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2027年5月のお話

昼の神社。

春の暖かい日差しがあたりを照らす。


「…なんか熱いのう。もう夏なん?」


優実には暑かったようであるが。


「まったく、最近の季節は夏と冬しかありゃしねえ。全く、日本の四季はどこいっちまったのやら」


ぶつくさ言いながら神社の境内へと出てくる優実。

掃除はすでに終わっているのでそれではない。

販売所の補充である。

さすがに倉庫のストックは切れたので自分で製作する羽目になっている。


「…うーむ。しかし毎度ながらなんだってここの販売物って補充する羽目になるほど売れるんかね?どう考えてもわざわざ買いに来る場所じゃねえ気がするんだがここ」


理由は様々であるが、

優美的には売れる分には懐が潤うので問題ない。

他の神社はともかく、ここでの売り上げは全部優美の懐行きなので。


「…むぅ…どう見ても人がいない時間のが多い気がするんだけどなあ」


そんなことをぶつくさ呟きながら家の方に戻ろうとすると、

背後の石階段から足音が響く。


「…誰か来たか」


今は平日の昼なので、子供たちが来るにはちょっと早い。

なのでまあ他の参拝客か、千夏であろう。


「…怪しい」


ちらと人目現れた人物を見て優美が持った感想はそれであった。

春先と言えど暖かいのにもかかわらず、

真冬に着るような格好で、

しかもフードで顔を隠しているとか怪しまれても仕方ない。


「…」


さすがにその人物を放置して家に戻るわけにもいかず、

その場で静止し、販売所からさりげなく視線を送る優美。


「…あ」


声を上げたのはフードの人物である。

目があった。思いっきり目があった。


「げ」


その人物は小走りで参道を外れて、優美の方へと向かってきた。

小さく優美が呟いたのも仕方ないと思いたい。


「あ、あのー」


「は、はい。なんでしょうか」


営業スマイル。

が、若干ひきつってる。

フードの下で汗と思わしきものが光る。

暑いんじゃねえかという言葉を飲み込み自然体を貫く。


「優美さんですか!そうですよね!」


「え」


静止する優美。

声的にその人物は女性だったようである。

色々言いたいことはあるが、

一番の問題は一つである。


「…えっと、どなたですか…?」


「あ、こ、これで分かりますか!」


ぱっとフードを脱ぐ元怪しい人物。

その下にあったのは思いもよらぬ美人顔であった。

優美は千夏と一緒にいたおかげで目は肥えている自身はあったのだが、

世の中分からないものである。

とりあえず顔は分かったのだが、

問題が一つあった。


「…どなたでしょう?」


「え!ひどくないですか!?」


「…申し訳ないですが記憶にないです…」


目の前の人物は本気でショックを受けたような顔になる。

分からないとは思ってなかったようである。


「私です!小和です!ほら、お姉…千夏さんのファンクラブ作った!」


「…ああ」


ようやく思い出した優美であった。


□□□□□□


「いや本当に誰か分かりませんでしたよ。以前見た時と雰囲気違いすぎて」


「そんなに変わってないと思ったんですけれど…」


「いや変わってます。色々と」


リビングに移動して座って会話する二人。

以前から見た目だけなら深窓の令嬢とか言われていた小和であるが、

あれから何年も時が経った結果、

そこに大人びた色気だなんだが加わり、

千夏に負けず劣らずの美人に成長していたようである。


「ところで…なんでその厚着なんですか。最初不審者かと思っちゃったじゃないですか」


「え、いやこうお忍びで旅行的な」


「的なってなんですか的なって」


「でも実際に監視の目を逃れるのは結構大変でしたのよ」


「…ガチのお嬢だったりします?」


「そんなことないと思いますけれど」


なお、あくまでも本人の感性での感想である。

実際のところは定かではない。


「と、ところで…あの」


「千夏ですか?」


「そうです!おね…千夏さんはどこに…?」


「言いにくいなら高校時代の呼び方でも私分かりますから大丈夫ですよ?」


「い、いやさすがに今お姉さま呼びは…は、恥ずかしいです」


「高校時代はあんなに呼んでたのに?」


「こ、高校の話は穿らないでください!あ、あれは黒歴史に近いものなんです!」


「ということは千夏のことは嫌いになっちゃったんです?」


「そういうことではないです!その聞き方は意地が悪いと思います!」


顔がにやけている優美と、

顔が赤くなっている小和。


「しかしながら残念ながら、あなたのお姉さまはここにはもういませんよ」


「だからお姉さまとはもう呼びませんから…って、え?いない、とは?」


「千夏は既にこの神社から出ていっていますから」


「出ていった…?何故…?」


「千夏にも新しい家ができたもので」


「えっと、別邸ということでしょうか?」


「いや、別邸買えるほどウチに財源は無いです。千夏本人が結婚したんですよ。聞いてません?」


固まる小和。

どうやら初耳だったらしい。


「え、えええええ!今初めて聞きました!お姉さまっ!なんで私に知らせずにっ!」


「え、聞いてないんですか?」


「聞いてたら結婚式行ってました!お相手は!相手は誰なんですの!」


「…近いです」


「あ、すいません」


10年くらい前にしたようなやりとりをもう一度やる二人。


「えーっと茂光…って知ってます?」


「あ、あの大男!」


「ま、まあ確かに大男ですが」


「まさか本当にお姉さまを奪い去っていくとは…」


むぐぐと言った感じの表情を浮かべる小和。

嫉妬とかいうやつだろうかとか優美が考え始める。


「それならせめて結婚式の時に一発殴っておめでとうって言いたかったですわ!」


「いや殴っちゃダメでしょ」


「まあそこはお約束と言いますかなんといいますか」


「どんな約束だ」


思わずダメ口になる優美。

嫉妬かと思ったが違うらしい。


「というか小和さんって千夏の事どう思ってるんですか?やっぱり恋愛対象なんです?」


「え、えーっと…千夏さんは…お姉さまです」


「どういう答えなんですかそれ」


「高校時代は本気で追いかけてましたけど…今は好きは好きですけどあくまで友人と言うか先輩としてです」


「高校時代はガチだったことに驚きなんですが」


「あの時千夏さんが振り向いていたらまた違った未来になっていたかもしれません」


「それはそれで新世界ですね」


何とも言えない会話を続ける二人。


「それで、できれば千夏さんのその新しい家をお教え願いたいのですが…せめてお祝いくらいしたいですし」


「ん、大丈夫、行く必要はないと思う」


「ですが…」


「向こうから来る」


「え」


「優美ちゃーん。いるー」


「いるー」


「この声は…」


がらりと、音をさせながらリビングと外を直接つなぐ襖が開く。


「やっほ…あれ?」


「お ね え さ まっ!」


「小和ちゃん!?」


「おおすげえ一発で看破した。さすがお姉さま」


なお小和と千夏はある程度連絡はとっていたようだが、

結婚報告は忘れていたらしい。

抜けたお姉さまであった。



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