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_____夢語3_____

2027年12月のお話。

「…ん」


ふわりふわりと、

謎の浮遊感に襲われる千夏。

おかしい。

少なくとも自室のベットの上にいたはずである。


「…どこ、ここ」


目を開けてみれば、

目の前に溢れるのはぼんやりとした霧。

どこまでも続く薄ぼんやり光り輝く霧である。

前後左右上下どこを見ても、である。


「なんで浮いてるんだろ…」


浮遊感の原因はこの空間であった。

文字通り体が浮かんでいるようである。

もしかしたら落ちているのかもしれないが、

少なくとも落ちている感覚はしない。

周りの景色がほとんど変わらないので何とも言えないけれど…


「うーん…またどこかに飛ばされる予兆だったりするのかなあ…」


不思議体験も二回目だとあんまり驚かなくなるものなのだろうか。

少なくとも心が平常心を保てなくなるようなことは無かったのである。


「…ふよふよ。浮く感覚って変な感じだなあ」


少なくともまあそうそう体験できるものではない。

水中とはまた違った感覚であった。


『千夏よ…』


「ふぁい!」


誰もいないからとだいぶリラックスしていたのだろう。

謎の空間に響く声に飛び起きる千夏。

まあ飛び起きると言っても浮遊した体制を変えられるわけではないので。

背筋がピンとしたくらいであるが。


「だ、誰です?」


『我はそなたらがかの神社にて祭りし九尾と呼ばれし者なり』


「えーっと、神様?」


『左様。人は我を神と呼ぶ』


「えっと、こんばんは?」


『…驚きより先に挨拶が出るか』


どこか拍子抜けした感じの声が響く。


「えっと、神社ってあの神社、ですよね?」


『左様。そなたがかつて住んでいたあの地である』


「な、なにか御用です?」


その瞬間千夏の頭によぎったのは、

神社での自分のふるまいであった。

一応巫女だった気がするが、そっち方面の仕事は優美に放り出していた気がする。

となるとそれに対して罰とか飛んでくるのかとか考えていたのである。


『…用、…用か。…考えておらんかったな』


「え」


『あえて言うのであれば…顔合わせ、か』


「顔合わせ?」


『しばし待て』


声が響くや否や、あたりにあった霧が動き、

一か所に集中していく。

やがてそれは形を取り、千夏の前に顕現した。


『そなたらのことは今までずっと見てきたがこうしてそなたと顔を合わせるのは初めてであろ」


「…」


『…どうした』


「いやなんで狐娘なのかなーって」


『そなたらは必ずそこから入るな…』


少々呆れ顔の神兼狐娘。

まあ優美の時にも聞かれたので仕方ないのかもしれない。


『この姿はそなたらの妄想や記憶をもとに我が作り上げたものである。故に、この姿にな』


「つまり妄想の産物」


『…その言い方は止さぬか。我は少なくとも存在はしている』


「あ、ごめんなさい」


『そなたらは相変わらず仮にも神を相手にしておるのに容赦なしであるな』


頭に浮かぶは優美との対話であった。


「…って、あ!なんかどっかで見たことあると思ったらっ!あの時の夢の!」


『…気づいたか。まあ今と同じ姿であったからな。気づくか』


この時のあの時とは狐のイナリが死んだ夜のことである。

枕元に立って話を聞いたことがあったのである。

普通に出ると幽霊に間違われそうだったので、

ちょっぴり神々しいオーラのおまけつきで。


「あの時はありがとー。だいぶ沈んでたんだけど、ちょっと立ち直った」


『まあそのために行ったようなものであるからな。そなたがイナリとの関わりは一番深かったであろう』


「でも神様ってそんな簡単にこう出てきていいものなの?」


『そなたの前には10年前に夢に一度と、その時以外は出ておらぬ。神は本来現世の人間との関わりはあまり許されぬからな』


「へぇー神様も大変なんだねえ。でも、それなら今日はなんで?さっき用が無いって…」


『夢の中ならば問題は無い、ということだ。夢の記憶は現世では封じられる。ここでの記憶は何一つ残らない』


「そうなんだ。あ、でもちょっとさみしい」


『何故』


「神様の姿好みだから絵に描きたいなとか思ったんだけど」


『それが理由か…』


千夏のペースに巻き込まれる狐娘。

まあ今まで会話相手は優美くらいだったので、

いきなり別の相手と会話したらこうなるのも仕方ないかもしれないが。


『今まではそなたとはなかなかまともに話せなかったが、イナリの死以降、そなたの夢とも比較的安定して繋がるようになった。故に今後はこの空間でよく会うことになるだろう』


「…イナリの最後のプレゼントかな?」


『だとよいな。それならば我も嬉しい。イナリに礼を言わねばな』


「神様知ってるんじゃないの?」


『限りなく全能には近いと自負しているが、全知ではない。我に読めぬものもあるということだ。神との繋がりを作り出すなど考えられぬが…実際あれ以降それが急激に行いやすくなっている。かの者が何かを起こしたとしか思えぬな』


実際今までも何度か千夏側にアプローチはかけていたらしいが、

優美と違い夢世界が安定しなかったのである。

イナリの死が何かしらの影響を及ぼしたのは間違いないのだろう。


「じゃあここでまた話せるってこと?」


『左様。我もそなたと会話してみたいが故、な。…まあ、今日はそれほど長くここが維持できぬ。またいずれ会おうぞ』


「うん、じゃあまた呼んでね」


『ではな。千夏。今まで感謝する。そなたがいなければ優美は早々に神社生活リタイアしておったであろうしな』


「でも私家事してただけだよ?」


『家事ができる人間がいないほうが問題であろ。そう言う意味でそなたらはバランスがとれていて我も見ていて安心できた』


「そっかよかった。文句言われるんじゃないかって思ってたんだけど」


『感謝こそあれど、文句などつけようもない。新たなる家庭にて全力で生きるがよい。我も出来る限りの手助けをしよう』


「ありがとー神様」


『では今宵はここで。またいずれ会うとしようか』


「うん、またねー」


『ではな、千夏。また会おうぞ』


その言葉を最後に辺りの霧が急速に晴れ始める。

千夏の視界がぼやけ、閃光が辺りに迸った。


□□□□□□


朝の日差しがカーテンの隙間から差し込んでくる。


「…んん」


千夏の目が薄く開く。

まだ寝ぼけているようではあるが。


「…狐」


何故か頭の中に、一人の狐少女の姿がこびりつく千夏であった。



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