初対面
2025年10月のお話。
「いるかな…」
神社の石階段下。
どこか期待に満ちた面を浮かべる一人の青年。
周辺に住む人物はあまり見たことの無い顔であると答えるであろう。
それもそのはず、この人物は先日ここの神社周辺の土地に帰ってきたばかりであるので。
「連絡なしで来ちゃったけど大丈夫かなあ…」
石階段を上り始める青年。
相変わらず長い階段である。
青年にとっては思い出深い。
「ここをまたこんなふうに上れるなんて…はは、懐かしい」
青年の名前は純清翔也。
先日優美に告白して大成功した一部では話題の人である。
「…掃除の時間じゃないのかな?優美さんは朝一にやってるんだっけいっつも」
神社の境内に到着してみれば、
優美の姿は無い。
確かに優美の掃除の時間は朝方であるのでまあ不思議ではない。
「…ああ、子供たちの声がする。今も来てるんだなあ…懐かしい。今思えば、僕もあそこにいたんだっけ」
境内に響くのは子供たちの声。
相変わらずというかむしろ多少なりとも進んだ開発で、
余計に遊び場が減っているためか、
かつての時並みに子供たちの足取りが絶えることは無い。
「さてと、優美さん、いるかな」
拝殿の前を通り、あまり知る人のいない
優美の家の玄関へとたどり着く。
別に行こうと思えば誰でも行ける位置にあるのだが、
神社の裏側の方にまで行こうとか思う人物もあまりいない。
「…」
ピンポーンと、インターホンの音が響く。
その音が響いてからしばらくして、
どたどたした足音がかける音が聞こえた。
扉が横へとスライドし、開く。
「優美ちゃんおかえ…?」
「え?」
「…あれ?どちら様?」
「え…っと、あ、あなたこそ、どちら様で?」
なんか知らん顔がいた。
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「え、えっと、初めまして?佳苗です」
「は、初めまして。翔也です」
「優美ちゃんから話は聞いてたけど…まさかこんな形で会うことになるとは」
「えっと、佳苗さん?ですよね?高校の時の優美さんの友達だったという?」
「だったというか今も継続中だけどね!いやーいつか会いたいなーって思ってたけどここで会えるとは思ってなかったー」
場所変わって優美の家のリビング。
何故か当たり前のように居座っていた佳苗。
いきなりやってきた翔也。
二人とも面識無かったので当然誰?となったわけである。
「えーっと、優美さんは?」
「あ、優美ちゃんなら今出かけてるよー」
「佳苗さんが何故ここに?」
「いや、なんか遊びに来たら丁度良かった。しばらく家に居て。買い物してくる、って言われて放置されたんだよねー」
「ああ、そう言う事情が…」
「たぶんあと20分くらいしたら帰ってくると思うよ」
「待たせてもらって大丈夫ですかね」
「いいんじゃない?私の家じゃないけど優美ちゃんならノープロブレム」
「じゃあここで待たせてもらいますね」
ふうと一息吐き出す翔也。
なんというか彼女になった優美に会うと言うのはそれなりに緊張することだったのだろう。
ある意味拍子抜けである。
「ところで、えーっと…翔也君でいい?」
「いいですよ。優美さんにも千夏さんにもそうやって呼ばれてましたし」
「よっし、じゃあ翔也君。ずばり、優美ちゃんの10年約束彼氏と言うのは本当か!」
「…えーっと、もういいのかな?先日、返事貰いました。…正式に、優美さんの口から」
「ほうほう。で、答えは?答えは?」
「…オッケーを、貰いました」
「ということは優美ちゃんの彼氏とは翔也君だったのか!くー、イケメン捕まえたなあ優美ちゃん!」
「い、イケメンでもないですよ。むしろ僕の方が優美をずっと追いかけてたようなもんですし」
「10年間も追いかけてたの?」
「そうです。…忘れられなくて」
「くーそんな恋もあるんだねえ。ふふふ、帰ってきたら優美ちゃんにつっこも」
ものすごく楽しそうな佳苗。
こういう話は好きなのかもしれない。
千夏の時も聞いてきたし。
「ふふー偶然とは言えど、なんというかあの優美ちゃんの彼氏と会ってるのって不思議だなあ」
「え、なんでです?」
「いや、正直優美ちゃん男できないかなって思ってた」
「え。そんなことないですよ、僕含めていろんな人に好かれてますよね優美さん」
「確かにそうなんだけどさ。なんというか普通に友達として好かれてるのは間違いないし、別の意味での好意…翔也君と同じものを持ってる人もいたんじゃないかなーとは思うんだけど」
「だけど?」
「優美ちゃんあんまりそっちに興味無さそうだったからなあ…積極的にアタックしてく様な感じじゃないしねー」
「…そうなんですか?」
「ちなっち…ああ、千夏と違ってあんまり外にぐいぐい出てくるタイプじゃないしねー。それがまさか、10年も前に約束された恋人がいるとは驚き」
「まあ、約束と言っても子供心の向くままにしたものですけど…」
「まあ確かにそうだったみたいだけど、優美ちゃんそういうとこ妙に真面目だから。優美ちゃんに初めて翔也君の話聞いたとき、真面目に受け止めてたみたいだよ」
ちなみに、翔也の話を優美から初めて佳苗にしたのは、
例の夏祭りの日である。
散々佳苗に追いかけられたあげくに吐かされた。
足の速度では敵わなかった。
「しかしこれで私の親友は全員彼氏彼女持ちになってしまった。私どうすればいいんだ」
「千夏さんも彼氏できたんですか?」
「そうだよ?しかもいっつも一緒に居た私含めた4人グループ唯一の男とくっついたんだからね」
「知らなかった…あ、ということは、偶に見かけた大柄な男の人は…」
「なんだ、しっかり会ってるじゃん。そうたぶんその人。厳ついゴリラみたいな体格してるけどどこか小心者でねえ…私と優美ちゃんで無理やり告白の場を設けたのはいい思い出だわ」
「…優美さんも結構色々やってるんですね」
「まあもしかしたら善意の押し付けになるんじゃないかーとか思ってたけど案外うまく行って良かった良かった」
なおあの後合流した後にひっそり千夏と茂光から突っ込まれた。
しかし佳苗も優美も素知らぬ顔していたという。
ただし目は泳いでた。
「さーてと、なんだか色々喋ってたら…ほらそろそろ」
「え?」
「ただいまー!」
「ね、よしそこの襖の目の前に立つんだ翔也君」
「え?え?」
何故か佳苗に無理やり立たされてリビングの襖の目の前にセットされる翔也。
当然リビングに入るにはここを通る必要があるわけで…
「いやー川口ありが…うわあああああ!し、翔也君っ!?」
「え、えーっとー、お、お邪魔してましたー優美さん」
「いい彼氏じゃないですかぁ…優美ちゃぁん」
「な、え、な、なんで翔也君が…あとそのねっとりボイスやめんかいっ!」
初めての彼女の家への来訪の雰囲気ぶち壊しであった。
なお話しやすい空気にはなったので二人的にはむしろプラスだったとかなんとか。




