1章6話「ラブコメは人生のスパイスだ」
「よし、一旦休憩だ。水分補給しとけ。」
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……!」
「わたしは二回しか戦ってないのに、それでも疲れたよ……。
冒険者ってやっぱり大変な職業だね。」
休憩に入ってすぐ、陽斗と雨宮さんが地面に座り込む。
しずくも、雨宮さんの隣に座った。
しかし、息を整えながら、何か言いたいことがあるのか、
ちらちらと俺の方を見ている。
先ほどの戦闘を思い返す。
しずくは最初こそ、俺の近くで心細そうにしていたが、
しばらくすると少し距離を取り、魔物に鋭い視線を向けるようになっていた。
(俺の服の裾をつかんでいたやつ……あれ、めちゃくちゃ可愛かったな……)
俺は荷物から水の入ったペットボトルを取り出し、工藤先輩から言われたとおり水分を補給する。
もちろん忘れないように、パーティーのみんなにも給水を促す。
そして、からだをゆっくりほぐしながら、
先に休憩エリアで休んでいた他のパーティーを観察した。
ほとんどの生徒は地面に座り込み、中には体を投げ出して横になっている者もいる。
装備は外さないように指示されていたため、手元には置いているようだ。
しかし、周囲を警戒している気配はない。
(三年生の先輩たちは流石だな。
周囲を警戒しつつ、俺たち一年がしっかり休めるようにフォローしている。
先輩を中心にブリーフィングを始めているパーティーもあるから、
休憩が終わったら注意するつもりなんだろう。)
冒険者として正しい行動を、最初からできる人間はいない。
誰もが、失敗を重ねながら成長していくものだ。
そんなことを考えながら周囲を見回していると――
ひときわ有望そうな男女が一組、視界に入った。
(あの二人組、かなりやるな。)
二人はすでに息を整え終えて、立ち上がっていた。
他の一年生がぐったりしている中、彼らだけは妙に姿勢が良い。
見覚えがないから、おそらく他のクラスの男女だ。
男の方は、茶髪の柔らかい髪でメガネをかけており、体型はやや瘦せ型だ。
女の方は、派手すぎない茶髪でポニテ。メイクは薄めの、地味ギャル寄りの真面目そうな子だ。
お互いの距離感も近く、日ごろから信頼関係を築けているのだろう。
ただ――
お互いを意識しすぎて、逆に緊張している。
恋愛に緊張感は必要だが、意識しすぎると、逆に関係が進みにくくなる。
たとえば、相手の前だと急に敬語になったり、
普段は普通に話せるのに、二人きりになると急に黙り込んだり――
そういう “ ぎこちなさ ” が積み重なると、
お互いに「嫌われたくない」という気持ちばかりが先に立って、
一歩踏み出すタイミングを逃し続けることがある。
恋愛というのは、実は “ 勢い ” よりも “ 間 ” が大事だ。
この “ 間 ” が噛み合うと、一気に距離が縮まる。
逆に、互いに意識しすぎて “ 間 ” がズレると、
どれだけ相性が良くても、なかなか前に進まない。
でも、この二人は――
その “ ズレてる感じ ” すら、青春の味になってる。
だからこそ、見ていて飽きない。
この先、どうなるのか気になって仕方がない。
俺がそんな思考にふけっていると――
「さっきの戦い……その、すごかったよ。
あの横ステップ、めっちゃ綺麗だった」
女子は一瞬だけ目を丸くし、
次の瞬間、耳まで真っ赤にして俯いた。
「……そ、そんなことないよ……!
でも……ありがと……」
彼女は恥ずかしくて彼の顔を直視できず、
頬を赤くして横にそらしている。
しかし、その声は上ずっていて、嬉しさを隠しきれていないのが丸わかりだ。
彼が荷物を持ってあげて「このあとも頑張ろうね」と言うと、
彼女は「うん」と小さく笑った。
笑ってうなずくその瞬間、
彼女ははにかんだ笑顔をしながら、まっすぐ彼を見つめた。
その瞬間、彼は固まった。
彼女の " 可愛らしさ " にやられたのだろう。
そして二人は、同時に視線をそらした。
(んんんんんんんんんんんん――!!
満点!!
お客様!! その笑顔、満点でごぜぇます!!!!
恋愛に関しては超鈍感な草食系男子と、
恋愛に奥手で、超ピュアな、地味ギャル寄りの真面目女子。
この組み合わせだけでも、俺の超・大好物!
そこに追加される、自然体なやりとりのなかの、
ふとしたアクセンッッッッットゥ!!
――イッツ! ビューティフォー……!!
嗚呼、素晴らしきかなこの世界……!!
これを見られる俺、今日生きててよかった!!)
俺は、膝を抱えて転げ回りたくなる衝動を必死にこらえた。
そして、しずくからの呆れた視線にも気づかず、
ただただ、急に降って湧いてきたラブコメ成分を堪能するのであった。
(うおおおおおおおおお!!
良い!! こういうラブコメが見たかったのぉおおおおお!!)
◆
しばらくして、休憩が終わりに近づき、工藤先輩が全員を集めた。
「よし、集まってくれ。そろそろ休憩も終わりにしよう。
このあとは、帰り道に軽く魔物と戦いながらダンジョンを出る。
その前に、今日の簡単なフィードバックを返すぞ。
みんな、初めてのダンジョン探索にしては、全体的に悪くなかった。
これから個々の注意点を話すから、次につなげてくれ。
まずは陽斗。焦りすぎだ。
視野が狭くなってるから、もっと周りを見ろ。
落ち着けば、お前はもっと動ける。
次に雨宮。腰は引けてるが、基本はとらえている。
ただ、距離の取り方が悪い。
一歩下がるか、一歩踏み込むか、その判断を早くしろ。
次に水無月。終盤は思いっきりいけてたな。
ただ、攻撃が浅い。
相手の動きを見て、当てる角度を意識しろ。
最後に倫太郎。いい感じだったぞ、何かやっていたのか?
ただし、まだ緊張している部分があるな。
まずは今の動きを自然にできるまで繰り返せ。
その次の課題は攻撃力だ。
自分に合った武器を選んだあとも、それを意識するといい。
みんなにも言えることだが、
片手剣と小盾に慣れた後は、各自のスタイルにあった戦法・武器を選んでいく。
だけど、今回学んだことは無駄にはならない。いつか自分の力になるはずだ。」
工藤先輩のフィードバックを聞いて俺は、少しドキリとした。
(……何かやっていた、か。まあ、前世の経験があるからな。)
帰り道では、数体のホーンラビットが出現したが、特に苦戦はしなかった。
陽斗と雨宮さんは、先ほどの指摘を意識して動けており、
しずくも落ち着いて戦えるようになっていた。
攻撃を当てるための工夫も見られる。
(みんな、ちゃんと成長してるな)
そうして、俺たちは無事にダンジョンを出た。




