1章5話「初めての戦闘、そして――」
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「最初は俺一人でやる。戦わなくていいから、装備だけ構えて、よく見てろ」
工藤先輩が俺たちを下がらせる。
そのあとに、通路の奥で硬い何かが “ コツ、コツ ” と岩を叩くような音がした。
暗がりの向こうに、赤い光点が二つ浮かぶ。
「うわっ来た!」
「きゃっ!」
「――っ!」
他の三人も気づいたようだ。
暗がりから現れたのは、額に約15cmほどの黒い角が一本生えた、
小型犬ほどの大きさの、白い毛並みの赤目のウサギ。
――ホーンラビットが、「キュッ、キュッ!!」という鳴き声と共に姿を現した。
可愛い外見と鳴き声とは裏腹に、発達した後ろ足には筋肉が詰まっているようだ。
戦闘モードに入った瞬間、さっきまでの慎重な足音が嘘のように消え、
地面を「ドン!」と蹴るたびに、3mほどの距離が一瞬で縮まり、砂が大きく飛び跳ねる。
(……あれ? 思ったより冷静だな、俺)
「ホーンラビットだな。Fランクの中でも弱いが、突進力だけは侮れねぇ。
真正面から受けるな。横に流すのが基本だ。」
工藤先輩はそう言い、
ホーンラビットが地面を蹴った瞬間に半歩だけ横にずれ、
バットで横腹を軽く叩いた。
ホーンラビットはそのまま転がり、動かなくなる。
「これで終了っと。まあ、こんなもんだ。」
そして流れるように、魔物の素材部位を確保していく。
「ホーンラビットの素材部位は、角と毛皮と魔石だ。
時間が惜しいから、毛皮を取るのは今回だけだな。」
「ダンジョン内で討伐した魔物は、ある程度の時間がたつと、
かすかに光る赤い粒子のようなものに包まれたあとに、
粒子ごと消えて魔石が残るっていう話だ。
さぁ、時間も惜しいし、次の獲物を見つけにいくぞ。」
そして、工藤先輩の後を追うようにして、俺達はダンジョンの探索を続けた。
しばらくすると、次の魔物が現れて、たいして苦労せずに工藤先輩が倒す。
このダンジョンの1階層には、ホーンラビットが基本的に1体ずつしか現れないようだ。
倒した魔物が片手で数えきれないぐらいになると、
工藤先輩がこちらを振り返りながら言った。
「よし、せっかくだから一人ずつやってみろ。……倫太郎、いけるか?」
「え、俺ですか?」
しずくが、俺の服の袖をぎゅっとつまむ。
その指先が微かに震えているのが分かった。
「……まあ、やってみます。」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
通路の奥から、また “ コツ、コツ ” と音が響く。
おそらく、現れるホーンラビットは次も1体。
「うわっ、また来た!」
「り、倫太郎くん……気をつけて!」
陽斗と雨宮さんは、まだ魔物の出現に慣れていないのか、
戦うというより “ 見入ってしまっている ” 様子だった。
そして……しずくさんは、なんで袖をつかんだまま睨んでくるんですかね。
(……今は戦闘に集中しよう。)
「しずく、危ないから少し離れていて。」
しずくが不満げに俺から離れていったあと、
ホーンラビットが地面を蹴り、一直線に突っ込んでくる。
(来る……!)
俺は半歩だけ横にずれ、木剣を構える。
体が自然に動く。
前世の経験が、反射として染みついているのが分かった。
「はっ!」
横腹に木剣を叩き込むと、ホーンラビットはバランスを崩して転がった。
久しぶりの戦闘に、工藤先輩よりは動きにぎこちなさが残るが、魔物には十分に対処できている。
だが――浅い。
俺は決して油断せず、魔物に追撃を行った。
ホーンラビットは再び動き出すことができず、その場に倒れた。
「おお、いいじゃねぇか。初めてでこれなら十分だ。」
工藤先輩の声を聞いた瞬間、
張りつめていた糸がぷつりと切れたように、全身から力が抜けた。
呼吸が一気に荒くなり、額に汗が流れ落ちる。
どうやら、思った以上に緊張していたらしい。
固く握っていたこぶしをゆっくり開き、
体に入っていた余計な力を抜くように深呼吸をする。
「うぉおお!すっげえ! やったな、倫太郎!!」
「倫太郎くん、すごい……!」
「よかった……。倫太郎にケガがなくて。」
そういえば、これがこの世界で初めて魔物を倒した瞬間か。
4人に褒められて、じーーんと心に温かいものを感じた。
あれ、俺、いま めちゃくちゃ かっこいいんじゃね。
「今年の一年生は優秀だな。
……じゃあ、次は陽斗いくか。
倫太郎は、少し離れた位置で、俺と一緒にフォローで控えててくれ。
ただし、声をかけるまでは、手は出さなくていい。」
「はい! 俺やります!!」
「わかりました。 工藤先輩!」
そこからしばらく、一人ずつで、魔物との戦闘を何回か繰り返した。
最初は緊張していた皆も、初めて魔物を倒した後は、徐々にいつもの調子に戻っていった。
そうして一時間が過ぎ、皆が魔物との戦闘に慣れたころ、
工藤先輩が休憩を提案してくれた。
ダンジョンにセーフゾーンはない。
そのため、比較的襲撃に備えやすいエリアで休息をとるか、
複数のパーティーで集まり休憩をとることが多い。
今回は後者だ。
ある程度、休憩をとるタイミングを決めていたのだろう。
足場が比較的平坦で、片側が壁となっているスペースに移動すると、
そこには、すでに他のパーティーが休んでいた。




