなさいよ」


「いいじゃん今日くらいー」


「…仲良いのう」


ぼそっと呟いた優美のつぶやきが二人に聞こえることは無かった。



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