4章6話「ダンジョンへの挑戦と攻略方法」
キャンプ地では、複数の一年生パーティーが、焚き火の周りで楽しそうに暖をとっていた。
彼らは既に、テントの設営も夕飯も取り終えているらしい。
それに比べて俺たちは、キャンプ地に遅れて到着したため、これからやらないといけない。
「湊と陽斗はテントの設置を頼む。
しずくと雨宮さんは夕飯の準備をお願い。
白石さんは、他のパーティーと見張り当番の調整をお願いできる?」
俺たちはテントの設営場所を確認すると、作業分担をして、慌ててテントと食事の準備に取り掛かった。
「この辺りなら……小石をどければ、なんとかなるかな……」
「腹減った……さっさと設置して飯にしようぜ……」
湊も陽斗も一日中、前衛で魔物の足止めをしている。
相当疲れているのだろう。 いつもの元気がない。
陽斗なんかは、寝袋に入ったらすぐ寝てしまいそうだった。
テントを張るにしても、このダンジョンは “ 地下遺跡型 ” だから、地面が固くてペグを打ち込むのは難しい。
だから学園側で、床にテント固定用の金属リングを一定間隔で埋め込んでいる。
テントの組み立てと金属リングでの固定が終わり、ひとまず寝床の確保が終わる。
こちらは、二人に任せておけば問題ないだろう。
「……お湯が沸くの待てない。夕雨ちゃん……もう入れていいかな……?」
「……しずくちゃん、気持ちは分かるけどあと少しだよ……?」
焚き火の残り火を分けてもらい、火を起こした調理スペースでは、しずくと雨宮さんが夕食の準備を始めていた。
しずくも、表情には出さないけど、疲労が溜まっているのだろう。
いつもなら料理の手順を飛ばしたりしないが、疲れている日は結構簡単な料理で済ませようとする。
……雨宮さんは、育ちが良いんだろうな。
疲れていて元気がない時でも、手は抜かないタイプみたいだ。
そんな仲間たちの様子をみているうちに。
ようやく俺は、一日が終わった実感が沸くのを感じた。
……俺が仕事をしていないって?
火をもらってきたり、道具を出したりとか、小さい仕事をいろいろやっているよ?
地面にシートを敷き、お皿やスプーンの用意を始める。
しばらくすると、料理ができたらしく、調理スペースから良い匂いがしてきた。
テントの設置も終わったらしく、湊と陽斗もこちらに歩いてきている。
「倫太郎。こっちは終わったよ。」
「良い匂いだ……腹減った……」
「お疲れさまでした。夕飯の準備ができましたよ。」
「おまたせ、みんな。ご飯にしよう。」
後は白石さんが揃えば全員だな……
そう思っていると、話し合いも終わったらしく、白石さんが戻ってくるのが見えた。
見張り番については、食事後でいいと白石さんから言われて、みんなで食卓を囲う。
「いただきます。」
それぞれが小さく呟いて、食事が始まった。
夕食は、固めのパンと干し肉、そしていつもより大盛りの温めたスープ。
……正直、大盛りのスープはありがたい。
今日はすごく動いたけど、疲れているから硬いものはあまり食べれる気がしないんだ。
「……」
温めたスープが胃に優しく沁みる……。
あまり食欲がないと思っていたけど、食べ始めると手が止まらなくなるんだよな……。
「……」
「……」
会話がない。
いや、食事中に会話をする必要はないんだけど、なんていうか空気が重い。
……理由は分かっている。
上層でも自分たちは通用すると思っていたのに、全然うまくいかなかった。
今日のペースでいけば、中層への階段までは、少なく見積もっても1週間はかかる。
それも、ペースが落ちなかった場合だ。
奥へ進むほど人は少なくなるから、戦闘の頻度も多くなって進むペースも落ちるだろう。
「……ねぇ、食事の後に少し良い?」
白石さんが、少しためらいながらもみんなに話を振る。
見張り番の話し合いから帰ってきた彼女は、どこか様子がおかしかった。
何か、あったのだろうか……。
「……うん。もちろん良いよ。
みんなも、何か気になることがあったら、今日のうちに話してしまおう。」
「……私も賛成。
今日一日で、いろいろと分かった気がする。」
周りを見渡すと、仲間たちはゆっくりと頷いてくれた。
他のみんなもそれぞれ思うところがあったのだろう。
そして、誰かが話をするでもなく静かな食事が終わる。
「……じゃあ。食事も終わったから話すね。」
重い空気を振り払うように、白石さんは努めて明るい雰囲気で話し出した。
それは、見張り番の話し合いの時に聞いた話で。
満足に探索できない現状を打破できる、提案ともいえる内容だった。
「さっき、他のパーティーに聞いてみたの。
上層の探索、大変じゃないですか? って。
そしたら『そうでもないよ』ってみんな言うの。」
「……他のパーティーね。
みんな、一緒に組んで探索しているみたい。
それで『ウチもどうですか?』って誘われたの。」
白石さんは、一息置いてまた話し出す。
「……戦う時は二パーティーが協力して戦って、残りの二パーティーは周囲を警戒するの。
今、もう一パーティーにも声をかけていて、そこは二日かけてここまで来たんだって。
ウチも入れば、今度は三ローテで回せるみたいなんだけど、みんな……どうかな……?」
白石さんの話が終わり、ようやく理解する。
俺たちは、まだ一年生なんだ。
“ ダンジョンを複数パーティーで攻略するやり方 ” だって、決して悪いことではない。
「……僕は、賛成かな。
今のままだと、戦闘の負担が大きくて、効率が悪い気がする。
澪も、どちらかというと賛成なんだろう?」
「……うん。
私も湊と同じで、戦闘の負担が大きくて、ちょっと危険かなって。」
湊と白石さんは賛成派か。
「……俺は、よく分かんねーな……
疲れてて、うまく考えらんねぇ……」
「……私は、みんなが良いなら、それでも良いと思うよ……」
陽斗と雨宮さんは中立の立場のようだ。
俺は……どうなんだろうか。
――どちらが、 “ このパーティーにとって正解 ” なのだろうか。
「……私は、反対。」
俺が悩んでいると、しずくが強い意志でそう言った。
「そのやり方でも、このダンジョンは攻略できると思う。
でも、私たちが冒険者を専業でやっていくなら、この先は厳しくなると思う。
……今は大変かもしれないけど。
Eランクの魔物がたくさんいたって、一人で相手にできるくらい強くなりたい。」
しずくが言うことはその通りだった。
そもそも “ パーティーでの戦闘が推奨されるのはCランクの魔物から ” なんだ。
Eランクの魔物相手に苦戦しているようじゃ、近い将来、命を落とすだろう。
でも、強くなるためには、 “ 多少無理でも戦闘経験を積んでいかないといけない ” 。
そしてそれは、 “ みんなを危険にさらす選択 ” でもある。
それに、湊と白石さんは家族のために稼ぐ必要がある。
安定した収入を得られないことは、苦渋の選択になるだろう。
その後も俺たちは、しばらく話をした。
でも、結局その日のうちに結論は出なくて。
一晩明けて、もう一度みんなで話し合おうということになった。
夜が深まり、静かになったダンジョンの中で。
遠くに見えるたき火の炎が揺れ、木が燃えてはじける音がかすかに聞こえる。
――これから、俺たちはどう進むべきなのか。
テントの中に薄く伸びる影が、どこか冷たさをもって近づいてる気がして。
胸の奥がざわついて、うまく眠ることができなかった。




